表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/45

逆さまの玉座の下で

 ――テティとスコルピオンが戦っているあいだ、オレは()り向かずに大回廊(だいかいろう)を走り続けていた。


 回廊(かいろう)の先には階段があった。

 といっても今のオレから見れば……その階段は天井(てんじょう)から延び、(した)に向かって続いている。


「テティがピラミッドをひっくり返したから当然か……」


 よってオレは階段の裏の――ちょうど坂になっている部分を()りていく。

 テティによると、この階段の先にネフェルがいるそうだ。


 途中(とちゅう)でネフェル陣営(じんえい)のミイラ数体と鉢合(はちあ)わせたが……戦う際は(はだ)の色の包帯をねらえばいいだけなので、たいして脅威(きょうい)を感じずに蹴散(けち)らすことができた。


* *


 そうして階段の裏側を(つた)っていき、オレは(ひと)つの広間にたどり着いた。


 黒っぽい石壁(いしかべ)が、あやしく照り(かがや)いている。

 ほかの通路と同様、やはりここの壁際(かべぎわ)でも、ピラミッドが半回転したときに落ちた火が木片(もくへん)と共に燃え続けている。


 (おく)の天井――つまり元々ゆかだった場所を見上げると、玉座があった。

 長方形の背もたれに豪奢(ごうしゃ)(かざ)りをつけた黒い玉座だ。逆さまに垂れ()がっている。


(まるで、のどひこだな……)


 玉座の真下に、小さな女が立っている。

 相変わらずの薄着(うすぎ)だ。ボブカットの彼女(かのじょ)がオレに気づいて、にやりとする。


「あっれー、お兄さん一人(ひとり)なのー? もしかしてテティお姉さんにふられちゃった?」

「やつにはスコルピオンを任せてある」


 オレは両手を開閉しつつ、体の状態を確かめた。


(よし、問題ない。テティから(はな)れすぎればオレは動かなくなるわけだが……どうやら今、その心配は無用のようだな)


 あらためて、(たお)すべき敵を見据(みす)える。

 目の前の女……ネフェルは口元(くちもと)()さえている。


「へえー、あんな化け物じみたミイラ取りと戦わせるなんて、お姉さんのこと、ずいぶん買っちゃってるんだね」

「オレをコマにしたやつだからな」


「なにそれ、のろけ? なんか不公平、感じちゃうね。そもそも、あたしとテティお姉さんって、どこが(ちが)うのかな。お姉さんだってミイラをあやつったりしてるじゃん」

「同じなのは、そこだけだ」


 数歩だけ、オレはネフェルに接近した。


「テティはミイラを無差別には使役(しえき)しない。不用意にミイラを人目にさらして生者を混乱させたりしない。ミイラを使って罪のない者を(おそ)わせたりもしない。あいつはミイラ取りにだけは異常なまでに容赦(ようしゃ)しないが、それ以外の人間に対しては真摯(しんし)に接しているフシがある」

「あたしミイラ取りじゃないよ?」


「どうだかね。世界をミイラのものにする――それがおまえの計画だったか? ピラミッドの(そと)にミイラを出すんだろ? つまりおまえは共同墓地のピラミッドからミイラを(ぬす)んで、日の当たるところに放り出すってわけだ。どう考えても、立派(りっぱ)なミイラ取りだろうが」


 オレは(かた)にかけたカバンから、かぎ縄を二つ取り出した。

 遠心力をつけるように、左右の手でそれらを回す。(かぜ)を切る(おと)がヒュンヒュンと鳴る。


「かつ、ネフェル……おまえはミイラでもある。だからミイラ取りとして、おまえの身柄(みがら)はオレが取る」

覚悟(かくご)、決まってるねえ、ジェドお兄さん」


 真上(まうえ)に垂れ()がる玉座を見上げ、ネフェルが口元から手を(はな)す。


砂漠(さばく)の真ん中で仕掛(しか)けたあたしのかく乱にも(まど)わされず……ピラミッドをひっくり返して、あまつさえこの場所まで()()んできた二人には敬意を(はら)わなきゃだめだよね。ひとまずお兄さんをあたしの人形にして、あとから来たお姉さんに見せつけてやろっと」

奇遇(きぐう)だな、オレもおまえに対して同じことを考えていたよ」


 充分(じゅうぶん)に遠心力をためたところで、オレは左右のかぎ縄をネフェルめがけて投げつけた。

 対するネフェルは、両手の親指と人差し指で二つの輪っかを作る。


「すごーい! お兄さん二刀流もいけるんだ! ……でもさあ」


 まるで、なにかを持ち、それをあやつるかのように、ネフェルが両手を動かす。

 すると飛んでいたオレのかぎ縄が急に勢いを失い、(おと)を立てて地に落ちた。

 ネフェルは手に輪っかを作ったまま、からからと笑い声を上げる。


「ありゃりゃ、あたしに届かなかったね。え、()えた? 思いどおりにいかなくて、萎えちゃった?」

「いいや」


 ひとまずかぎ縄を引き(もど)して回収し、オレは静かに笑い返す。


一筋縄(ひとすじなわ)ではいかないから、燃えるんだ」


 ついでオレは手持ちの煙玉(けむりだま)破裂(はれつ)させ、あたりに広がる煙幕(えんまく)にまぎれた。


(ネフェルもテティほどの鼻は持っていないだろ。それに煙のなかでの移動は、オレのほうが慣れてんだよ……。さて、視界の悪いこの状況(じょうきょう)で、おまえはどう動く?)


 煙の向こうに、小さな人影(ひとかげ)を見つける。ただし無警戒(むけいかい)に近づけば、以前テティにやられたように、こちらが反撃(はんげき)()らうかもしれない。

 とはいえ、かぎ縄を飛ばせば、それなりの音が出てしまう。


(なら……いっそのこと、オレたちのいるこの広間を音で満たしてやる)

 

 左に持ったかぎ縄をゆかにひっかけ、そのまま地を()うように移動させる。

 聞くにたえない高音が周囲に(ひび)(わた)る。


(この音にまぎれ、本命のかぎ縄をぶつける)


 右のかぎ縄を回す。今や(かぜ)を切る音は、ゆかをひっかく音にかき消されていた。

 今度こそという思いを()めながら、小さな人影に向かって(とう)てき――。


 ――だが。

 かぎが当たる直前、ネフェルの気配が完全に消えた。人影が視界から消え()せた。


(どこに()った?)


 そして、煙が徐々(じょじょ)に晴れていく。

 ここでオレの背中に、衝撃(しょうげき)と痛みが走った。


 ばちーん!

 爽快(そうかい)な音がとどろく。

 オレはかぎ縄をカバンに収め、()り返った。


 ネフェルが背後に立っていた。

 充分に間合いをとった状態で……左右の手に輪っかを作ったままオレのほうを見ていた。


 あらためて向きなおるオレを挑発(ちょうはつ)するように、表情をゆがめる。


「お兄さーん、さっきから一方的(いっぽうてき)にやられてばっかだね。退屈(たいくつ)になってきちゃうよ。だから、お話でもしよっか……」

玉座、落ちてこないんだろうか……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ