A
「あー、肩こる」
出た、こいつの口癖。
「何それ、自慢?」
分かっていて、私もつい嫌味な返しをしてしまう。
「違うって。いつものだよ」
「いつもの、ね」
ふーん、と鼻を鳴らす。そういえば、今週ずっと遅くまで残業してたっけ。
全く、人の仕事をホイホイ手伝ったりするからだ。私が口酸っぱく言っても、要領悪いのが直らない。
「本当にね。大きくたって、いい事ないよ」
「私、胸の事なんて言ってないけど」
何それ。私、そんなにコンプレックス持ってると思われてるの?
「でもさ、アンタの方がスラッとしてて、洋服なんでも似合うから羨ましい」
「そうかもね。前に温泉で見たおばあちゃんなんて、可哀想な位下に垂れ下がってたし。私絶対ああなりたくない」
びったんびったんひっくり返して洗う姿が忘れられない。
大体、こいつといい、デカイ人って堂々と見せ過ぎ。今日も深いVネックのニット着てるし。
今だって、オーダー取りに来たウェイターがガッツリ谷間を覗いたの、気がついてないでしょ?
「いやホント、年取るのって怖いわぁ」
私はアンタが怖い。
いつか変な痴漢に遭わなきゃいいけど。
ちなみにそんな不躾なウェイターを見た事はありません。想像上の人物です。