人喰いの獣。
それは、後始末の最中だった。
「ねえ、君は人殺し?」
振り返ると、一人の男が壁に背を預けて立っている。その手元に、ナイフが光るのが見えた。
人殺しの直感で悟る。
コイツ、人殺しだ。
「何か用かな?」
なるべく冷静を装って、男に投げ掛ける。
「何でもないよ」
男がクスリと笑った。よく見てみると、男は俺より若い。まだ未成年ではないのだろうか。体つきも、細くて華奢な青年だ。袖から覗く腕など、ナイフで切り落とせそうなくらいだ。月明かりに照らされる姿は、妖しい。
暗い路地裏。外道の者や人殺しが巣食う場所。こんな物騒なところにわざわざ来たら、すぐに喰われてしまうのではないだろうか。
「君は誰だい?」
問うてみる。すると、青年は狂ったように笑い出した。俺は、腰に隠している拳銃に手を掛けた。
危ない。危険すぎる。
青年が、こっちに向き直った。
「わかってるんでしょ? 君も人殺しなら、僕の正体ぐらい」
ゆっくり近づいてくる。距離が縮まる。手の力が、自然と強まる。
鼓動が、どんどん速くなる。
「ああ、わかってるよ。君も人殺しだろ?」
嬉しそうな声が零れてくる。
「よかったあ。気がついてないと思った。でも、そんなわけないか」
2メートル。はっきりと顔がわかるまで近づいた。
なんて、鋭い目をしているんだろう。まだ若いだろうに、幾度も幾度も困難を乗り越えてきたようだ。なんで、こんなに傷ついているのだろうか。
なぜか、自分と重なった。
「こんな事をしてどうする」
このあと、俺は、目の前にいる青年に殺されるのだろう。体が、動かなかった。
鋭い目が、さらに鋭く光る。
「・・・・・・僕は、人殺しが嫌いなんだ。最低な奴らだと思うよ」
口元が笑ってる。なのに、震えている。
「人殺しはね、人殺しに殺されればいいんだよ」
青年が、足を踏み込んだ。
体がぶつかる。
体感温度が、熱い。
「人殺しなんて、死ねよ」
気が付いたら、体は離れていて、青年は遥か後方を歩いていた。
痛みが無い。手を腹部に当てる。血は出ていないし、刺された形跡も無い。
「なんだよ」
最初から、青年は殺すつもりでは無かったのだろうか。変な奴だ。
しかし、異変に気が付いた。自分の腰を見る。
「・・・・・・やられた」
腰にあったはずの拳銃が、無くなっていた。
青年が、持っていったのか。
「・・・・・・フッ、アッハハハ」
人殺しを殺す人殺し。
青年は、そのものだった。
手を汚さずとも、立派に人殺しを行っている。
俺は、喰われたのだ。
獣。




