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人喰いの獣。

作者: 万里
掲載日:2010/09/18

 それは、後始末の最中だった。

「ねえ、君は人殺し?」

振り返ると、一人の男が壁に背を預けて立っている。その手元に、ナイフが光るのが見えた。

 人殺しの直感で悟る。

 コイツ、人殺しだ。

「何か用かな?」

なるべく冷静を装って、男に投げ掛ける。

「何でもないよ」

男がクスリと笑った。よく見てみると、男は俺より若い。まだ未成年ではないのだろうか。体つきも、細くて華奢な青年だ。袖から覗く腕など、ナイフで切り落とせそうなくらいだ。月明かりに照らされる姿は、妖しい。

 暗い路地裏。外道の者や人殺しが巣食う場所。こんな物騒なところにわざわざ来たら、すぐに喰われてしまうのではないだろうか。

「君は誰だい?」

問うてみる。すると、青年は狂ったように笑い出した。俺は、腰に隠している拳銃に手を掛けた。

 危ない。危険すぎる。

 青年が、こっちに向き直った。

「わかってるんでしょ? 君も人殺しなら、僕の正体ぐらい」

ゆっくり近づいてくる。距離が縮まる。手の力が、自然と強まる。

 鼓動が、どんどん速くなる。

「ああ、わかってるよ。君も人殺しだろ?」

嬉しそうな声が零れてくる。

「よかったあ。気がついてないと思った。でも、そんなわけないか」

 2メートル。はっきりと顔がわかるまで近づいた。

 なんて、鋭い目をしているんだろう。まだ若いだろうに、幾度も幾度も困難を乗り越えてきたようだ。なんで、こんなに傷ついているのだろうか。

 なぜか、自分と重なった。

「こんな事をしてどうする」

 このあと、俺は、目の前にいる青年に殺されるのだろう。体が、動かなかった。

 鋭い目が、さらに鋭く光る。

「・・・・・・僕は、人殺しが嫌いなんだ。最低な奴らだと思うよ」

口元が笑ってる。なのに、震えている。

「人殺しはね、人殺しに殺されればいいんだよ」

 青年が、足を踏み込んだ。

 体がぶつかる。

 体感温度が、熱い。

「人殺しなんて、死ねよ」


 気が付いたら、体は離れていて、青年は遥か後方を歩いていた。

 痛みが無い。手を腹部に当てる。血は出ていないし、刺された形跡も無い。

「なんだよ」

 最初から、青年は殺すつもりでは無かったのだろうか。変な奴だ。

 しかし、異変に気が付いた。自分の腰を見る。

「・・・・・・やられた」

腰にあったはずの拳銃が、無くなっていた。

 青年が、持っていったのか。

「・・・・・・フッ、アッハハハ」

 人殺しを殺す人殺し。

 青年は、そのものだった。

 手を汚さずとも、立派に人殺しを行っている。

 俺は、喰われたのだ。

 獣。

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