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spiral  作者: 井伊 友野
3章
7/8

トモ[5]

「トモ、時間がかかるって言ってたのに」

部屋でぽつぽつと愚痴をこぼしていた。トモが来なければ、昔の記憶を思い出したかもしれない。

昔の記憶。とても良いものではなかった。本当の母と父は死んでいる。僕のことを心配してくれた母さんは、本当の母ではないし、本当の父はいない。

僕は誰なんだろう?

本当ってなんだろう?

本当の父ってなんだろう?

本当の母親ってなんだろう?

今度、聞いてみるしかない。記憶を取り戻すための手がかりになるはずだから。

「飲み物と菓子はどこかな?」

着替えを終え、トモのいるリビングへと移動した。

「やっと着替え終わったのかよ」

「うん。少し待っててなにか出すから」

「別にいいよ。まあ出したいなら出してもいいけど」

「うん」

台所を探す。漁っていると、冷蔵庫の中に麦茶。食器棚の下にポテトチップスを見つけた。

「今からなにをしようかな?」

僕は麦茶をテーブルの上に置き、訊ねた。

「誘っといて考えてないのかよ……まあいいや。ビデオでも見ようぜ!」

リュックサックの中から荷物を取り出した。

「何の映画かな?」

「それは見てのお楽しみ」

ビデオデッキにビデオを入れ、再生した。

映画の予告が終わると、冒頭から人が死んでいた。一人じゃない、何人も何人も。何十人もの血が一箇所に集まり、血の海を作っている。愉快そうに笑っているキャラクターがいる。キモチワルイ。

「止めないかな?」

「まだ始まったばかりだよ。さっさと集中集中」

カーテンを閉め、電気を消した。嫌でも画面を見るしかなかった。怖い。僕は目を瞑っていた。でも映像がなく、音だけの方が堪えたので、目を開けて観る事にした。

ホームドラマみたいなのが始まっていた。

「とても楽しそうだね」

「ああ」

トモは瞬きをせずに、画面を見つめていた。好きな映画なのかも。

この映画はごく普通にあるサスペンスホラーものだった。ドクロの顔のお面をつけて、次々と人を殺していく。動機は何もなく、理由もなく殺戮をしていた。見始めてから10人の人間が殺された。

怖かった。赤く鮮明な液体がドバドバと。見たくないものだった。

トモが一生懸命観ていたから、僕は口を出すことができなかった。

あるシーンにきた時、嫌な予感がした。身体がゾワゾワとして鳥肌が立った。見るなと頭が忠告していたのに、僕はそのまま見続けていた。

「ここが見せ場だな」

コップの中に入っている氷を噛み砕き、呟いた。

「そう」

僕は頷いた。

「助けて、助けて……」

女の人がドクロ人間から逃げている。

「こっちに来ないで、お願い……」

「………」

追い詰められたのか2階へと逃げていった。

「助けて……」

ドアを開けると、そこには小さな子どもが1人。

「お願い。私を殺してもいいから、この子だけは助けて」

「………」

ドクロ人間は静かに頷いた。そして、ブィィィィッィィイン。女の人にチェンソーを突き出した。血が、びしゃ、ぶちゃ、どしゃーと溢れる。小さな子どもは目をひん剥いている。あまりのことに泣くことができていない。恐怖を、怖さを感じている。

心臓の音が早くなっているのが分かる。

「………ママー」

子どもは泣き叫び、返り血を浴びたドクロ人間は動く。子どもを引き裂いた。

「ああぁ」

助けてと懇願したのに。頭が痛い。胃がムカムカする。キモチワルイ。

僕は意識を失った。


**


ぐちゃぐちゃぐちゃ。びゅゅるるるるるるう。どくどくどくどく。びりゅりゅりゅりゅりゅりゅ。


**

意識がどんどん戻ってくる。目を開けて周りを見渡す。

「うわぁぁあああ」

床が赤で彩色されている。赤赤赤。流れていた。

何処から?

身体を確認する。怪我はなかった。

他人から?

まずここはどこだろう。

頭が混乱している。白く、モヤモヤしている。

一回落ち着こう。すぅー。深呼吸をする。よしっ。

周りの風景を見ると、自分の居間にいるということが分かった。

何で僕の家に?トモの家に行ったんじゃないのか?何で僕はまず寝ていたんだ?

自分自身に問いかける。僕の手には包丁があり、今から玄関にかけて赤い血痕が続いている。

誰の血だ?

僕は玄関に足を運ぶ。

「トモ―――!」

倒れていた。血の水溜りの中心にトモはいた。

「トモ、トモ、トモ……」

僕は何回も呼びかけた。

「何が……ここで何があったの?」

身体が赤く染まるなんて気にせずに、訴えていた。トモは目を開けない。

「トモ、トモ、トモぉ……誰がやった……んだよ……」

僕は涙を零し、呼びかけていると、「お前だよ」と、トモが答えた。

「トモぉ!!大丈夫?」

「……血が出すぎた……ごふっ……俺はもう死ぬよ……」

声が擦れて上手く聞き取れない。耳を口元まで持っていく。

「死って意外に……怖いもんじゃな……いなぁ、昔から……望んでいたか……らなのかも……しれないけど」

「もう喋るなよっ!」

僕の声は聞こえていないのか、ぼそぼそと続ける。

「お前がこの世で……一番の友達だ……と思う。けれども、世界で一番……お前が…キライ」

声が止まる。

「トモ、トモ、トモ!!!」

僕は揺さぶり続けた。意識が戻りますように、また会えますようにと。

「起きろよ、起きろよ!!うわぁぁああああああああああああああぁっぁぁぁああ」

僕は鼓膜が破れるくらいに全力で叫んだ。トモのいないこのセカイで。

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