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二面の愛?  作者: Rocket_Ghost
二面の愛?

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第4章:変わりたい

人にどう見られているかばかり気にして、本当の自分を隠して生きてきた。

笑顔も会話も、全部「嫌われたくない」から続けているだけ。

そんな私に、カルロスが言った一言が、心の奥まで突き刺さった。


「もし、ただ孤独が怖くて話してるだけなら、いずれみんな離れていくよ。」


その瞬間から、私は変わりたくなった。

偽りの笑顔じゃなくて、誰かと本当に繋がりたい。

――この気持ちは、初めて本物だと思えた。

カルロスにあの言葉を言われてから、ずっと頭から離れなかった。


「もし、ひとりになるのが怖くて、みんなと話し続けているだけなら、結局はみんなを遠ざけることになる。」


その言葉が何度も何度も、頭の中で響き続けた。

まるで静かな部屋にこだまする声のように、消えてくれなかった。


思い返すたびに、私はこれまでの会話や、作り笑い、社交的に見せるための言葉ひとつひとつを思い出した。

「うまくやっている」と思っていたことが、全部嘘のように思えてきた。

そして、その現実は——痛かった。


学校へ行く準備をしながら考えた。

今日はどうすればいいんだろう。カルロスを無視するべき?

それとも、いつものように“明るく前向きな自分”を演じ続けるべき?

わからなかった。考えれば考えるほど、胸の奥に不安の塊ができていく。


教室に入ると、彼の姿が見えた。

カルロス・ガルバン——いつも通り、落ち着いていて、静かで、その穏やかさが逆に私を惑わせた。

今日は話しかけないと決めた。

“普通”にしていよう。


私は席につき、いつものように笑ってみせた。

クラスメイトの会話に合わせて笑い、先生の質問に答え、いつもの流れの中に自分を溶かした。

でも、心の中は空っぽだった。

どれだけ笑っても、どれだけ明るく振る舞っても、全部が機械的な動作に感じられた。


演じれば演じるほど、疲れていった。

言葉も、笑顔も、リアクションさえも、全部“努力”でできていた。

「なんで私は、みんなみたいに自然に笑えないの?なんで全部が仮面みたいなの?」

そんな思いが頭の中をぐるぐる回った。


授業中も集中できなかった。

カルロスの言葉が何度も蘇ってきた。

周りの子たちがゲームやドラマ、週末の予定について話している声が耳に入る。

でも、私は何ひとつ心が動かない。

反応だけが自動的に出て、感情はどこにもなかった。


休み時間のチャイムが鳴ると、少しだけ救われた気がした。

私は校庭の裏に回って、ひとりになった。

誰の前でもない時間。演じなくていい時間。


そして、そこで彼を見つけた。


カルロスがベンチに座って、他のクラスの男の子と一緒に昼食を食べていた。

その子が楽しそうに喋り続け、カルロスは穏やかに耳を傾けていた。

そして、ふと——微笑んだ。小さく、自然に。

その笑顔は、これまで見たどんな笑顔よりも本物だった。


胸の奥がきゅっと締めつけられた。

羨ましかった。

でもそれは、妬みではなく——私もそんなつながりを感じてみたいという、切実な願いだった。


その後の授業も、頭の中はずっとその光景でいっぱいだった。

誰かと話しても、笑っても、音楽を聴いても、心が動かない。

ただ「好かれたい」ために動いている自分が虚しく思えた。


放課後、私はいつも通り門の近くで座っていた。

カルロスが出てくるのを待ちながら。


やがて彼が現れた。

深呼吸して立ち上がる。


——話さなきゃ。


「マフェル…」

彼が少し緊張した声で言った。

「昨日のこと…ちょっと言いすぎたかもしれない。悪かった。」


「そんなことないよ。」

思わず遮っていた。声が震えていた。

「確かに、少し痛かった。でも…本当のことだと思うの。私、どうやって“本当の友達”を作ればいいのかわからないの。どうやって人と心をつなげるのか、ずっとわからなかった。」


カルロスは静かに頷いた。

その目はいつものように落ち着いていて、でもどこか優しかった。


「わかるよ。」

「昨日言ったのは、傷つけたくてじゃない。ただ、知ってほしかっただけ。」


私は息を整えて、勇気を出した。


「今日、あなたがあの子と話してるのを見たの。すごく楽しそうだった。…私も、そうなりたい。偽らずに、自然に人と関わりたい。だから、もしよければ…教えてくれない?どうすれば本当の自分でいられるか。」


カルロスは少し考えて、そして——穏やかに微笑んだ。


「教えることじゃないと思う。でも…自分を受け入れる手伝いならできる。そこから始まるんだよ。」


その言葉に、胸の中が少し温かくなった。

私は小さく笑って、「ありがとう」と言った。


彼は肩をすくめながら言った。

「覚悟してね、マリア・フェルナンダ。来週の月曜日、君はきっと“初めての友達”を作ることになるよ。」


「えっ…?」

驚いているうちに、彼は自転車に乗って去っていった。

その背中を見送りながら、胸の奥に小さな灯がともる。


——もしかしたら、本当に変われるのかもしれない。


初めてそう思えた。


演じるためじゃなく、“感じる”ために生きてみたい。

そう思ったのは、生まれて初めてだった。

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