9.始まりの村
場所:ユーラブルク西部、ノネトリ村
"ようこそノネトリ村へ"
そう立て看板には書かれていた。
どうやら私は人間の使う文字の意味がわかるらしい
「"食べた血肉とその記憶X"って実績を取ったおかげね。人間の言語なら全て分かるようになってるわ」
偶然だけど、取っておいて良かった。
ノネトリ村の中に入ってみる。
村にはたくさんのお店があった。宿屋や武器屋、レストランに雑貨屋、そしてギルド。さながらRPGの「始まりの村」といった感じでわくわくする。
早速、宿屋で今日泊まる予約をしようとして気づいた。
「そういえばお金…」
「無いわね?何か依頼でも受けたらどうかしら」
そうしよう。ついでにギルドで登録とかしちゃえばこれから色々と楽そうだし。
ギルドの入口を4回ノックし、ドアを開け
「お邪魔します」
と挨拶をする。
「こんにちは。探索者の方ですか?」
栗色の髪をした人間がカウンター越しに声をかけてくる。
「いえ、まだただの旅人で…えっと」
上手く言葉が出てこない。
「登録をご希望ですか?」
人間がそう尋ねてくれた。
「はい。お願いします」
私はカウンターの前に行った。
「ではまず、お名前は?」
「ヘマ・シヴグラードと言います」
「身分を示すもの等はありますか?」
「"経験を得るための旅だ"と最低限のものしか持たされず送り出されたので現在所持しておりません」
堂々と嘘を吐く。
「そ…そうですか。であれば通常のCランクではなくDランクからのスタートとなりますが、よろしいですか?」
若干私の言葉に狼狽えつつも人間はそう答えてくれた。身分証明書が必要ないなんて意外とガバガバなのね。
「構いません」
「では、魔力波形を記録するためこちらに手を翳してください。」
人間は魔法陣が刻印された石を出した。
「これにより魔力量が記録されたりとかは…?」
つい聞いてしまった。
「大丈夫です。ギルドの規則により、探索者のプライベートに配慮し、魔力量始め、あらゆる戦闘能力に関わる情報は波形に記録されている実績や、特異な戦歴を除き、記録されることはありません」
よくある質問なのだろう。そうすらすらと答えてくれた。
「ありがとうございます。」
「では、記録します」
ピピっと音が鳴った。
「登録完了しました。早速依頼を受けますか?」
やったっ登録できた
「はい。早速3つほど」
「あーわかりました。推奨何ランクのものをご希望ですか?」
んー推奨?とりあえずお金がたくさん欲しいからその旨を伝えなきゃ
「…とりあえず(報奨金が)高いのが良いですね」
人間は若干狼狽えつつそれに対し答えた。
「わかりました。ではAランク1つとBランク2つを用意いたします。少々お待ちください」
Aランク?Bランク?お金たくさん貰えるのかな。
〜ギルドの人視点編〜
4回のノックの後、
「お邪魔します」と訛りのない発音で挨拶し、少女が入ってきた。
白いシャツに黒を基調としたミニスカート、肩には黒いコート(軍用のように見えるがミニスカートとデザインが似ていることからおそらくオーダーメイド)がかかっていて、白いニーハイソックスと革靴(軍用?)を履いているといった出で立ち。武器はマスケット銃型の魔法杖で、肩にかけている。そして目を引くのは赤い目と先に行くにつれて赤くなる銀髪。
おどおどとしているように見えるものの、一つ一つの行動に"人間臭さ"が無く、気品を感じられる。
(どこの貴族?)
無駄に知識と観察力が豊富なせいで、彼女が入ってきた時点で、緊張で心臓がバクバクと鳴っていた。
(どこかの書籍で魔力量の多い人間は髪色が変わると書いてあったわね…つまり魔力量の多い貴族の娘?)
とりあえず探索者であるか聞いてみよう
「こんにちは。探索者の方ですか?」
おどおどとした少女はまた訛りのない発音で
「いえ、まだただの旅人で…えっと」
と返してきた。
(お忍びかしら。ならどうしてギルドに?もしかして探索者になりたいけど貴族である親に止められて、仕方がなく田舎の村まで来て登録しようとしてる…とか?)
妄想が深まっていく。とりあえず内心を隠すため声が震えないようにしつつこう返した。
「登録をご希望ですか?」
「はい。お願いします」
と言って少女は私の前に来た。
薄い苺の匂い。普段の生活なら絶対に嗅がないような香り…
(謎の高位な方が私の近くに…あ…ああ)
もはや正常な判断ができなくなっている。
仕事なのだから切り替えていかなきゃいけない。
深呼吸して空気を切り替える。それを感じ取ったのか、少女もおどおどとした感じを辞めた。
(やっぱり演技だったのね)
「ではまず、お名前は?」
「ヘマ・シヴグラードと言います」
やはり訛りのない発音。
シヴグラードの姓を持つ貴族は辺境伯として有名。
この地域だと特に…レア・シヴグラードの農民蜂起事件が近隣で起こったせいでその姓はかなり知られている。
「身分を示すもの等はありますか?」
一応確認を取る。
「"経験を得るための旅だ"と最低限のものしか持たされず送り出されたので現在所持しておりません」
少女から真顔ですらすらとこんなことを言われて狼狽えない人間がいる訳ない。無論私は死ぬほど狼狽えた。帝王学でも学んでいるのだろうか。
「そ…そうですか。であれば通常のCランクではなくDランクからのスタートとなりますが、よろしいですか?」
若干狼狽えが声に出たものの何とか返すことができた。
通常貴族の登録はCランクからであるものの、身分証明書が無いならDランクでも構わないだろう。おそらくは平民扱いされることを求めてわざわざここまで来ているのだから。
(本来ならDランクでも身分証明書が必要だけれど平民の身分証明書なんて持ってないわよね。気分を害さないように聞かないでおこうかしら。)
「構いません」
間髪入れず答えた辺り私の対応は適切なものなのだろう。心底ホッとした。
「では、魔力波形を記録するためこちらに手を翳してください。」
記録石を出す。
「これにより魔力量が記録されたりとかは…?」
少女はそう質問した。
そういえば、貴族は自分の使える魔法を秘匿するため魔力量を隠すことが多いらしい。すっかり失念していた。
「大丈夫です。ギルドの規則により、探索者のプライベートに配慮し、魔力量始め、あらゆる戦闘能力に関わる情報は波形に記録されている実績や、特異な戦歴を除き、記録されることはありません」
…言えた。自分の会話能力を褒めたい。
「ありがとうございます。」
少女も変に思わなかったようだ。
「では、記録します」
操作する。
ピピッ
実績をチラリと確認してみる。…何これ?Xが2つ…内容は…不詳?やっぱりとんでもない存在みたい。
「登録完了しました。早速依頼を受けますか?」
「はい。早速3つほど」
「あーわかりました。推奨何ランクのものをご希望ですか?」
きっとDランクでは満足しないだろうから思い切って聞いてみた。
すると少女は少し悩んだような仕草をした後、
「…とりあえず高いのが良いですね」
と言った。
やっぱりとんでもない存在なのね…
「わかりました。ではAランク1つとBランク2つを用意いたします。少々お待ちください」
改めて高位の人間であると理解して声が震え気味になってしまった。
次回、初めての依頼




