第2話 レベルカンスト
巻き込まれ召喚により、異世界転移した五島雪貴は、このまま王国から追放、となるかと思っていたが、意外な事にそうはならなかった。
と言うのも、この世界では、勇者召喚で巻き込まれた、または、召喚に失敗したなどの理由で召喚された稀人(異世界から来た人)を、粗雑に扱った事で国が滅びた例があるからだという。
(ラノベ作家は異世界帰りだから、異世界作品が書けるって話は本当かも知れないなぁ……)
昔から異世界召喚がある事を知って、五島雪貴は思いを馳せる。
そんな五島雪貴も、スキル無しの無能者でありながら、万が一の事を考えたのか、「ユキタカ殿」として、丁重に扱われる事になった。
とりあえず、稀人である事がわかるスーツや学生服といったこの世界で目立つ服装は、王国側が用意した服に着替えさせられた。
用意された服は、なんでも特殊なシルク糸から作られたもので、着心地は良いし、何より軽く耐久性も最高ランクらしい。
これは、客人として最高級のもてなしを意味した。
ユキタカは、多分、高校生グループ四人組のおこぼれに預かっているだけだろうが、それでも今のところその扱いに不平はない。
しかし、当人としては、何か条件を満たす事でスキルが生えてくるとか、レベルを上げる事でチート的な力が湧き出てこないかなと焦っていた。
正直、立場が無いからである。
高校生グループの四人は、それぞれが勇者、聖騎士、聖女、賢者と誰もがわかる上位のスキル持ちだったから、当然敬われている。
だが、ユキタカの場合は、万が一を想定し、後々、恨みを買わないように、丁重に扱われているに過ぎないのだから、居たたまれなかった。
「はぁ……。部屋から食事、着るものまで、今のところは高校生グループと同じものだけど、段々、周囲の視線が冷たくなっていっている気がするのは、僕の気のせいかな……?」
ユキタカは内心でそう愚痴を漏らす。
ユキタカは独り言が多いタイプの人間だったが、この異世界に来て、言葉が通じるのは最初に気づいていた。
だから、誰かに聞かれる事を恐れて心の中に留めていた。
一応、自分の担当をしてくれている責任者に、なぜ言語が同じなのかと確認した。
稀人は召喚直後にはこちらの世界の言語を話せるようになっているものらしい。
どうやら、召喚された事で、多少の特典が付与されていたようだ。
実際、ユキタカは言葉が話せる以外にも視力が良くなっていた。
そのお陰で眼鏡なしでものが見えるのは、中学生以来のことである。
召喚での多少の特典はあったものの、ユキタカのみはスキル無しだったから、この世界にあって多少、いや、かなり不利な立場にあると言っていい。
これもユキタカの担当してくれている責任者から聞いた話だが、この世界においてスキルは誰もが神より平等に与えられる、というのが常識らしい。
実際、十六歳の成人を迎えると教会で祈り、神よりスキルを与えられるのだとか。
だから、スキルの無い自分も召喚の翌日には、教会に一人連れていかれ、祈りを捧げて試してみる事になった。
もしかしたら、スキルを与えられる可能性があるかもしれない、と国のお偉いさん達も期待したのだ。
だが、残念な事に何も起きなかった。
落胆されたのは想像に難くないが、それでもまだ、追放はされていない。
なんでも、まだスキルが芽生える可能性はいくらでもあるらしいからだ。
この世界では、スキルを与えられるとレベルが上げられるようになるそうで、それにより、成長したり、新たな能力を追加で得る事もある。
だから近日中に、高校生グループと一緒にレベル上げの為、地下にあるダンジョンに案内してくれるらしい。
なぜ、自分の為に高校生グループまでと思うところだが、それは勇者スキルが仲間のレベルを上げやすくする能力を最初から持っているからだという。
つまり、自分の為に彼らは付き合わされるという事なのだが、表向きは勇者一行全体のパワーアップという名目にしてくれていた。
「滅茶苦茶気を遣われているなぁ……。本当に申し訳ない気持ちになる……」
ユキタカは、このまま追放された方が、マシと思われるくらい、国から気を遣われていた。
ちなみに、自分達を召喚したこの国の名は、トールデイン王国と言うらしい。
数百年前に建国した国家らしく、現国王のリッツ・トールデインは、勇敢な人物という事だ。
言い換えると戦闘好きという事っぽいが、担当責任者には詳しく聞かないでおいた。
とにかく、この国の人々に良くしてもらっている間に、スキルが生えてくる事を祈るしかない。
数日後の、レベル上げが楽しみだ。
「おお、こ、これには驚きましたぞ! わずか、半日でユキタカ殿のレベルが、人類の最大値と思われる99まで上昇するとは……! 勇者殿の能力で上がりやすくなっているとはいえ、これ程簡単に上がった者は過去にいませんぞ!」
担当責任者はユキタカの能力はレベルが上がりやすいチート能力なのだと思って手放しで喜んでいた。
だがそれは、早とちりだった。
通常、スキルがある者は、それを含めた状態で経験値を貰うので、上がりにくいだけなのだ。
つまり、スキル無しのユキタカは、スキルで消費する経験値が、そのまま本人のレベル上昇に使用されただけだった。
この十分後、至急呼び出された神官が、貴重な鑑定水晶を使用して鑑定した。
だが、ユキタカのレベルMAXに対して、身体能力が微増しただけの結果に終わった。
「……本当にすみません」
ユキタカはショックを隠せない担当責任者に、お詫びするしかできない。
「い……、いえ。ユキタカ殿もまだ、諦めないでください。この世界ではいろんな方法でチートスキルを得た例はいくつもあるので……」
担当責任者は、そう言いながらも表情は引き攣っている。
数多の方法の中で、レベル上げが一番の成功例だった事は、上げる前に聞いていたから、そのせいだろう。
ずっと、レベルが上がらないスキルの者が、「レベル1の役立たず」と馬鹿にされて追放後、レベル2に上がり、追放した国はその者に滅ぼされた話。
レベルMAXまで上昇後、そこからレベル1に戻って一気に強くなった者もいたそうだ。
いろんな話を聞かせてくれたが、そのどれもが《《よくわからないスキルを持っていた》》という事だった。
スキルの無い自分に、全て当てはまらない事は、レベルをカンストした今、よく理解できた。
そして、担当責任者と落ち込んでいる最中、高校生グループはと言うと、
「俺、勇者としてのレベルが1に上がった!」
とリーダー格である勇者スキル持ちの鷹月野シオンが友人達に自慢する。
「シオン、俺もレベル1に上がっていたぜ」
聖騎士スキル持ちである獅子堂レオが、それに応じた。
「みんな、レベルは上がっているみたいね。私も1に上がっているわ」
と聖女スキル持ちの美女、鬼道院聖も、鑑定結果を聞いて答える。
「さっき私の責任者に確認しましたが、最上位のスキルでも最初は0から1に上がるのは早いそうです。だから、これからですね」
クールな反応を見せたのが、賢者スキル持ちの優等生っぽい四宝寺瑠奈だ。
そして、その四宝寺瑠奈は、一人離れて暗い表情のユキタカを一瞥すると、
「そうではない方もいるみたいですが」
と淡々と話す。
誰もユキタカの残念具合には敢えて振れなかったのだが、四宝寺瑠奈の指摘で、
「あのおじさんは駄目みたいだな」
「俺達が召喚される時に巻き込まれたんだろう? 可哀想だがこれが現実だな」
「レベル99という事は、これ以上はもう上がらないのでしょ? あの強さから上に上がらないという事は、夢も希望もないわね……」
とそれぞれが同情的な目でユキタカを見る。
ユキタカはその視線が耐えられなかったから、その場をあとにするのだった。
「本当に立場が無い……。それに、レベルカンストして得られたのは、運動神経がそれなりに良くなった事くらいだよな……。それでも、スキルが無い分、他の人より劣っているのは変わらないみたいだけど……」
ユキタカは溜息をつくと内心でそうつぶやき、部屋のベッドで横になる。
そして、追放される前に、この城を出る覚悟をした方がいいかもしれないと考えるのだった。




