因縁か相性か
黒いピラミッド内の大回廊にて――。
スコルピオンが巨体の筋肉を震わせ、オレとテティに鋭い視線を送りつける……!
(面倒だな)
一歩だけ前に出て、オレは聞く。
「どうやって、こちらの行動を読んだ」
「勘だよ!」
スコルピオンも、オレのほうに足を踏み出す。
「ピラミッドの上下が逆転した瞬間、ネフェルはてめえらの襲撃を予想した。で案の定、お仲間と一緒に攻め込んできやがったな? そして俺は『乱戦になった』とネフェルのミイラから報告を受けた。敵のミイラがまっすぐ進軍しているともな。だが戦いってのは、そんな単純じゃねえだろ?」
「だからこっちの道で待ち伏せしたのか。オレたちが正規ルートを通らないことを見越して」
オレは肩にかけているカバンをまさぐりながら、ため息をついてみせた。
「相変わらずミイラ取りとしての嗅覚が図抜けているな」
「ミイラを大量にしとめるのも楽しそうだったが、やっぱてめえとの決着をつけねえとな! ええ、ジェドよお! しかし怖いってんなら、引き返してもいいんだぜ? そんときは、そこまでの男だったと評価を改めるだけだからよ」
スコルピオンが居丈高に挑発する。
目をそらし、オレは小声を出す。
「確かに今さらながら恐ろしくなってきた。オレはおまえと戦わずに済ませたい」
「え、本当に引き返すのか? 考えなおせよ」
「そんなに悲しげな声で……訴えるなって」
すかさずオレはカバンからかぎ縄を引っ張り出し、スコルピオンに投げた。
三つ股のかぎが右方向に飛ぶ。向こうはそれを軽々とよけ、にんまり笑った。
「なんだ、やる気あるじゃねえか」
壁の継ぎ目に食い込んだかぎをちらりと目に入れ、彼が大声を上げる。
「さあ、こっち来いよ! 踊ろうぜえ!」
自分のそばの縄をつかみ、ぐいと引っ張るスコルピオン――。
かぎ縄を握っているオレが、やつに引き寄せられていく。
ここでオレは――。
自分の縄から手を離した。
結果、勢いよく縄を引っ張っていたスコルピオンの体勢が崩れる。
「うおわ!」
彼のさけびを無視してオレは、向かって左に回り込む。
ついでカバンから、「もう一つ」のかぎ縄を取り出す。
オレは、同じかぎ縄を二つ持っている。両方とも、かぎとは反対の先端に重りをつけている。
離したかぎ縄の重りめがけて、新しく出したかぎ縄を飛ばす。
重りにかぎをひっかけ、引く。
すると縄全体がぴんと張り――スコルピオンの腹部に豪快に食い込んだ。
「げふうっ!」
鼓膜が痛くなるほどの悲鳴がとどろく。
オレは縄を引っ張り続ける。そのまま、壁にひっかかっていたかぎを外す。かぎ縄二つをたぐり寄せるように回収し、カバンに入れる。
あとは全速力で走り、スコルピオンを振り切るだけだ。
後ろから怒号が迫る。
「待てや、今度こそ逃がさねえ!」
せき込みつつもスコルピオンは、オレを追うのを諦めない。
だが直後――。
彼の倒れる音がした。
その音に、女の声が続く。
「おやおやスコルピオンさんや、わたしのことを無視しないでくださいな」
テティが彼の背後から、その両手首をつかんでいる。
それを確認したオレは、もはや振り向かなかった。大回廊の奥を目指し、ひた走った。
残されたのは、テティとスコルピオンの二人。
* *
――ここからは、オレがあとからテティに聞いた話になる。
彼女の拘束をおのれの力で振りほどいたスコルピオンは、残念そうに舌打ちした。
「あー、こりゃ、てめえを倒さなきゃジェドを追えない感じだな」
いったん後退し、彼女と距離をとる。
「確かテティちゃんって言うんだよな? なんで、てめえがここに残るんだよ。以前、俺になぐられたから、その仕返しってか?」
「なぐられたことは気にしていません。相性の問題です、スコルピオン」
テティが、左の太ももを軽くたたく。
「ネフェルとうまく戦えるのはジェドであり、あなたを倒せるのがわたしであっただけですよ。相性のいい相手に適切な戦力をぶつけるのが、戦いというものでしょう。二人がかりという手もありましたけど……ネフェルを逃がしたくないのでジェドは先に行かせました」
「つっても、俺らに因縁とかねえし。いまいち燃えねえんだわ」
「因縁なら、ありますよ。わたしはあなたの仲間の一人を殺しました」
「いや、そんなんで恨んだりしねえっての。俺にとって仲間は道具にすぎないんだぜ。そもそも人様の墓を荒らしてる時点で、死んでもミイラ取りの自業自得だろ」
「そこは意見が合いますね」
そしてテティは左手を持ち上げ、自分の首を絞める仕草をした。
「ミイラ取りは例外なくミイラになるべきです。わたしはミイラ取りにだけは容赦しません」
右手で、目の前の男を指差す。
「――あなたもですよ、スコルピオン。問答無用で殺します」
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
次回は十一月八日(土)午後七時ごろの投稿です。
※金曜日は「今週のしまったちゃん」という作品を更新します。「ミイラVSミイラ取り!」とは全然毛色が違いますが、よければ見てみてください!




