表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/45

エフラから

 せき(ばら)いして、オレは芝居(しばい)がかった口調(くちょう)(もど)った。


「――モムは『彼女(かのじょ)』に包帯のみならずピラミッドも(あた)え、墓守(はかもり)の役割をまっとうさせていました」


 玉座に(こし)かけるマミー・オブ・マミーと、オレの(なな)め前に立つネフェルとテティをちらちら見ながらオレは続ける。


「そして『彼女』は仲間を(むか)えました。新たな仲間の『(かれ)』は、生者であるにもかかわらずミイラと自然に接することのできる貴重な人間でした」


 ここでオレが言っている「彼」とはエフラのことだが……そいつが実際にそんな人間であったかは知らない。

 ただ、テティが仲間としてみとめていた人物だ。

 必然的に、優秀(ゆうしゅう)な墓守ということになる。


「さて問題が起きます。『彼』はモムの野望に気づいてしまったのです。(そら)()かぶピラミッドを(たず)ねたとき、偶然(ぐうぜん)にもモムの()()()()ひとりごとを耳にしたのです。『彼女』を利用して世界を支配するつもりだったが、なかなかうまくいかない――という趣旨(しゅし)のひとりごとを」


 当然ながら、ひとりごとのくだりはオレのでっちあげにすぎない。


(オレはあくまでミイラ取り……論理的な推理なんて不可能さ。だがスコルピオンじゃないが、悪意をもって「(かん)」を働かすことくらいは()()()んだよ)


 マミー・オブ・マミーがそれを受けて「(ちが)う、真実はこうだった」と反論してくれれば上出来(じょうでき)だったが……当のマミー・オブ・マミーは顔に()みを()りつけたままだ。

 向こうも見え見えの(わな)にひっかかるほど間抜(まぬ)けではないらしい。


「……『彼』は仲間の『彼女』にモムの本性(ほんしょう)を話すか迷いました。しかし、あのひとりごとは自分の聞き間違(まちが)いの可能性もあると考えた『彼』は、確証を()るまで(だま)っておくことにしました。とはいえ、ひとりごとが真実だとしたら『彼』はモムに始末されるかもしれません」


 失踪(しっそう)する前、エフラの様子は変ではなかったか?

 そう問うようにオレは、(くちびる)(ふる)わせているテティにまばたきしてみせる。


「そこで『彼』は自室にメッセージを残しました。『わたしは()()を信じています』と。本当に信じていればわざわざふれる必要のないことを書き、逆に疑念を示したのです。『彼』はベッドの(した)にメッセージを(かく)しましたが、この文言(もんごん)なら万一(まんいち)モムに見つかっても言い訳できます」

「ねえ」


 ネフェルが小さく手を挙げる。


「メッセージは、仲間の『彼女』に向けたものなの?」


 事前の()ち合わせどおりである。


(テティの留守(ちゅう)に話をすり合わせていた甲斐(かい)があったな)


 オレは(おお)げさに両腕(りょううで)を広げた。


「はい。『彼』は『彼女』を墓守として敬愛していました。モムを信じる彼女の思いを尊重しつつも、『彼』は『彼女』を守るためにモムを(うたが)ったのです。ところが」


 オレは両手で顔をおおい、さけんだ。


「外出中――『彼』は(かみなり)にうたれました! 疑われていると気づいたモムが天空のピラミッドから雷を落とし、『彼』を始末したのです!」


 ついで、左右の手を横にどけて顔を出す。


即死(そくし)でした。その一瞬(いっしゅん)において『彼』は()()()()()()うめきます。自分を殺したのは明らかにモム。これでモムの本性は確定。なのに『彼女』に真実を伝えられず死ぬのだから、いまわのきわに未練をいだくのは当たり前です」

「雷……未練……」


 テティがオレから目を(はな)し、(となり)のネフェルをまじまじと見る。


「ジェド――あなた、まさか……『エフラとネフェルは同一(どういつ)人物』と言っているんじゃないでしょうね……?」


 自分よりも身長の低い、少女の外見に視線を()わせた。

 ()もなく、首を横に()る。


「やっぱり面影(おもかげ)がないですよ。性格も、顔も、性別も、体格も。エフラは真面目(まじめ)で、大人(おとな)っぽくて、男性で、高身長なんです!」

「問題なのは、どうしてモムが()()『彼』を殺したのかという点です」


 ぽん、ぽん……。

 オレは自分の頭を小さくたたいて、テティ、ネフェル、マミー・オブ・マミーと順に目を合わせた。


「モムは『彼』を消すと同時に、高潔な『彼女』に代わる世界征服(せいふく)のコマを(ほっ)しました。その際、『彼女』もみとめる『彼』の墓守としての才能に注目しました。ただし生きたままでは利用できそうにありません……『彼』は真面目だったようですからね。だからモムは一度(いちど)『彼』を殺害し、コマに作り()えたのです。ミイラではなく生きた人間だったため、始末自体は簡単でした」


 笑顔(えがお)のマミー・オブ・マミーをにらんで、オレは頭から手を(はな)す。


「その『彼』を(かみなり)()がしたのは、仲間の『彼女』に『再利用』がバレないようにするため。加えて脳を多大に損傷させ、不都合な記憶(きおく)(うば)い取るため。『彼』の(たましい)に刻まれた()()()()()()()()――それさえ傷つかなければ、ミイラを使役(しえき)させて果ては世界を蹂躙(じゅうりん)させるうえで最良のコマになるでしょう」


 続いて「再利用」の手順を説明する。


「まず雷撃(らいげき)で全身を焼き、視覚的な性別を曖昧(あいまい)にします。熱を帯びた状態の体を加工して余分な骨や筋肉を取りのぞき、骨格(とう)を作り替えます。『彼女』に生前の『彼』を想起させないよう、『彼』とはまったく違う少女の体形に変更(へんこう)したようです」


 荒唐無稽(こうとうむけい)なことを言っているなと自分でも思う。

 だがすでにオレは――ミイラになった瞬間(しゅんかん)から、()()()()()()()()()んでいる。ありえないと思われた世界が絵物語だけでなく現実にも存在すると身をもって知っている。


(なにより「マミー・オブ・マミーにはそれが可能である」と……オレのミイラ取りとしての勘がささやいて()()()()……)


「次に、ミイラ化した遺体(いたい)の全身に魂をとどめる包帯を巻きつけます。普段(ふだん)肌色(はだいろ)の包帯であるものの実際は周囲に合わせて模様(もよう)を自在にできるので、わずかに残った顔の面影(おもかげ)さえ消し去れます」


 全身が焦げていたならば、くまなく包帯を巻いても違和感(いわかん)はない。


「そしてモムは性別が変更(へんこう)された『彼』を自分のピラミッド内で目覚めさせました。よみがえって女性になった『彼』は生前の記憶を喪失(そうしつ)していましたが、自分の肌の焦げを見て死因だけは思い出しました。さらに……自分を復活させたモムを信用した『彼』は、新しい名前を(さず)けられました。『彼』の人格は、自己の体に合わせて再構築されていきます」


 (はな)し方も、少女の()()に近くなっていったのだろう。


「少女になった『彼』は、とくに焦げた素肌(すはだ)を気にしていました。モムはそれにあわれみの目を向け続けました。その視線を感じ取ることで次第(しだい)に『彼』の心には、生者のはかなさと世界の理不尽(りふじん)さばかりが概念(がいねん)として住み始めたというわけです」


 わざとらしくオレはため息をつき、かぶりを()った。


「このタイミングでさりげなくモムは(くち)にしました。『ミイラの君も、(そと)に出たいですか。ピラミッドの外は現在、生者でいっぱいですわよ。いつ雷にうたれるかも分からない――そんな不安がはびこっています。ミイラにならない限りこの苦しみが終わらないのは悲しいことですわね』と。それを聞いた『彼』は……ピラミッドからミイラを出して生者を代わりにそこに()れ、砂漠(さばく)の世界を死者のものにすることを思いつきました。うまく誘導(ゆうどう)されてしまったのです」

「少々、無理のある筋書(すじが)きではありませんかしら」


 マミー・オブ・マミーがにこやかに言う。


「わたくしには、そのモムのセリフから『彼』がそんな気持ちをいだくとは思えませんわ」

「同意します」


 オレは右足を前に出し、頭を下げた。


「しかしモム視点では、それで誘導に失敗してもまた別の方法を採用すればいいだけですのでリスクがありません。あくまでミイラの母として許される言葉をはきながら、じっくり誘導を試みるのみです。その成果が、たまたまそのタイミングで現れたかたちですね。本当は、もっと積み重ねがあったと思われます」

「なぜ、君に断言できるのです」

「……『()()()()()()()()()()()』と本人から――ネフェルからすでに聞いているからだよ。マミー・オブ・マミー」


 ついであごを上げ、見下(みお)ろすようにオレは美貌(びぼう)に視線を投げた。


「いや、今なら『モム』という(ひび)きも案外、似合うかもしれないな。マミー・オブ・マミー改めモム……ははっ、こりゃいいや」

ただのでっちあげが本当のことだったりもするんだろうか……?

次回「不敬」に続く!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ