55.政治劇・上
場所:首都ブルリノ
優しい目で見守られているように感じる
そっと瞼を開ける
碧菜の兄、蓮也がそこにはいた。
「起きたのかい?おはよう碧菜」
真乃としての自覚が強くなったからか
"お兄様!"という感じの、碧菜が持っていたと思われる兄への敬愛は今の私には無い。
…これって良いこと?悪いこと?
揺すられているような気がして
そっと瞼を開ける。
「起きた?おはようマノ」
「おはよ…」
今の私はヘマとして、或いはマノとして生きてる。
碧菜の人格が薄れているということが、良いことか悪いことかは分からない。
多分"神のみぞ知る"というやつ。
やばいです…やばいです!
なんで私なんかが宰相官邸に居るんですか!?
「ハウサー嬢、こちらへ」
「は、はいっ」
案内役さんに続く。
猫背で色々なところをキョロキョロとしながら。
「名乗り忘れておりました。私、統一王国初代宰相の職を国王より賜っております、オットー・フォン・ベスベルクと申します。以後お見知りおきを」宰相さん!?えっ…この官邸の主!?
まじまじと宰相さんの顔を見てみました。
老齢と言うよりか、若々しいと感じる顔で、金髪の碧眼、好青年という表現が合ってる?かっこいいイケメンさんです。
「さ…宰相殿…よ…よよよよっよろしくっお願ひします!」
普通に支離滅裂ですし、噛んじゃいました。
しかし宰相さんは気にしないと言った感じでニコリと笑ってくれました。
「こちらこそよろしく。ハウサー嬢」
よくよく考えてみたら、なんでよろしくなんて言っちゃったんでしょうか、なんでよろしくと返してくれたのでしょうか。
もしかして何か私に宰相さんから仕事が来るんでしょうか?
今日のパンはレッドベリーパンというレーズンバターロールもどきを5人分買った。
「店員さんってオリビアって名前なの?」
カナが何となくそう聞く。
オリビアとは多分、ここの店名である「オリビアのパン屋」のオリビアのことだと思う。
「いえ、私の名前はソフィアです。"オリビア"というのは、かつてオリビア・グラウエンブルク様がこちらをよくご利用なさっていたから、付けられた名前らしいです。私は継いだだけなので詳しく知りませんが」
誰?
私が首を傾げているのに対し、カナは感慨深げに「なるほど…」と呟いていた。
有名人なのだろうか
宰相さんによると、今日は閣僚会議の日らしいです。
ところで、なぜ私はこの会議室っぽいところで座っているのでしょうか。
老齢で狡猾そうな人や比較的若く元気そうな人などがそれぞれ椅子に座っていきます。
満席となりました。
「それでは、閣議を始めようか」
宰相さんがそう言い放ちました。
かっ…かかかっ…か…閣議?
どうして私が閣僚会議に!?
「早速本題に移ろうか。ハウサー嬢、頼んだ」
頼まれましたっ何を頼まれたのか分かりません!
泣きたい…
何を説明すれば…
こんなところ抜け出したい…
…もういいや
"バチン"
「オリビア・グラウエンブルクって誰?」
パン屋からの帰路、何となくカナにそう聞く。
「えっとね〜…現代魔法の母とか、救世主とかって言われてる偉人なの。噂とか都市伝説だと"神にすら成った"…とか言われてるの」
転生者とかなのだろうか
あと神に成ったって何…?
優雅に席を立ち、綺麗な所作で自己紹介をする。
「御紹介に上がりました、エヴェリン・ハウサーと申します。統一王国軍において大佐を拝命しており、現在は第6軍参謀長という立場にあります。今回は陛下の代理としてこちらに参りました。」
私はすらすらとそう言葉を並べた。
"ルーサル競技戦争の序盤において活躍した精鋭第6軍"の参謀長。
当初は国家存亡の危機すらあったためか、当時から変わらず国のトップに座っている閣僚連中は第6軍の奮闘を知っているようで、皆一様に私への見る目を変えた。
「今回の臨時閣議の議題は1つ」
そう言って人差し指を立てて見せる。
「"ノイエ帝国の併合を目的とした本格的外交戦"…或いは"対ノイエ併合戦"に関してです。陛下は本格的にこの"統一王国"を"帝国"へと昇華させられるよう行動を開始しなければならない…と、考えておられます」
それまで静かだった空気が一変するのを感じる。
皆が唖然とする中、前もって国王からその件を聞いていた宰相だけが机をノックするようにコンコンと叩き、"発表ありがとう"の意をこちらに送ってくる
「聞いた通りだ。陛下は本格的な"行動"を望まれている」
宰相はそう言い放った。
次回、続き




