終わりの始まり、そして終焉
「ねぇ、消えてくれない?」
彼女の放ったこの一言によって私の日常は崩壊した。
初めて見るような彼女の表情と裏腹に、頭上に広がる青空が皮肉なほどに美しかった。
彼女は人気者だった。美人で、頭も良くて人当たりもいい。天は人に二物を与えずというが、彼女はそれに当てはまらなかった。神様の最高傑作か、もしくは神様が間違ってたくさん与えてしまったのかもしれない。そんなことを思ってしまうほどに彼女はすごかった。彼女は皆の憧れだった。
しかし、彼女との接点などない私はいつも彼女と離れたところにいた。私は崩壊の時がすぐそこまで迫ってきていたのに気付くことが出来なかった。
発端はとても些細な事だった。いや、私にとっては些細な事だったけど、それは彼女にとってはそうではなかったのだろう。
私は別に外見が悪いということはない。自惚れではないがどっちかというと可愛い方に属すると思う。告白を受けたりすることだってある。
ある日、私の下駄箱の中に手紙が入っていた。所謂ラブレターというものであった。いまどきこんなベタなことをする人がいるんだね、と親友と感心したりしていた。とりあえずその日の放課後、私は呼び出された場所へ行った。彼の気持ちに胸が暖かくなり嬉しかったが、私は丁重に断った。このことが後にあんな結果となるなんて私は予想だにしなかった。
その日から少し断ったある日、私は彼女から呼び出しを受けた。私と彼女の間にはたいした接点もないのだ。不思議に思いながらも彼女の後についていった。たどり着いた先は人気のない校舎裏だった。そして冒頭の台詞にたどり着くというわけだ。
そしてその日から緩やかに終わりが始まった。
彼女と彼女のシンパによって誘導が行われた。その誘導によって私の周りから人がいなくなっていった。人が去り、孤独になった私に嫌がらせが始まった。はじめは軽いものだった。いや、軽いというのかどうかはわからないが肉体的なダメージはなかった。シカトや陰口、その程度のことだった。
私には原因がわからなかった。心当たりがまったくなかったのだ。それを直したら全てが元に戻るのなら、私はどんなことをしてでもそれを直そうと頑張ることだろう。
そして私への嫌がらせはだんだんエスカレートしてきた。物がなくなり、居場所がなくなった。教室に入ると菊の花瓶が置いてあったりもした。頭上からゴミや水が降ってきたことだってあった。
おばあちゃんになっても一緒にいようねと笑いあっていた親友も、この頃には私のそばからいなくなっていた。むしろ加害者の側にまわっていたかもしれない。私の味方をしたら標的にされるなどと根拠のない噂も流れ、周り全てが敵だった。
私が持っていたものが手のひらからどんどん零れ落ちていった。それでも私には理由がわからなかった。理由がわかれば、私の非がはっきりしたのならば私も少しは納得できたかもしれない。しかし、私にとってこれはまったく身に覚えのない理不尽なものだった。
そして先日、ついに暴力にまで及んだ。彼女のシンパや取巻き4、5人ほどに囲まれておなかとかをけられた。目立たない場所に、執拗に攻撃を受けた。痛みで気を失ってしまいそうだった。霞んできた頭に、会話が聞こえた。その時、初めて私はこれまでの嫌がらせの理由を知った。
彼女といつも一緒にいる人は言った。「こいつも不運だよね。恭子(彼女の名前だ)の彼氏に惚れられちゃうなんてよ!ねぇ、タバコなーい?」
その後のことは聞こえなかった。頭の中が真っ白だった。そして唐突に頭の中に手紙をくれた男子生徒の顔が浮かんだ。私の頭の中で糸が繋がった。
これを読んでいる貴方。貴方が誰なのか私にはわかりません。
でも、これが貴方の手元にあるということは私はもうこの世にはいないはずです。私はもう疲れました。
失礼かもしれませんが貴方にお願いがあります。この封筒の中に同封されていたもう一つの封筒を送ってください。切手もすでに貼っております。ただポストに投函するだけでいいので、お願いいたします。
春。というテーマでコレを書く私はたぶん病気です。