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話を聞いた氷浦教授は言った。
「機械生命体か……。恐らくそのグランロゼとかいう機械人は、寂しかったんじゃないかな」
「さ、寂しかったあ?」
フォウが危うくでんぐり返りそうになった。
それでも氷浦教授はあくまで真剣に言葉をつづけた。
「以前に、宇宙にはさまざまな生命体がいるに違いない、という話を三人でしただろう? SETI計画という言葉を聞いたことがあるかね。地球外知的生命体探査の頭文字を取ったものだ。その名のとおり、我々以外の文明の存在を宇宙から探し出そうと、科学者たちがあの手この手を使って研究を続けている。つまりは我々人類も、この宇宙のどこかに自分たちのような知性をもった生命体がいないかと期待し、なんとかしてそれを探そうとしている、というわけだ。
彼女の奥底にあるのも、たぶんそれと同じ気持ちなのだよ。おそらく彼女は一人ぼっちでデュアルの軍門にくだり、無意識に仲間を欲しているのだ。だからこそ様々な平行宇宙を渡り歩き、宝物と彼女が呼ぶものを探しているんだよ。己が滅びた後も自動で動くようにセットされた機械を見て、郷愁を覚えたんじゃないだろうか」
「それって、性善説すぎという気もするけどなあ」
フォウはあくまで懐疑的だ。
「少なくとも俺の目には、あの女はろくでもない代物に見えましたけどね。機械生命体だかなんだかは知らないけれど、俺ならジャンク品として粗大ごみの日に出しちゃうかな」
二人の会話を聞きながら、和彦は思い出す。
グランロゼのことではない。あの強敵に一瞬もひるまず、命をかけて闘いを挑んだファラのことを。
アイザスのため片目を差し出して悔やむことのない、そのひたむきな思いを。
それほどに誰かに思われていながら、おそらくまったく気付いてもいないだろうアイザスを、和彦はもどかしく思った。
せめて昏睡から覚めたアイザスが、いつもの調子でファラに対して癇癪を破裂させなけれぱいいのだが。
そして願わくば、彼女が片目を失った理由に思いを馳せてほしい。
さらに言えば、感謝の言葉のひとつも口にするといい。
「無駄だぜ、和彦さん」
気がつけばフオウがこちらを見ていた。
和彦の表情から察するものがあったのだろう。肩をすくめて苦笑いをした。
「俺だって、あの娘っこがちょっとは報われてほしいと思うけどな。相手はあのアイザスだぜ? 反省するどころか、今頃ぎゃあぎゃあ大騒ぎして、ムルスを閉口させてるはずさ」
「だよなあ」
「それにしてもあの娘っこ、たいした頑張りだったぜ。俺ぁけっこう見直しちまった。女の子ってあんなふうに、土壇場でめちゃくちゃ強くなるもんなんだよな。和彦さんも気をつけなくちゃいけないぜ?」
「えええ?」
和彦は困惑した。
「僕が、何を気をつけるんだい」
「あーあー。自分がハエ取り紙みたいにその場にいるだけで女をバンバン引き寄せてるって自覚のないハンサムは、始末に悪いよなあ。そのうち珊瑚ちゃんに毒入りまんじゅうかなんか食べさせられても文句は言えねえぞ」
「だからなんで珊瑚ちゃんで、なんで毒入りまんじゅうなんだい」
「あー。もういいって。言ってるこっちが腹たってくらあ」
そう言いつつ、フォウがたまらずぷうっと噴き出した。怪訝な顔をしていた和彦も、それにつられて笑ってしまった。
笑いながら、和彦は思った。
ファラの強さ。それは。
愛だ。
この世でそれにかなうものはない。人の持つ感情の中でもっとも尊い思い。
僕の中にも、同じ思いがある。確かにある。
友がいる。大切な人々がいる。
彼らを守るために。
僕は喜んで、闘おう。




