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spiral  作者: 井伊 友野
3章
6/8

トモ[4]

給食はトモたちと一緒に食べることになった。さっきは非難されていたけど、今は仲が良さそうに楽しく喋っている。勢いでああなっただけで、本心は別の場所にあるのかもしれない。

「どうした?食欲もないのか?」

僕がぼけーっとしていると、トモは心配そうに訊ねてきた。

「ああ、うん。大丈夫だよ」

「さすがに食べ方は覚えているよな。こう、がーっとだな」

ご飯を口の中に注ぎ込む。あっという間になくなってしまう。

「へへっ」

無邪気に笑っている。僕は、なんと言っていいのか分からず、呆然としていた。友情って言うのかな。トモを友人に持てて、僕は誇りに思う。

想われて、心配されて、迷惑をかけて。

給食のあとも僕に付きっきりだった。トモ以外の子も気遣ってくれた。自分で言うのもなんなだけど、僕の人望はこんなにも厚かったのかな。

たくさんの人間が早く、記憶を戻って欲しいと願っている。記憶のない僕が必要とされているわけでは決してない。

「みんながいてくれるから安心して」

僕だった人間に話しかけてくる。僕は、今の僕は、誰からも求められていない。

ホームルームが終わっても、記憶が戻ることはなかった。何一つ思い出すことはできなかった。

「どうした?そんな暗い顔をして」

俯いていた僕に声をかけてきた。

「いや、どうしたら早く記憶を取り戻せるかなって……トモとかみんなに迷惑かけてるから……」

言葉が詰まる。まさか、このままでいたいなんて言えない。

「うーん……まぁ、そのうちに思い出すだろ。つまんない顔してないで遊ぼうぜ。放課後だって、ずっとあるわけじゃんだからなっ!」

「そうだね。急がないと終わっちゃうね」

僕ではない僕の時間は決して有限ではない。タイムリミットが刻一刻と迫っている。

「そうだろ!早く行こうぜ」

僕はランドセルを背負い、教室から出て行った。


**

ブランコで靴飛ばしをし、ひと気が薄くなっていた。遊んでいた友達も続々と帰っていく。

「一緒に帰ろうぜ?」

一回転しそうなくらい、猛スピードを出していた、トモが言った。

「えっ?でも、トモの帰る方向と逆だよ」

「気にすんなよ。いつもそうしていただろ」

「そうなの?……じゃあ、帰ろう」 

正反対に位置する人間が普段から一緒に帰っているわけがない。トモに負担をかけている。僕はなにもしてあげることができない。なにか恩返しをすることができればいいけど。

あっ!

「トモって、今日は暇かな」

「うん、暇だけど」

「じゃあ家に来ない?今日は母さんが用事があるから、家を空けるって」

「おお、いいのか?遂にお前の家に行けるのか」

「うっ、うん」

目をキラキラさせている。嬉しいことなのかな。

「じゃあ、どうしようかな。俺ん家に寄ってから、トモの家に行こうかな」

先ほどの発言を撤回していた。

「うん、そうしたらいいよ」

「朝みたいに迷子にならないよな?」

冗談っぽく、肩を叩いて聞いてきた。

「大丈夫だよ。一人で帰れるよ」

頭の中では、正確な地図を作り上げることができなかった。でも、大丈夫。道路はどこまでも続いているのだから。

「そっか。なにか持って行くから、少し遅くなるかもしんないから」

「うん、分かった」

「じゃあなぁー」

「またね」

僕たちは別れた。

僕は家に帰ることになった。迷わずに帰れますように、と、あやふやな記憶を頼りながら歩き出した。


**

さんざん迷ったけれども、家には無事にたどり着くことができた。今日で順路を覚えたから、明日からは迷わずに進むことができると思う。犬には吼えられないように気をつけなくちゃ。

まるで幼稚園に戻ったみたいだ。迷子になり泣いていると、よく母さんが探しに来てくれた。母さん、懐かしい。

母さん?母さん!?……ママ?

頭がズキリとした。

「どうしたんだろう」

――母の死。赤い血。僕を見守る母。最後の笑顔。

キモチワルイ――シニタクナイ。

「なんだ、なんだ?」

覚えのない記憶に襲われる。

――交通事故。車。暴行犯。

この人は誰?

若い男の子が、いや男性が思い出される。

父さん?父さん!?……パパ

――赤い血。銃。正義。純粋。父の背中。

「パパぁ!」

「なにを言ってるんだ」

目の前にはトモが立っていた。

「パパとかママとかどうしたんだ?」

「あっ……」

ここはどこだろう。僕の家の前だ。まだ家には入っていない。家に帰っていたら、急に頭痛がしたんだ。大切で怖い、なにかを思い出そうとしていた気がする。輪郭がぼやっとしてしまい、もう思い出すことができないけど。

「少し待ってて……なんなら上がってて」

「そうさせてもううつもりだ」

「来るの早かったね」

「お前がぼけーっとしていただけだよ」

「そうだね」

どちらにしろ恥ずかしいことに変わりはなかった。ポリポリと頭を掻く。

「鍵はどこにいったかな」

ポケットを探ってみた。見つからない。

「ランドセルの中だろ」

「そうか」

ランドセルを調べてみると、トモの指摘どおり、見つかった。

家に入ると、目を輝かせているとトモがいた。

「あんまり、いじらないでね」

目をキョロキョロさせている。変わったものがあれば、すぐにでも触って遊び倒しそう。

「別に気にするなよ」

「っはあ」

溜め息を吐いた。

僕の家は、普通の家だ。お金持ちでもなければ、貧乏でもない。曖昧な記憶がそう告げているのに、トモの顔を見ていると、変なのかな。よく分からないや。

「じゃあ、上で着替えてくるから、リビングで大人しくしていてね」

「了解」

僕は2階に上がり、部屋と向かった。

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