表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/45

マミー・オブ・マミーを招待する

 ――町に出たテティは、すぐには帰ってこなかった。

 外出してから三日後にピラミッドへと(もど)ってきた。


(三日というのは、オレの体内砂時計で計測した場合の三日だがな)


 帰ってきたテティが(とびら)をあけ、オレの部屋に(はい)る。

 まだピラミッドは逆さまなので、扉の位置は天井(てんじょう)に寄っている。したがって彼女(かのじょ)(かべ)を乗り()え、着地した。


「ただいま帰りました。ジェド、なにか問題はありましたか」

「とくにないね」


 オレは、ベッドに(すわ)って足を組む。


「黒くなったピラミッドが気になったのか()()(はい)ろうとした部外者が何人(なんにん)かいたが、オレが対応しといた。『改装(かいそう)しただけです』と言って追い返してやったよ」

「……(かれ)らはミイラ取り()()なかったのですね?」


「ああ、町の住民たちだった。ちなみにそいつらと話をする際、ネフェルに同行してもらった。オレと包帯でつながっているから、必然的に背負(せお)われたまま一緒(いっしょ)に動くしかないわけだ。で、オレは連中に新しい墓守(はかもり)仲間としてネフェルを紹介(しょうかい)しといたよ。彼女の手足の緊縛(きんばく)については訓練の一環(いっかん)ってことにして、ごまかした」


 ベッドに横たわるネフェルをちらりと見て、オレは首を回す。


「で、テティ。おまえのほうは? ちゃんと町のやつらに説明できたのか」

「はい」


 テティが、左右の太ももの包帯に指をすべらせる。


「それぞれの町の自警団のかたに、動くミイラ事件は解決したと伝えました。当然ながら、わたしがミイラであることやピラミッドが半回転したことなど――()せるべき事実は伏せましたけど。……あとはアムウと共に町を見回り、潜伏(せんぷく)しているミイラがいないことを確認しました」

「しっかりしてんな」


 オレは(かた)をすくめてみせた。


「ネフェル自身はピラミッドの(そと)に部下のミイラはいないと――ゼロと言っていたが、それを()に受けていなかったってわけだ」

「わたしが本当の意味で信じるのは――」


 胸に両手をあてがい、テティが少し目を閉じる。


「マミー・オブ・マミーだけです」


 その言葉を聞いたとき、ベッドの上でネフェルが寝返(ねがえ)りをうった。

 とはいえ、動くミイラである彼女が(ねむ)ることはない。起きたままの寝返りである。


「テティお姉さん」


 ネフェルが横たわったまま、視線を(なな)め上にやる。


「ジェドお兄さんが来る前のお仲間さんも、お姉さんと同じ考えだったの? 天井に『わたしはマミー・オブ・マミーを信じています』って書いてあるけど……あれ、エフラという人が残したものなんだよね」

「気づきましたか」


 テティも、天井に書かれた文字列を見上げた。


「……確かエフラの名前についてはジェドが町のかたから聞いていましたっけ。そのジェド経由(けいゆ)であなたはエフラのことを知ったわけですか」

「まあ、そうだよ……で、エフラさんはマミー・オブ・マミーのことをどう思っていたわけ?」


「わたしと同じく彼もマミー・オブ・マミーを母とあがめていました。エフラはミイラではなかったのに。わたしが信じていたから、それに合わせてくれたんでしょう」

「へー、エフラさんはミイラじゃなくて生きた人間だったんだ」


 ネフェルはうなずいた。

 しかし直後、首をかしげる。


「……って、え? 今、お姉さん、『彼』って言った?」

「エフラは男性ですので」

「あれ……?」


 困惑(こんわく)の声を()らしつつ、視線をテティにそそぐネフェル。


「ねえ、お姉さん。あたしって……女だよね」

「会話の流れがよく分かりませんが」


 テティがあごを引き、ネフェルと目を合わせた。

 自分よりも身長の低い、その体を観察する。


「そうですね……見た目は、かわいらしい少女じゃないですか? もちろん、いろいろ()からびているためミイラに生殖(せいしょく)能力はありません。厳密に言えばわたしもジェドもあなたも性別を喪失(そうしつ)した状態です」

「マミー・オブ・マミーも?」

「彼女が有する母性は、もっと精神的なものだと思います」


 ネフェルにいぶかしげな視線を送りつつ、テティは自分の太ももをなでた。


「ともかく、動くミイラ事件の解決を町の人に伝えた今、マミー・オブ・マミーに会わなければなりません。あなたとその部下の処遇(しょぐう)を決定してもらうのです」


 テティがきびすを返す。


「では、これからマミー・オブ・マミーのピラミッドに飛んでいきましょう」

「待った」


 オレがテティを呼びとめる。


「やつを地上に招待(しょうたい)しようじゃないか」

「ご足労(そくろう)をかけるわけには()()()()()


「彼女にミイラたちを裁いてもらうためには、実際に自分の目で確認してもらう必要があるだろ」

「……まあ確かに」

「とはいえ捕虜(ほりょ)は数十体以上いる。アムウに運んでもらうには多すぎる。だから、マミー・オブ・マミー自身に足を運んでいただくのさ」


 ついでオレはテティが答えるよりも先に、付け加える。


「お客さまをもてなす用意も万端(ばんたん)だ。とっておきの、おもしろい話を仕入(しい)れたんだ。きっとマミー・オブ・マミーも満足してくれることだろう」

「なんです、おもしろい話って」

「まだ秘密だ。簡単に明かしちゃ、つまらない」


(ここでおまえに伝えても、信じるわけがないからな)



 ……テティは考え()んだあと、オレの提案に同意した。


「いいでしょう、ただし失礼のないよう、まずわたしが天空のマミー・オブ・マミーのもとに参上します。そのあと彼女をアムウに乗せて地上に下ろしたのちピラミッド内に案内する……この流れでいきましょうか」

「いいんじゃないか」

「……わたしは再びピラミッドを留守にします。というわけでジェド、もうしばらくネフェルの包帯を巻いたままにしておきなさいな」


 テティが左の太ももの包帯の一部(いちぶ)をほどく。

 するとそれは白蛇(しろへび)のアムウになり、丸太のように膨張(ぼうちょう)した。


 アムウにまたがり、テティは扉から出ていった。


* *


 しかし今度は用事を済ませるのに、たいして時間を()わなかったようだ。


 ひまになったオレはネフェルをおぶった状態でミイラの安置室に移動し、灰をかけるなどの仕事をこなしていたのだが……その(ひつぎ)(ふた)を三十ほど動かした段階で、見張りのミイラから知らせが(はい)った。テティが帰ってきたのだ。



 マミー・オブ・マミーも一緒(いっしょ)だった。

 きらびやかな黒いドレスがひるがえり、ミディアムヘアが清楚(せいそ)になびく。

 相変わらず左右の手首、足首、通常の首――都合五つの部位に包帯を巻く、美しさの権化(ごんげ)のような女ミイラである。


 オレはマミー・オブ・マミーを、ピラミッドのそばの砂漠(さばく)出迎(でむか)えた。

 彼女がオレに、慈愛(じあい)に満ちた(ひとみ)を向ける。


「テティから聞きました」


 つつましやかな(くちびる)から、()きとおるような声がする。


「ジェド、動くミイラ事件の解決に君も多大に貢献(こうけん)したようですね。ご苦労さまでした」

「いえいえ……」


 オレは頭にかぶっていたターバンを外してみせた。


「こりゃ、もったいないお言葉ってやつだな?」

「……生意気なのは相変わらずですか、ジェド。ともあれ、ありがとうございます。わたくしはマミー・オブ・マミーとして、テティと君を(ほこ)りに思いますわ」


 妖艶(ようえん)に、マミー・オブ・マミーが微笑(びしょう)する。

 横に(ひか)えているテティは、礼を返していた。


 なおオレに背負(せお)われているネフェルは、なにも言わなかった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

評価やブックマーク等も大変励みになっています!


次回は十一月十五日(土)午後七時ごろの更新です。

次で二十三話目になります。サブタイトルは「モム」の予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ