5.最終話、恋は、実る?
私は息がつまってしまった。
苦しかった。
これは“これ以上俺にかまうな、首を突っ込むな、迷惑だ。”ってこと?
そうだよね……私から勝手に藤堂のこと避けといたのに、自分の都合で根掘り葉掘り聞くなんて……ウザイよね……。
「……なぁ、どうしてそういうときだけ気づくの……?」
「……え……?」
驚いて俯いた顔を上げると藤堂は少し泣きそうなすねたような顔で私から窓へと視線をずらした。
「……お前さ、何で俺のこと避けだしたりしたの?」
素直に藤堂が好きだからとか言える分けない……。
避けだしたけど……それは、アズサと藤堂を見てるのが苦しかったからで……それも言える分けない……。
「……避けだした……んじゃない!ただ……私、おじゃまかなぁって。」
ちょっと無理やりだけど、焦ったように笑って見せると、藤堂はチラリと私を見てから、つぶやいた。
「何がどうお邪魔だと思ったわけ?」
な……んで、そんなこと……聞くの?
「え……と……アズサと藤堂って……楽しそうに話してた……から……。」
「……俺、そんなにわかりやすい?」
その言葉に私は固まった……。
「……え……?」
私は今、どんな顔をしているだろう?
「そんなにもろ分かりだった?」
「……ど……ゆ……こと?」
「俺が、時夜を好きって、そんなに分かりやすかったか?お前に気を使わせるくらい……。」
私は固まってしまった。
“終わった”その瞬間頭をよぎった言葉だった。
でも、いつもどおりに振舞わなきゃ……じゃなきゃ、変……だよね。
「あ、あたりまえじゃん!そんなのモロ分かりだったよ!気づいてないの本人だけじゃないの!?というか、リアルに興味ない藤堂の癖に恋愛とか生意気すぎるんだよ!!」
バシッと背中を叩いて笑って見せた。
「いって!バカ!!」
バカだよ……私、本当にバカだよ……何してるの?
「早く告っちゃいなよ!!」
私は腕組みをしながら言った。
苦しかった。
……同時に私は汚かった。
アズサが藤堂と付き合うことはないと知っていて藤堂に告白させてアズサのこと早くあきらめさせようとしていた。
汚い……なんて汚いんだろう……私……。
「ダメだ……ダメなんだよ。」
藤堂の表情が暗くなった。
「……何……が、ダメなの?」
「……聞いちゃったんだよ、俺……聞いちゃったんだ。時夜が俺のこと、恋愛対象に見てくれないって……誰かと一緒にいたのかはわかんないけど、声だけ聞こえたんだ。」
私はついに追い詰められた。
それを聞いたのは私で、そのシーンだけ聞いたのが……藤堂だった?
じゃああのガサッていう音は……藤堂の……?
そんな都合のいいことあっていいの!?
都合が……よくないか……それを知っても藤堂は……アズサのこと好きなんだもんね……。
私じゃ、もう……邪魔しきれないくらい藤堂は、アズサのこと好きなんだもんね……。
「が、がんばんなよ……藤堂!アズサだって、きっとこれから藤堂のこと好きになってくれるよ!!だから……そんな悲しそうな顔してないで、さ!!」
私は、何を言ってるの?
なんで笑ってるの?これじゃ、私がアズサと藤堂を応援してるみたいじゃん……。
「……ねぇよ……。」
「……じゃあ、あきらめなよ!わけわかんないよ!なんであきらめられなくてうじうじしてるのに、もしかしたらって、ホントはどっかで思っちゃってるくせに、無いって、ありえないって、言い切れんの!?」
その言葉は、私が私にずっと言いたかった言葉だった。
私は藤堂を通して自分に言葉を発していた。
ずるい……他人にこんなこと言えちゃうのに、自分は告白すら出来ないで、そんな勇気すらないのに他人には言えちゃうんだ。
そうだよ、私はホントはもしかしたらって期待してた。
でも、二次元にかなうわけないって、でも今度はアズサにかなうわけないって思ってる。
結局私だって逃げてるだけなのに、私は、ずるい……。
「……はは、だな、そーなのかも。」
藤堂はそういって笑った。
あれ?どうしてだろう、私、絶対に藤堂の恋の応援なんか出来ないはずなのに……藤堂が元気になるなら、それでもいいのかもって思ってる……。
「がんばれ!私、藤堂のしけた顔見てるのはイヤだからね!!こっちまで気が滅入っちゃう!!」
私は、やっぱりずるいですか?
あきらめられない気持ちを隠して、それでも藤堂の……こいつのそばにいようとする私は、ずるいですか?
それでも藤堂の元気はどんどんなくなっていく。
話を聞くところ、アズサに無視されている気がするとのことだった。
「そんなことないよ!向こうから話しかけてきてくれたりするんでしょ!?」
「……でも、よそよそしい。最近ただの連絡みたいなのばっかだ。ダメなのか……もう。応援してくれたお前には悪いけどさ……もう、無理だよ。」
そうよ、あきらめちゃえば良い。
私は本当はずっとこの時を望んでたんでしょ?
あきらめさせてやれば良い。
私だけの藤堂に戻ってしまえば良い。
だけど……。
「無理とか言ってあきらめていいわけないじゃん!!あきらめる前にアズサに告白しなよ!それでふられたときに吹っ切れればいいでしょ!?たった0.1パーセントでも残ってるかもしれないんでしょ!?ふられてないんだから0じゃないでしょ!?その残ってる可能性にもかけもしないであきらめるな!バカ!!」
私は、何を言ってるの?
「……お前に何が分かるんだよ!避けられてる苦しみがわかんのかよ!?」
「……わかんないよ……わかんないよ!分かる分けない!でも、私だってアンタみたいに苦しいよ!」
ちょ、ちょっとまって……?私、何を言おうとしてるの?
「……は?」
「人の気も知らないで、応援しろって、そりゃ無いんじゃない!?って思った!でも、それでもよかった!元気のない藤堂見てるよりずっと、笑ってるあんたのほうが好きだったから!!私は!私は……藤堂が……好きだから……。」
藤堂の顔は一瞬蒼白になった。
それから真っ赤になって、慌て始めた。
「ちょ、まって!お前、何言ってんの!?」
分かってた。こうなることは……コイツは私のこと気づいてないって。
私は恋愛に興味が無いやつみたいに振舞ってたし、藤堂のそばで話してないとき以外にガン見してることもなかった。
恥ずかしすぎて、ガン見なんて出来なかった。
それでも、目を細めて笑う藤堂は好きだった。
その笑顔だけは私が独占してしまいたかった。
「……藤堂の馬鹿野郎……言うつもりなんて、なかったのに……。」
泣いてしまいたかった。
でも、まだそれは許されない。
私が許さない。
藤堂の前で泣いて、涙で藤堂を引き止めるようなそんな女に私はなりたくなかった。
それが今できる、精一杯の強がりで、藤堂への私の本気の気持ちだった。
「……マジで……?」
私は顔を思い切って上げた。
それから、藤堂を怒った。
「私はこうなるって分かってた!それでもあんたに言った!それなのにアンタはまだ傷つくのが怖いからって逃げるの!?もしかしたらの1パーセントにもかけないでやめるの!?」
すると、藤堂はいつにない男らしい顔で、何かを決心したような顔で「藤崎、ごめん!」と言って走り去っていった。
行け、バカ……。
残された私はただ、そこで、誰が見てるとか関係なく泣いた。
大声で泣いても平気な場所だったのは不幸中の幸いだったのかも。
それとも、神様がいるなら、神様の思し召しってヤツなのかも。
誰かが私に思いっきり泣けって言ってて、こうなることを知ってたのかも。
私は最初、本当に恋愛に興味がなかった。
だからって二次元に興味あったわけじゃないけど、恋愛とか、どっかでばかばかしいと思ってて、そんな私だから一匹狼になっちゃってて。
でも、そんな私に藤堂が話しかけてくれて、私の生活は一気に色づいて変わっていって……。
ああ、私ってこんなに大声で泣き叫べるほど、本当に藤堂が好きなんだなぁって思えた――…・・。
藤堂、ありがとう、私に話しかけてくれて。
私に、初めての恋を教えてくれて――…・・。
翌朝、"藤堂に会うの気まずいなぁ"とか思っていたら、どんよりとしてる藤堂に会って思わず笑ってしまった。
「藤堂、ふられっちゃったのか!」
「笑ってんじゃねーよ!お前からしたら嬉しいかもしれねぇけどな!!」
「おう!嬉しいよ!これからどっちが先に両想いになるか、勝負だね!!」
「はっ、負けねぇし!」
「は!?負けろし!!」
こうやって、お互いの気持ち知って、バカ騒ぎやってるのもいいのかもしれないね――……?
最終話でした。読んでくださった読者の皆様、ありがとうございます。




