ホントは分かってたよ
あの後アリスは泣きつかれたのか眠ってしまった。
この首輪のせいで力を使うと疲れやすいと言っていたがそれもあるのだろう。
ただし、眠る直前に俺によりかかったまま「エッチなことはしちゃダメなんだからね」というのを忘れずに。
うん、かなり不条理を感じるがいつものアリスの調子が戻ってきたことを喜ぼう。
今はミームが出てきてアリスの頭をいい子いい子している。
「あーちょっといいかね?」
びっくりして顔を向けると魔眼にかかったはずのアリスパパ、ジョセフさんだ。
リリーさんも心配そうにこちらを見ている。
……ちなみに今の状態は俺がアリスを抱きしめているような格好だ。非常に気まずい。
「アリスの力は効かなかったんですね」
「実は最初から効いていなかったと言ったら君は驚くかな?」
これには驚いた。実はだんだん効果は薄れていってるのではとは考えていたが……
ジョセフさんは眠りこけたアリスの頭を優しく撫でながら、
「初めて目にした時はどこにも行く宛のない、親をなくした子供のようでね…」
そう言ってジョセフさん達は昔のことを語ってくれた。
――病弱だった自分の娘と似ても似つかぬ子供がいつの間にか娘として家にいたこと。
――びっくりしたが娘を亡くした気持ちを紛らわせられるならなんでもよかったこと。
――最初は何かに怯えていていつも二人のベッドに潜り込んできたこと。
――そんなときには抱きしめてやるとやわらかな笑みを浮かべて眠りについたこと。
――好き嫌いが多く食事の内容に頭を悩ませたこと。
――勉強が嫌いでいつも先生を怒らせていたこと。
――物語が好きでよく子供に聞かせるような話をせがまれたこと。
――ジョセフさんとリリーさんの秘蔵の書物をこっそり盗み見ているつもりが完全にバレバレだったこと。
――暗く悲しい時には明るく笑わせようとしてくれたこと。
――こちらが好意を返すとほんとうに嬉しそうな顔をすること。
――定期的に魔眼をかけ直す時とても悲しい顔をすること。
――時々「ごめんなさい」と繰り返し謝りながら一人で泣いていたこと。
――最近になってようやく屋敷の外に出かけるようになったこと。
――二人への贈り物を買いに出かけた後に行方不明になったこと。
――捜索をかけようとしたら何故か横槍が入り今まで状況が動かなかったこと。
話を聞くほどに二人がアリスを大事に思っている気持ちが伝わってくる。
「……先ほどの君とのやりとりでこの子が何者かに狙われているというのは分かった。
だがそいつはそれほど恐ろしい存在なのかね?」
「……わかりません。
ただ……捜索に入った横槍がアリスの魔眼に類する能力の影響だとすれば……それは無視できないと思います」
言いながら気づく。俺はアリスの言葉をどこか軽く考えていなかっただろうか?
アリスは「力を奪われた」といっていた。
なら同じような能力を相手が持っていても不思議はないんじゃないか?
……それに「皆殺しにする」ともいっていた。
俺は内心、大げさすぎると思っていたが……本当にそうか?
街の中だということ。悪魔は使役されるような存在だということ。そういう所だけを見て敵対するであろう相手を低く見ていなかったか?
俺が考えこむ姿を見て不安になったのだろうか、ジョセフさんは俺の実力を聞いてきた。
実力と言ってもこの場で戦うわけにもいかないので冒険者カードを見せる。
「その年で赤銅色とは大したものだ」
赤銅色と行っても黒っぽい赤色なんですけどね。
ギルドランクで言えば上位の入り口付近からちょっと上というところだ。
つまりギルドに貢献していて知名度もそこそこある、と言っていい。
カードを確認した後、二人は俺に依頼を出してきた。内容はもちろん言うまでもないだろう。
だがそれを受けるということは原因が排除されるまでアリスとずっと一緒ということだ。
俺はしばらく考え込んでいると
「シジ~。そ、そんな無理矢理だなんて~。い~や~」
とアリスの寝言が聞こえてきた。
は~、こいつは夢の中でまで好き嫌いをしやがって。せっかく作ったんだから残さず食えよ。
気がつけば「しょうがないやつだな」と微笑んでいる自分がいた。
アリスと過ごした一週間。色々ドタバタしたがまぁ悪くはなかった。
それにいい機会だ。この大陸をいろいろ見て回るのもいいだろう。
「わかりました。2,3年の期限付きでよろしければその依頼お受けします」
俺は答えを返す。
ジョセフさんはひきつっていた顔を戻し…なんでひきつっていたんだ?
リリーさんはなんかニコニコしてるし。
次に報酬の話になったが、
「相手の実力もわかりません。無事帰ってきた時、相応のものを頂きます」
と言うとジョセフさんの顔がまたひきつって……おや?そんな変な条件出したかな?
……俺は旅をする資金は十分にあるし、相手と出くわさなければただ長期護衛任務だ。
出くわしたとしても悪魔相手の報酬の基準とかギルドでは規定されてないし。
俺自身の観光も一緒にするし、アリスがよほど無駄遣いをしなければそんなに請求するつもりはないんだけどなぁ……
リリーさんは「まぁまぁ」とさっきよりも上機嫌だ。
なんだ?俺なんか変なこと言ったか?
報酬内容についてジョセフさんは「やはりはっきりと決めたほうが……」と渋っていたがリリーさんに押し切られた。
さて、依頼内容もまとまったところで……という場面でジョセフさんは真面目な顔になり、
「ところで……うちのアリスとはどういった関係かね?」
……そう聞いてきたジョセフさんはとてもいい顔をしていた。




