表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/45

不敬

 もはや、モムだのなんだの()()()必要もない。

 これは現実のマミー・オブ・マミーに(かか)わる話だ。


 ネフェルも覚悟(かくご)を決めたように、うなずいている。

 表面(ひょうめん)を取り(つくろ)うのは、ここまでだ。


「――元々エフラだったネフェルはおまえのピラミッドをあとにし、世界を死者のものにするという計画を進めた。最初、ネフェルは地上のピラミッドに近寄ったという。ここで都合よく、砂にあいた穴を見つけたらしい。その先に逆三角形のピラミッドがあった。そこを拠点(きょてん)()えた」


 (だれ)にもバレないよう、穴はすぐにうめたようだ。

 ただし、その都合のいい穴も意図的に用意されたものと思われる。

 ネフェルがこの世界を(おそ)いやすいよう、マミー・オブ・マミーが(ひと)つの基地を提供したのだ。


「モム――おまえ、テティから『動くミイラ事件』の報告を受けた際、心で小躍(こおど)りしたんじゃないか。すぐにネフェルと結びつけ、その計画の全貌(ぜんぼう)もイメージしたんだろ?」


 なにも答えないマミー・オブ・マミーに向かって、オレは軽いため息をついた。


「おまえはオレとテティが来たとき、『選別』と(しょう)してピラミッド内部で多くの質問をし、意味深なアドバイスもくれたよな。(そら)()かぶ神秘的なピラミッドに住むミイラとして……なかなか、それらしい態度だった。そこが、いかにも役割を演じている感じで(うす)っぺらかった」


 実際、選別やアドバイスには、たいした意味もなかったんだろ?

 せいぜいテティが自分の野望に(かん)づいていないか……ジェドとかいうやつが自分の計画に利用できるか……そんなことを見極めていたんじゃないのか?


「こうしてモムはネフェルの計画が進行するのを心待ちにした。ミイラたちが町を……ひいては世界を襲撃(しゅうげき)するのを期待した。みずからの世界支配の野望のために。ネフェルというコマが見つかった今、テティも用済みになった」


 一気にオレは、まくし立てる。


「だからモムはテティに()()()を追うよう指示し、ネフェルとぶつけ合わせた。自分の手をよごさず、ネフェルにテティを始末させるべく。――だがそれが裏目に出た。かえってテティはネフェルの本拠地(ほんきょち)()きとめ、ネフェル自身を打ち負かした」

「……まるでわたしだけの功績みたいに言わないでくださいな。ジェドのおかげでもありますよ」


 テティが目を()せ、小声を出す。


「それで……あなたは、こう続けるつもりですかね。マミー・オブ・マミーはネフェルを利用するのに失敗した。自身の野望実現も遠のいた。だから、また慈悲(じひ)(ぶか)いミイラの母になりきって、再び好機がめぐってくるのを待つことにしたと」

「ネフェルとそのミイラに対する寛大(かんだい)な裁きにしても――」


 オレはテティの黒いロングヘアを見下(みお)ろし、答えた。


「――自分の立場を守るパフォーマンスだったんだろうさ」

「あなたがなにを主張しようと、わたしはマミー・オブ・マミーを信じますよ」

(くち)ではそう言っても、もう()れてるだろ、おまえ」


 すぐにオレは言葉をかぶせた。


「オレから一対一(いったいいち)で話を聞いていたら、まったく折れなかったんだろうが……今はマミー・オブ・マミー自身が近くにいて、その態度もどこか(あや)しい。うっかり(くち)をすべらすのを(おそ)れているかのように、ろくに反論もしない」


「誤解ですわよ」


 足を組むのをやめ、玉座のマミー・オブ・マミーが胸をそらす。


「わたくしがあまりしゃべらなかったのは、君のお話が事実無根で、抗弁(こうべん)の必要性すら感じなかったからです」

「すると本当は、動くミイラ事件も望んでおらず、テティに解決してほしかったと?」


「無論ですわ」

「じゃあ、オレたちが天空のピラミッドを(たず)ねたとき」


 オレはあごを引き、マミー・オブ・マミーをにらんだ。


「どうしておまえ……テティに非協力的だったんだ?」

「なにを言うのです」


 彼女(かのじょ)が黒いドレスを()らす。


「わたくしはネフェルのことを話し、テティにアドバイスも(あた)えたではありませんか」

「そうだ。においを追うようにってな。ただ、()()()()()()()()()()()()()()。必要な情報を、なにも。ネフェルの人相も。彼女に巻いた包帯の特性も。……動くミイラ事件の首謀者(しゅぼうしゃ)がネフェルである可能性は、あの時点で充分(じゅうぶん)に高かった。それなのにネフェルの詳細(しょうさい)を教えないなんて、ありえるか? たとえ聞かれなかったにしても……」


 とはいえオレも、そのときは変だと思わなかった。

 マミー・オブ・マミーの圧倒的(あっとうてき)な美しさに、(まど)わされていたからだろう。


「あと、ネフェルがテティの鼻を利用した誘導(ゆうどう)をおこなっていたことから察するに、おまえはテティの鼻がいいこともネフェルに伝えていたな。つまりおまえは、においを追うようテティに助言したくせに、向こうがそれを知っているという情報は伏せていたってことだ。……普通(ふつう)にバカにしてる」


 ここで、ようやくマミー・オブ・マミーの()みが(うす)れ、彼女の目尻(めじり)がぴくりと(ふる)えた。


「おまえが教えるべきだった情報はまだある」


 オレは、ゆかを軽く()った。


「このピラミッドが地下を(かく)していたことだ。ネフェルの居場所(いばしょ)が不明な以上、そこに隠れているかもしれないということで……最初から地下についておまえはテティに教えるべきだった。ピラミッドを(あた)えたのはおまえなんだろ? だったら地下の建造物のことを、知らないわけがないよなあ」


 思わずオレはマミー・オブ・マミーを指差していた。


「……聞かれなかったことをいいことに、これら全部をすっかり言い忘れていたわけか。わざとじゃなければ、なんなんだよ。本当にテティのことを思っていたなら、せめて(ひと)つくらいは教えることができただろうに」


 ついでオレは、指先をテティに向ける。


「テティ――おまえ、これでもマミー・オブ・マミーを信じるのか」


 当のテティは何度も(くち)をひらこうとしたが、その都度せき()んだ。


(まあ無理もないか。今まで自分の信じてきたものの信用が(くず)れかかっている一方(いっぽう)で、それには自分をよみがえらせてもらった恩義がある。マミー・オブ・マミーの本性(ほんしょう)がどうであろうと彼女がいたからこそ、テティは墓守(はかもり)として暮らすことができていたんだろうしな)


 少なくとも現在のテティは、簡単に「信じる・信じない」と結論づけられる状況(じょうきょう)にない。

 そんな動揺(どうよう)する彼女を見つめ、マミー・オブ・マミーが玉座から立ち()がった。


「これ以上のごまかしは、できないようですわね」


 自分の立場が(あや)うくなっているにもかかわらず、その美しさは微塵(みじん)も崩れない。

 むしろ所作(しょさ)と表情の「美」の度合いが、いや増したようにも思える……。


「なかなか(かん)のいいことですねえ、ジェド。そうですよ、わたくしはこの世界をミイラに蹂躙(じゅうりん)させようと考えていました」


 人を惑わすに充分(じゅうぶん)な、妖艶(ようえん)()きとおった声を(ひび)かせる。

 さらにネフェルに顔を向け、見下ろす。


「しかし、だからこそ……ネフェル。本音を言えばわたくしは、この世を死者のものにするという、君の理想をかなえてあげたいのです。今から共に歩みましょう」

「すみません、できません!」


 ネフェルはすっくと背を()ばし、マミー・オブ・マミーを見上げた。


「今さら伝えられても、テティお姉さんに見捨てられそうだから、あたしにすり寄ってきたとしか思えません。……粘土板(ねんどばん)(かい)してピラミッドを半回転させられることとかを、あなたが事前に教えてくれていたら話は(ちが)ったけど」


 ここでネフェルが、語調を強める。


「――あたしを利用したあとは、すべてをかっさらう気じゃないの?」

「はっきり申しますわね。その態度から察するに……なるほど、ネフェルはわたくしがここに来る前から決別を考えていましたか」


 マミー・オブ・マミーが、オレに目を移す。


「原因は君ですね、ジェド。マミー・オブ・マミーたるわたくしの面目(めんぼく)をここまで(つぶ)しておいて、無礼だとは感じません?」

「まったく感じない。だいたい、その名も自称(じしょう)だろ。なにより……前に天空のピラミッドで会ったとき、すでに伝えたはずだ」


 そしてオレは、そのときの自己紹介(しょうかい)をくりかえす。


「オレはミイラ取りのジェド。オレは――おまえに敬意を(はら)わない」

同じ人に同じ自己紹介をすることも、たまにある。

次回「おいとま」に続く!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ