表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/45

ドライ

 マミー・オブ・マミーとの戦いが終わったあとも、オレ・テティ・ネフェル・スコルピオンはしばらく球状の室内でじっとしていた。


 全員が回復するまでに、オレの()()()()()二回(にかい)ひっくり返った。

 黒い(ほのお)を生じさせるマミー・オブ・マミーの手首をじかにつかんでいたテティは、とくに回復に時間を(よう)した。


 雲を()らって(くさ)りつつあったネフェルには、水分(すいぶん)(うば)う例の灰をオレがすり()んでおいた。ミイラの乾燥(かんそう)(たも)つための灰である。

 現在のオレに灰の持ち合わせはなかったものの、壁面(へきめん)に映ったマミー・オブ・マミーが指を()ると共に灰の(はい)った(ふくろ)が室内に落ちてきたのだ。


 そのときマミー・オブ・マミーはこんなことをつぶやいた。


「もう決着はつきましたので、これ以上わたくしがミイラたちを追い()める理由はありません」


 おかげでネフェルの腐敗(ふはい)は食いとめられた。

 一応(いちおう)オレは、スコルピオンの左足にも灰をかけておく。


(スコルピオンは戦いの最中(さいちゅう)に左足をマミー・オブ・マミーの雲にくぐらせていたからな)


「おい、ジェド」


 左足に灰をすり込みながらスコルピオンが問う。


「なぜ(おれ)を助けやがる。ミイラのテティとネフェルに関してはその価値を下げないようにケアするのは当然だが、俺はミイラ取り。てめえの商売敵(しょうばいがたき)だろうが」

「そうだな」


 苦笑しつつオレは答える。


「だがすでにおまえも、ミイラに落ちているじゃないか。スコルピオン」

「……ははっ! そうだったな、俺もてめえと同じでミイラ取りのミイラってこった!」


 スコルピオンは豪快(ごうかい)に笑った。

 その(さい)、舌に巻かれた肌色(はだいろ)の包帯が(かれ)口内(こうない)からのぞいた。


* *


 四人全員が動けるようになってからオレたちは、室内の壁面にあいた正方形の穴に(はい)った。


 穴の(おく)の通路は、玉座の()に続いていた。

 元々のマミー・オブ・マミーの玉座の間とは(こと)なり、こぢんまりとしている。それでいて相変わらず(きん)(ぎん)()ざった鏡面のような内装である。


 オレたちは玉座に近づき、立ったままそれをじっと見る。

 鏡面のような玉座の()もたれと座面に「彼女(かのじょ)」の全身が映り込んでいる。


 立体ではなくなったマミー・オブ・マミーの姿がそこにあった。やはり黒いドレスを身にまとっており、かつ平面になった今でも圧倒的(あっとうてき)な美を持ち合わせている。なお首と左右の手首と足首に巻かれていた包帯はすでにない。


 彼女がオレたち一人(ひとり)一人と目を合わせる。


「あらためて明言します。わたくしは君たちに(やぶ)れました」


 その()きとおるような声も、かえって蠱惑的(こわくてき)魅力(みりょく)を増したように思える。


「そういうわけでわたくしは『弱いミイラ』と判定され、ピラミッドそのものに取り込まれたのです。これでは、世界の人間すべてをミイラにするという野望も果たしようがありませんわね」


 わざとらしくため息をついたのち、マミー・オブ・マミーが両腕(りょううで)を広げる。


「さあ子どもたちよ、勝利を喜びなさいな。両手を挙げて『わーい』とさけんでもいいのですよ!」


 だが……。

 この場にいる四人のうちの三人は、露骨(ろこつ)にうれしがったりしなかった。


 スコルピオンが自身の顔面を手の平でたたく。


「なんか()ったって達成感よりも、疲労感(ひろうかん)のほうが上のような気がするぜ。オレが目をつけているミイラどもが無事だったんで、よしとするがよ」


 そう言って大きな息をはく。

 一方(いっぽう)ネフェルは、焦点(しょうてん)の定まらない目で虚空(こくう)を見た。


「あたしを腐敗(ふはい)させたのはマミー・オブ・マミーで、その腐敗から救ってくれる灰をくれたのもマミー・オブ・マミーなんだよね……?」


 そのあとハッとして「でも灰をすり込んでくれたのはジェドお兄さんなんだよね、ありがと」とオレに伝える。


「そしてエフラだったときのあたしに(かみなり)を当てたのもマミー・オブ・マミー。()げたあたしに(たましい)をとどめる包帯を巻いたのもマミー・オブ・マミー。ホント混乱しちゃうなあ。マッチポンプとはいえ、なんか複雑。マミー・オブ・マミーに勝てたのは確かにうれしいんだけどね」


 言葉をにごしたあと、オレに目の焦点を合わせる。


「……お兄さんは、そんなことなさそうだけど。案外、勝利に()かれてたりして?」

「モムには()ったかもしれないが」


 オレは自嘲(じちょう)気味(ぎみ)に表情を(くず)す。


「最後の勝負でテティに負けたから、ミイラ取りとして素直(すなお)に喜べないな」


 ただし、うれしがっている者が一人(ひとり)……。

 テティが左右の手を大きく挙げ、バンザイしている。


「わーい、わーい」


 棒読みにも聞こえる。

 マミー・オブ・マミーは(ひたい)に右手を当てた。


「みんな、ドライですわね……ミイラだけに。まあ、それはそうとテティ。あれを(わた)しておきます」


 玉座に映ったマミー・オブ・マミーが、黒い粘土板(ねんどばん)を取り出す。

 板の表面(ひょうめん)に指をすべらせたあと上に視線を向ける。


 すると天井(てんじょう)一部(いちぶ)に穴があき、そこから板が落ちてきた。

 テティがそれをキャッチする。


「……あ」


 裏表を確認し、(おどろ)きながらテティが言う。


「これ、新しい粘土板(ねんどばん)ですか」

「はい」


 マミー・オブ・マミーが(やさ)しくほほえむ。


「あなたのピラミッドを操作する板は、割れていたのですわよね。だから新しいものをあげます。使い方はこれまでの粘土板と同じです」

「ありがとうございます」


 左足を出し、右手を左胸に当ててテティが礼をする。

 ついで遠慮(えんりょ)がちに付け加える。


「ただ、できれば同じものをもう一枚(いちまい)いただけないでしょうか」

「いいですよ」


 理由をたずねることもなくマミー・オブ・マミーはうなずいた。

 新しい粘土板が、またテティの手元に落ちる。


 そしてテティは二枚目(にまいめ)の粘土板を、すぐ近くに立つネフェルに渡した。


「あなたとわたしのピラミッドは砂時計のように上下一対(じょうげいっつい)ですけれど、黒いほうのピラミッドはあなたの管轄(かんかつ)です。これからも一緒(いっしょ)に、ミイラの墓守(はかもり)として精進(しょうじん)しましょう」

「え……?」


 ネフェルが目をパチクリさせる。


「……ミイラに生者を(おそ)わせたあたしをテティお姉さんが許してないのは分かるよ。これが(ばつ)というのも理解してる」


 ビクリと上体を(ふる)わせ、目を細める。


「でもうわべだけの反省しかしてないあたしに、ピラミッドをあやつれる道具を渡すなんて無用心(ぶようじん)すぎない? あたし、世界を死者のものにするっていう計画……まだ捨ててないよ。その計画のためにマミー・オブ・マミーとの戦いにも加わったっていうのにさあ」

「もちろんわたしもネフェルを完全に信用するほど、おめでたくはありません」


 あくまで冷たい視線を送りつつ、テティが言葉を()ぐ。


「ただ、あなたが今後ミイラのために頑張(がんば)るのであればそれを見届けたいし、まだ悪事にミイラを利用するなら次こそ包帯をすべて(うば)います」

「あちゃー、これは裏切れないなー」


 少しだけ挑発的(ちょうはつてき)口調(くちょう)でネフェルは返した。

 直後、真剣(しんけん)声音(こわね)を作る。


「だけど感謝します。お姉さんにも、マミー・オブ・マミーにも」


 粘土板を両手に持ち、頭を下げる。

 マミー・オブ・マミーにも感謝を伝えたのは……彼女がこの展開を予想して二枚目の粘土板をテティに預けたのだとネフェルが気づいたからだろう。


「さて、これでわたくしのやるべきことは終わりました」


 玉座に映ったマミー・オブ・マミーが両腕を真上(まうえ)()ばす。


「ピラミッドに取り込まれた今のわたくしにできることは、天空に()かぶこのピラミッドの管理くらいです。しばらくは(そら)浮遊(ふゆう)しながら、のんびりしますかね」

「……モム」


 腕を下ろすマミー・オブ・マミーをオレは凝視(ぎょうし)した。


「まだ(かく)していることがあるんじゃないか」

次回「ただのミイラとミイラ取り」に続く!(次の次が最終話になります)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ