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ネフェルの気配

 マミー・オブ・マミーからネフェルの情報を聞いたオレとテティは、アムウに乗って砂漠(さばく)()りる。


 ピラミッドのそばに休んでいたネビイの(となり)で休息したあと、さっそく「におい」をたどることにした。

 マミー・オブ・マミーの言っていたことが本当なら、テティの太ももやオレの(ひたい)に巻かれた包帯のにおいを追っていけば、ネフェルに会えるはずだ。


「そして包帯を悪用していないか、ネフェルに直接たずねます」


 (くちびる)をきっと引き結んで、テティはそう言った。

 ついでオレたちはネビイの背中にまたがる。


「あ、ちょっとジェドさんや、失礼します。追うべきにおいを確認します」


 ここで、テティがオレの額に鼻先を近づけてきた。


「くんくん」

「なにしてんの」

「自分の包帯のにおいをかぐのも変な感じなので、あなたのものを代わりに、ね」


 軽く笑ったあと、テティは後ろからオレにしがみついた。

 オレはネビイの手綱(たづな)(にぎ)り、テティの指示する方向に進んでいく。


「もしかしたらネフェルじゃなくて、例の殺人ミイラに会うかもな。そいつも(たましい)をとどめる包帯を巻いてるんだろ?」


 ここでオレは、くつくつと笑った。


「いや、よく考えたらおまえもオレを殺したミイラだったな。同類じゃないか」

「……わたしが殺すのは、ミイラ取りとかいう(くさ)った連中(れんちゅう)だけです。善良な人を手にかけたりしません」

「分かってるよ」


 そうやってときどき二人で話しつつ、進み続ける。



 ピラミッドを(はな)れ、町も通り過ぎる。

 ついには、周囲になにもない砂漠の真ん中を移動していた。


「なるほど。ネフェルとかいう女は、遠くからミイラたちを町外れに送り()んでいたのかもしれないな」

「しかし、このあたりには身を(かく)す場所なんてないと思いますけど」


「ネフェルはオレやおまえのようなミイラだろ? 砂のなかで生活することもできるんじゃないか」

「その可能性もありますね……」


 考え込むような口調(くちょう)でつぶやいたあと、テティがなにかに気づいたように体を(ふる)わせる。


「おや、ちょっとにおいが強くなってきました」

「……そうか」


 ここからは、さらに慎重(しんちょう)にネビイを進ませる。

 本当に砂のなかにひそんでいることを警戒(けいかい)して、オレは四方(しほう)にかぎ縄を投げつつ周囲に気を配った。

 テティが大声を上げる。


「ネフェルさーん! わたしはテティ。あなたと同じで、マミー・オブ・マミーに包帯を巻かれたミイラです! もし近くにいたら、少し(はな)しませんかー」


 自分のことを堂々とミイラと言うのは本来はばかられることだろうが、今は周辺に人影(ひとかげ)もないので心配は無用だろう。

 それにしても、かぎ縄で砂漠をひっかいて出てくるのは、トカゲやサソリのような小さな生き物ばかり……。


(ネフェルとやらは別の場所にいるのか。いたとしても、(かく)れているつもりなのか)


 が、オレがそう思ったときだった。


「きゃああ!」


 ――というさけびが真後ろから聞こえた。

 ネビイに同乗しているテティの声というのは分かるが……。


(こんな、すっとんきょうな(おと)を出すこともあるんだな)


「ジェ、ジェド! さっき、わたしの背中、なでられました! 人の指の感触(かんしょく)です!」

「なに? (だれ)かいるのか」


 オレはネビイを停止させ、()り向いた。

 果たしてテティの後ろ――ネビイの(しり)のあたりに、(すわ)っている者がいた。

 しかも、あぐらをかいていた。


「……おい。オレのラクダに勝手に乗るなよ」


 いきなり現れたそいつがなんなのか、十中八九(じっちゅうはっく)予想はつくが……一応(いちおう)オレは反応を見る。


 テティと同じく、少女の外見。ただし比較的(ひかくてき)身長は低い。ウェーブのかかったボブカットの(かみ)に、多くの砂粒(すなつぶ)をひっかけている。

 かなりの薄着(うすぎ)だ。露出(ろしゅつ)している(はだ)が多い。

 見たところ包帯もない。どこか不自然である。


 そいつが、からから笑う。


「あたしのこと、このお姉さんが呼んでたじゃん。だから顔を見せたの」


 ――テティの背中に指を()わせつつ、そいつが声をはずませる。


「ともかく、あたしがネフェル。最近マミー・オブ・マミーに助けられたミイラだよ。よろしくね、お兄さん。そしてテティお姉さんも……。そうそう、お姉さんについては、マミー・オブ・マミーから聞いてるよ。立派(りっぱ)墓守(はかもり)さんだってね」

「光栄です」


 声の調子を整えながら、テティがネフェルに顔を向ける。


「しかし、どうして普通(ふつう)に現れなかったんですか。いきなり背後に来られたら、びっくりするじゃないですか」

「ごめんなさーい」


 わざとらしく声を間延(まの)びさせ、ネフェルが口角(こうかく)を上げる。


「だってお姉さんがどこに包帯を巻いているのか、気になったんだもん。動くミイラにとって、マミー・オブ・マミーからもらった包帯は生命線。――弱点とも言えるよね。これから敵対するにあたって、その弱点がどこにあるか(さぐ)るのは当たり前じゃん?」

「……聞き間違(まちが)いでしょうか、今、『敵対』と(くち)にしました?」


「合ってるよ、テティお姉さん。堂々と町外れを歩いてみんなを混乱させているミイラたちに、ついには殺しまでやってしまったミイラ――それらの原因を追って、あたしに会いに来たんでしょ? 正解だよ、全部あたしがマミー・オブ・マミーの包帯を使って実行したことだし」

「事情を話してくださいな」


 そう言うと同時にテティはネフェルの両腕(りょううで)をつかみ、拘束(こうそく)した。

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