SEKKYOU
こういうのもSEKKYOUというのだろうか?
パチーンパチーン
何かを叩く音が聞こえる。目の前にはリリアの顔。
リリアが腕を振りかぶるとまたパチーンパチーンと音が響いた。
……頬が熱を持っているのを感じる。ああ、俺は叩かれてたのか。
リリアがまた腕を振り上げたのでそれを止める。
「痛い……」
「痛いだけで済んでよかったわね。あんた何考えてるのよ!あの場面で敵に向かって突っ込んでいって!あやうく死ぬところだったのよ!」
リリアが怒った顔で俺を睨みつける。だがそれは同時に泣き顔でもあるようであり……ああ……なんかかわいいな…ぼやけた頭でそんなことを考える。
「その剣……ミームさんには感謝しなさいよ。その剣がなければあんた死んでたんだから。」
「私達もですけどね~」というこの声はルナーだろうか。
「そんときゃこいつをおいて逃げればよかったのよ。」逃げる……ニゲル……徐々に頭が覚醒していく。そうだ、俺はあの時……
「あの後どうなった?」
俺の問に目を合わせると「どこまで覚えてる?」と聞いてきた後であの後のことを教えてくれた。
あの時、最大威力で敵の攻撃をかき消した魔力喰いの影響が残ったままだったため魔法がかき消され俺は敵の攻撃をもろに被弾。
その後なんとかミームに魔力を通し魔法の通じない空間を形成した俺を盾にしながら各階に設置されている避難所まで引っ張ってきたそうである。
ウィル・オー・ウィスプたちは何故か俺にしか攻撃をしてこなかったので二人には傷はないそうだ。
ホッとすると同時に手が震えだす……これはまさか……”恐怖”しているだと!……その後も震えは止まらずやがて体全体に行き渡り……俺は体を抱かえこんだ。
そうしていると影が差しリリアの声が聞こえる。
「あんた今まで魔物に苦戦したことは?」
「ない……いつも一撃で倒していた……」
「……攻撃を受けたことは?」
「ない……子供の頃からほとんど一体づつ相手にしてたからダメージを受けたのは今日が初めて……」
「……攻撃を受けてどう思った?」
「痛かった。今まで受けたことのない痛みで意識が飛びかけた……いやほとんど飛んでたのかな……」
「死ぬことについてどう思う?」
死……死ぬ?俺が?え?だって俺は転生してチートももらって楽して人生イージーモードで……
……先ほど攻撃を受けた時の状況がフラッシュバックする……死ぬ?俺が死ぬ?
「俺は……死ぬのか?」
顔を上げリリアの顔を見る。俺の目にはいつからか涙が流れていた。声だってかろうじてかすれるようにひねり出したようなものだ。きっと顔もクシャクシャだろう。
そんな俺にリリアは子供をあやすように
「死ぬわ。さっきみたいな無茶を続ければね」
微笑みながらそういった。
その声が優しくて……厳しくて……俺はリリアの胸でワンワンと泣いた。
……ようやく泣き止み……リリアはその間ずっと背中を撫でていてくれた……恥ずかしい……俺は二人にさっきの戦闘での軽率な行動を謝った。
ふたりともしょうがないなぁという生暖かい目で許してくれた。やめて!そんな目で俺を見ないで!
ミームにもお礼を言った。俺が助かったのは紛れも無くミームのおかげだ。
「い、いえ…私のことすべてをお教えするのを後回しにしていたのが悪いのですから…」と何故か謝られた。
「そんなことはない。これからもよろしく頼む。」というと顔をふにゃ~ととろけさせて「は、はい!ご主人様のために誠心誠意尽くします~」と返事をくれた。
「うっゎ。ミームさんってあんな顔もするんだ」
「ちょっと意外ですねー」
俺はふたりきりの時にこういったミームを見ているから特に違和感はないがこの二人には意外だったようだ。
それから地上へ戻ることになった。俺が受けていたダメージは回復魔法で治してもらっている。
俺は無理をせず魔物が複数出てきた時は何体かは二人に任せた。二人もそれに文句をいうことはなかった。
帰る途中いろいろな話をした。学校の授業のこと。授業では出てこなかった迷宮内でのこと。迷宮でパーティーを組んだ時の苦労話など。
男達が時々いやらしい目で見てくるのはどうにかならないかともいわれたがそんなの俺に言われても困る。
そんな話をしながら迷宮の外に出た。日は沈みかけ空が赤ばみ始めたところだった。俺は伸びをして深呼吸をする。迷宮内のこもった空気てはない新鮮な空気が俺の肺を満たす。ああ、生きているんだな…不思議と死への怯えはなかった。
そんな俺にリリアはこういった。
「で、これからどうするの?」




