第8話 ドロップアイテム
上原さんが失神してしまった。
(困ったな……、どうしよう……)
動かさないでおこう。
周囲にモンスターはいないので、とりあえず安全だ。
俺は持っていたタオルを小川で濡らし、上原さんの頭の上にのせた。
(とりあえず、やることをやると……)
俺は腰に差していたナイフを引き抜いて、ゴブリンの体から魔石を取り出した。
(ん? こいつ何か持ってるぞ。何だろう?)
ゴブリンは布袋を腰にくくりつけていた。
布袋が膨らんでいるのがわかる。
俺は布袋を開いて、中に入っている物を取り出してみた。
(何だこれ?)
ガラスの美しい瓶に入った液体が出て来た。
ガラス瓶は細長く高級感がある。
高級な化粧水?
俺が首をひねっていると、上原さんが目を覚ました。
「う……うーん……」
「上原さん。大丈夫?」
「平気です。あっ? タオル? 狭間さんが?」
「そうだよ。いつも持ち歩いているから」
「ありがとうございます。優しいんですね」
「おっ……おう! いや、誰にでもというわけではなく! 上原さんだから、優しくするから!」
「そう? ありがと!」
上原さんが、ちょっと機嫌良さそうにする。
良かった。
ゴブリンのグロを見た精神的なダメージは癒えたようだ。
「ねえ。上原さん。ゴブリンが変な瓶を持ってたんだけど。何だろう?」
俺はガラス瓶を上原さんに見せた。
上原さんは、ギン! と目を見張る。
「ドロップが出たんですか! 貸して下さい! 鑑定!」
上原さんは、俺の手からガラスの瓶をひったくると、ジッと凝視し始めた。
四、五秒して、笑顔で俺を見る。
「おめでとうございます! これポーションです!」
「ポーション?」
「百万円で売れますよ!」
「はい~!?」
「さっすが! 幸運ステータスが高いだけのことありますね!」
上原さんは、笑顔で俺の手にポーションを戻した。
俺は手の中のポーションを凝視する。
「これが……百万円……」
「事情をお話しすると――」
上原さんによれば、ポーションは怪我がすぐ直る薬だ。
ゲームやアニメと同じ効果があり、打ち身、捻挫、骨折まで治してくれるそうだ。
魔物の中には、何かアイテムを持っている魔物もいる。
この魔物が所持しているアイテムを『ドロップアイテム』と冒険者ギルドで呼んでいるそうだ。
俺は首をひねった。
「怪我がすぐ治るポーションが凄いのはわかるけど……。百万円は高すぎない? 誰が買うの?」
「スポーツ選手ですよ。ほら、日本でもプロ野球が再開されたでしょう? 選手の中には億を稼ぐ人もいるから怪我は禁物らしいですよ」
「なるほど! 怪我をして成績が下がったら稼ぎが大幅に減る。それなら百万円払ってもポーションで即治した方が得ってことか!」
「そう。でもね。百万円は、今だけですよ」
「ん?」
上原さんが真面目に解説してくれる。
上原さんの予想では、今後冒険者が増えるとポーションの供給も増える。
するとポーションの希少価値が下がる。
値崩れして十万円くらいになるだろうと。
「供給量によっては、一本一万円くらいになる可能性もありますよ」
「なら売りかな……」
「怪我に備えてポーションを持っておく選択もあります」
「ううん……」
どうしたら良いのだろう……。
俺は悩んだ。
悩んだ末に上原さんを頼った。
「上原さん、どうすれば良いと思う?」
「売りましょう! ポーションを売って、私に焼き肉をゴチするのです!」
「売ります!」
上原さんと焼き肉!
こんなチャンスを逃すかぁー!
「カルビ! ロース! タン! ミノ! ハラーミ!」
「ハラーミ!」
「ウエハラーミ!」
「うるさい!」
「ああ、ごめんなさい! グーは止めて下さい!」
またも俺は上原さんにグーパンをくらうのだった。