お泊りの夜
あの後……ジョゼフさんの誤解を解くのに苦労し、
一時、街を離れても結局返ってくる予定なのだから、アリスには魔眼は効いてなかったことをばらすことにし、
目が覚めて対面を嫌がり暴れるアリスをひっぺがし(色々と柔らかかった)、
お互いのわだかまりが解けて本当の家族になる様子を横から鑑賞し、
「これからどうするつもりだったのか?」というジョセフさんの問いに「一人でこの街を去るつもりだった」というアリスを3人で説教し、
「今日は泊まって行きなさい」というリリーさんの好意に甘えて、俺は客間のベッドにいる。
ぼーっとこれからのことを考える。
「生身の女の子と一緒の旅」という事実に気づいて若干焦ったりもしたが、宿屋で部屋を別にすれば別段問題はないと結論づけた。
「アリスと一緒に旅をすることになったけどよかったのか?」
とミームに聞くと
「アリスは私の知らないことを色々知っているので教えてもらうのが楽しみです!」
と返ってきた。
ほんといつの間にか仲良くなってるなぁ……と思いつつ、変な知識は教えないようにクギをさしておかねばならないな、と心のなかでメモしておく。
そうこうしていると、コンコンとドアがノックされた。返事を返すとアリスが枕を抱きしめて入ってくる。
そのままスタスタと俺の側まで歩いてきてベッドの縁に乱暴に腰掛けた。
しばらく枕を抱え込み、時々何かを言いたそうにこちらをチラチラうかがっていたのだが、やがて決心もついたのか「ふー」と一息吐くと、
「……今日は色々とありがとう」
と言ってきた。照れているのかこちらを向いていないが。
「ん、まぁ、あれだ。気にするな」
と答えておく。というか改めて礼を言われるとかむちゃくちゃ恥ずかしい。アリスが顔を合わせようとしないのもわかる。
それに俺はただ付いて来ただけだしな。
そんな俺の照れを謙遜と受け止めたのかアリスは続ける。
「私一人だったらきっとこんな幸せな結果にはならなかった」
「…そうだな。ちょっと一人で抱え込みすぎたな」
自分の行いを振り返るアリスに同意する。いくらなんでも一人で街を出るというのは旅に出たことのないお嬢様にはきつい選択だ。
そこまで追い詰められていた…ということなのかもしれないが。
「お前はもうちょっと人を頼ってもいい」
「うん。だからこれからよろしくね」
そう言って手を差し出してきたので「こちらこそよろしく」と言って体を起こしその手を握り返す。
アリスがこの街を出るというのは決定事項だ。あの後説得したが結局アリスは折れなかった。
それに俺が護衛としてついていくことになった事もアリスは承諾済みだ。
手を握り合いなんかちょっといい雰囲気になったところで、ミームが握った手の上に降り立って「私もよろしく」と言い放つ。
それがなんだかおかしくて二人してしばらくの間笑いあう。
ミームは最初はてなマークを浮かべオロオロしていたが、笑い続ける俺達に怒ってすねてしまった。
すねてしまったミームを何とかなだめ、今はアリスが「ミームもよろしく」と指を差し出している。
落ち着いたところで、俺はアリスが部屋に入ってきた時から気になっていたことを質問した
「それにしてもアリス。なんで枕なんか持ち歩いてるんだ?」
俺の家にいた時はそんなことはしなかったはずだ。
「あ~、えっと~これは……」
「旅に出たら宿屋に泊まることになるじゃない」
「そしたらベッドが一つなんてことがあるかもしれないじゃない!」
「つまりこれは練習よ!練習!」
後半は早口でまくし立てる。なんだ?まさか同じベッドで眠るつもりだったのか?
「別に普通に二部屋借りればいいだろう」
と俺が言うと、「え?」としばらく呆けていたのだが俺の言うことが理解できたのか顔を赤く染める。
大方、その考えはなかった、というところだろうか。
だがアリスは顔を真っ赤にしたまま反論してきた。
「だ、だめよ二部屋なんて!旅費がもったいないわ!それにいつも二部屋空いているとは限らないし!」
「別に一部屋でも俺がソファーか床に寝てもいいだろ。俺の家でやってたみたいに」
「え、そうだけ……いやいやだめよ!護衛を床に寝かすなんて!」
「おい、言ってることがめちゃくちゃだぞ。あ、やっぱだめだ。年頃の男女が同じ部屋に二人というのはまずい。俺は扉の前ででも寝るわ」
「と、とびらのまえ……な、なによなによ!私がせっかく恥ずかしいのを我慢してここまで来たっていうのに!シジは私と同じベッドで寝たくないの!」
(一緒に寝ると我慢できそうにないからまずいんだよ……)
荒ぶるアリスに俺はどうやってなだめすかそうかと考えていると、
「へぇ、君はこの娘と寝たくないんだ」
「いやそういう訳じゃなくて……いやいや、そもそも一緒に寝るのが色々とまずい」
「じゃぁ僕とならどうだい?」
「僕とならって……」
俺は声のしてきた背中に向かって振り返る。
そこにはアリスを大人にしたような女性がベッドの上にいた。




