偽りにお別れを
あれから一週間……目が覚めると俺の下半身をガン見しているアリスの頭を叩いたり、3人で食料品などの買い出しに行ったり、鍛錬の後上半身裸の俺を見て照れながらもこちらをチラ見するアリスに呆れたり、アリスの衣類を購入したり、足のマッサージをするミームに余計なアドバイスをするアリスを止めたり、なんでも食べると行っていた割に好き嫌いの多いアリスに無理やり食べさせたり、俺のタンスを物色して下着を広げて顔を赤くしているアリスにでこピンしたり…アリスお前絶対エロ悪魔だろ!
……ともかくアリスはずいぶんと我が家に馴染んだ。
さてそろそろアリスの処遇を決めなきゃなと考えているところにその噂はやってきた。
「マルガレット家が行方不明の一人娘を探している」と。
マルガレット家というのはアリスが俺の前に隠れ蓑にしていた貴族の家だ。
なんでも貴族らしい方法で探索依頼をかけたらしく、王都の衛兵も動き出しそうという情報をぐぐーるさんから入手した俺は、とりあえずアリスに話してみることにした。
「で?どうするんだ?戻らないのか?」
「ぐぬぬぬ。人の体をこんなに弄んでおいてよく言うわ!」
人聞きの悪い。ただ首輪をつけただけである。その気になれば外せるし。
「はぁ…一応会ってお別れをいいましょう。このままだと余計な人からも追いかけられることになりそうだし」
というわけでマルガレット家である。
一応冒険者ギルドにも来ていた依頼を通しての形である。
さすが「謎解き人」だ!だなんて言われたが今回は関係ない。ただ保護していただけである。
アリスに「なんで捜索依頼を出すのにに一週間かかったんだ?」みたいなことを聞けば
「んー普通なら魅惑の効果が切れたらそのまま忘れちゃうんだけどね」とのこと。どうにもアリスにも想定外らしい。
魅惑の魔眼を使うことになるかもしれないとのことで魔眼の力の行使を一時的に許可してある。
……うん、従魔の首輪で魔眼の能力も抑えられちゃったんだ。
あと他にアリスが使えた能力もあるんだがそれもほとんど使えなくなってしまったらしい。
俺達は応接間に通されると俺たちは「アリスパパ」「アリスママ」が現れるのを待つ。
応接間におかれた品は特に成金趣味といううものでもなく比較的落ち着いた印象の調度品がおかれていた。
少なくとも悪いイメージでの貴族ではなさそうなことに安堵する。
しばらくして応接間に現れた二人は初老に差し掛かった人の良さそうな夫婦だった。
「アリス!」
「パパ!ママ!」
と二人に向かって走って行き飛びつくアリス。
「無事でよかった。あまり心配させないでおくれ。街中で男に襲われていたという噂を聞いた時には気が気ではなかったのだよ」
……それって俺のことじゃないですよね……と冷や汗が出る。
そういや初めて出会った時にはおしりを揉みしだいていたそうだからなーと半ば他人ごとのように思う。
「彼は?」
と聞くアリスパパに
「ええ、そのとき「いろいろと」お世話になったシジ・ペントトリーさんよ」
と答えるアリス。
アリスのやつ「いろいろと」をわざと強調して言いやがった!
「ジョセフ・マルガレットだ」
「リリー・マルガレットです。娘が大変お世話になったそうで」
二人が名乗ったのでこちらも改めて名乗り返しておく。
その後3人は仲良く話し始める。
うーんこうやって見てると仲の良い親子に見えるんだけどなー。
このままこの家でかくまってもらうってわけには……いかないんだろうな……アリスが納得しない。
俺はアリスの話を思い出す。
そもそも悪魔というのは人間見下しがデフォで気にも留めない輩達ばかりらしい。
だからもしアリスを追い回している悪魔が直接ここに来て匿っているのがバレたならきっと皆殺しにされてしまうだろう。
それは避けたい。というのがアリスの言い分だった。
しかしアリスを見ていると人間見下しがデフォだなんてのはどう考えてもつながらない。
異性に興味津々なエロ悪魔だしな!
それにそもそもこの人達を巻き込みたくないというのが大切に思っている証だろうに。
アリスが特別なのかそうでないのか…ぐぐーるさんに聞いても人と契約した悪魔の情報ばかりでそうでない悪魔の情報はおどろくほど少ない。
契約した奴らは大概従順であるとは出てくるが…。
というか悪魔の情報自体詳しいことになると驚くほどヒットしない。
悪魔情報にはデフォで検索よけでもかかっているというのだろうか…
3人の話を聞いているとだんだんアリスの言葉が少なくなってくる。
「…そう、だから…私の事忘れてくださいっ!」
アリスの眼が光る。魅惑の魔眼を使ったか…それにしてもアリス…お前泣きそうじゃないか。
光が収まり二人の手がダラーンと垂れ下がる。
アリスはこちらを向くと
「さあ、おしまいよ。帰りましょ」
と俯きながらそういった。
こちらと顔を合わそうとしない。こんなアリスは初めてだ。
「なぁ、コレで本当によかったのか?」
「いいも何もないの。巻き込まないためにはこれしかなかったの」
それは必死に自分を納得させているようで
「…じゃぁなんで泣いてるんだ?」
俺は言わなくてもいい言葉を言ってしまった。
「泣いてなんかない」
顔を上げこちらを向いたアリスはたしかに泣き顔で、だがそれを必死に押しとどめようとするその形相に俺は掛ける言葉が見つからなかった。
「これでよかったの」
「これしかなかったの」
「私は追われてるの」
「追いかけてくる奴の手下に見つかっちゃったの」
「この街にいるのがバレるのも時間の問題」
「このままじゃ二人を巻き込んじゃう」
「大切な人を巻き込んじゃう」
「そんなのだめ」
「絶対ダメ」
「私は悪魔だから」
「人のことなんてなんとも思ってないから」
「私のことが二人から忘れられたりしてもっ!」
「……だから泣いたりなんてしないの」
涙声で叫ぶアリス。俺は自分の迂闊さを呪った。
アリスの心情を考えればそっとしておくのが一番だったろうに。
この状況をどうにかするには
……ただ悲しみを癒やすように抱きしめてやればいいのか……
……親が子をあやすように頭をなでてやればいいのか……
……どちらも上っ面だけを見ぬかれてアリスに拒絶される……
そんな考えが頭をグルグルとよぎって……気がつけばアリスを自然と抱きしめていた。
「あー、うん。いい匂いだ」
「……」
「後柔らかい」
「……」
「……いつものアリスならこれで反応があるんだけどなー」
「……」
「……俺の知っているアリスはエロいからな」
「……なによそれ…」
「俺の裸をチラチラ盗み見るわ俺の下着を物色するわ」
「そ,それは今は関係ないでしょ!」
「一週間過ごしただけだけど頭のなかがもうエッチな妄想であふれていて」
「ちょ、私そんなんじゃない!」
俺の腕から逃れようとするアリス。
俺は抱きしめる力を少し緩めるとアリスと目を合わせ次の言葉を言う。
「自分の欲望に正直で」
「だから悪魔でも泣いていいんじゃないかな?」
……我ながら支離滅裂な理論だ。
俺の言葉を聞いたアリスは怒ったような呆れたような……また泣き出しそうな顔を繰り返した後……俺の胸にストンと顔をうずめた。
「いいのかな?悪魔が人に忘れられるのが寂しいだなんて思っても」
「いいのかな?悪魔が人に忘れられるのが悲しいだなんて思っても」
「いいのかな?大切に思っている人と二度と会えなくなることが辛いだなんて思っても」
「いいと思うぞ。自分の欲望に正直だなんて悪魔らしいじゃないか」
「そっか……じゃぁ……な゛ぃて゛ゔぉぃぃよ゛ね゛」
そう言うとアリスは俺の胸で……いやこれ以上言うのは無粋だな。俺は声を上げ続けるアリスの背中を優しくなでてやるのだった。




