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第7話 ゴブリン戦

「冒険者ギルドの方、ちょっとよろしいですか?」


 俺がゴブリンから魔石を取り出すと、自衛隊の田中さんが冒険者ギルドの上原さんを呼んだ。

 二人で何か打ち合わせをしている。


「では、次の獲物を探しに行きましょう!」


 打ち合わせが終ると、自衛隊の田中さんは登録者を連れて去って行った。

 俺と上原さんを残して。


「あの……、俺たちはここで待機ですか?」


「いえ。別れてターゲットを探すことになりました」


 上原さんは、ズボンのポケットから紙を取り出して広げた。

 俺は上原さんが広げた紙をのぞき込む。


(地図だ!)


 パワポで作ったような簡単な略図だが、転移してきた入り口から次の階層へ続く出口が描かれている。

 林や小川など、目印になる地形も描き込まれていて、これはありがたい。


「田中さんたちは、この林に向かいました。他の人は、正面の丘の向こうへ。私たちは、この小川の方へ行きましょう」


「了解」


 俺と上原さんは、並んで歩き出した。

 野原の中をかわいい上原さんと歩く。

 ピクニックデート気分だ!


「上原さん! お昼ごはんはどうする?」


「狭間さん……。ピクニックじゃないんですから、緊張感を持って下さい。ダンジョン探索中! 仕事中ですよ!」


「さーせん!」


 上原さんに、ビシリと叱られてしまった。

 しかし、上原さんとお話はしたい……、仕事中……、探索中……、仕事の話……。


「上原さん。なんで、別々に行動して魔物を探すんですか?」


「別れて魔物を探した方が効率的でしょう?」


「そりゃ、そうですよね~。なんかダンジョンの中って広いですよね?」


「タワーの外見とダンジョンの広さはイコールじゃないそうです」


「不思議ですね」


「ええ」


 上原さんは、俺の質問には答えてくれるけどイマイチ会話が弾まない。

 デート気分とまでいかなくても、もうちょっと友好的に話がしたい。


 そんなことを考えていると、進行方向に小川が見えてきた。

 小川の先にはゴブリンがいた。


「あっ、いた」


「ヒッ!」


 上原さんが、俺の背中に隠れた。

 上原さんの手が俺の背中に触れているが、小さく震えている。


 どうやら上原さんは、魔物と遭遇するのが怖かったのだ。

 それで会話が弾まなかったのか!


「上原さん! 大丈夫ですよ!」


「大丈夫じゃないわよ! 早くやっつけて!」


 上原さんが、グイグイと俺の背中を押す。

 俺は小川に落ちそうだ。


「いや、ちょっと! 押さないで!」


「押せってことね!」


「違う! 違う! 本当に押さないで!」


 上原さんのおかげで、『押すなよ!』のプロトコルが発生してしまった。

 そんなところまで学習しなくて良いのに!

 優秀すぎるだろ!


「あああ~!」


 俺は情けない声を上げて、頭から小川に落ちてしまった。

 水しぶきが上がる。


「ぶわっ!」


 俺は小川から脱出した。

 小川は膝丈ほどの深さで、水はきれいだった。

 服が濡れたが、武器のバールは手放さなかったので特に問題はない。


「ゲホゲホ! 鼻に水が入った……」


「狭間さん! 前! 前!」


「今度は、『志村! 前!』ですか!」


 顔を上げるとゴブリンが石斧を振りかぶって襲いかかってきた。

 小川に落ちて上る……、あっ! 向こう岸に上がってしまったのね!


「ギギギ!」


「うおっ!」


 俺は転げ回ってゴブリンの石斧攻撃をかわす。

 距離を取り両手でしっかりバールを持って、ゴブリンと対峙する。


「狭間さーん! がんばって!」


「おう! 任せて!」


 上原さんの応援を受けて、俺は前進する。

 かわい子ちゃんの応援があれば、元気百倍! 勇気百万倍!


 俺は両手に持ったバールを大きく振りかぶり、ゴブリンへ向けて振り下ろした。


「おりゃー!」


「ギ?」


「あれ?」


 バールはゴブリンに命中せず、地面にめり込んだ。

 おかしい? なぜだ?


「もう一回! おりゃー!」


「ギ?」


「あれれ?」


 俺はよく狙ってバールを振り下ろしたがゴブリンに当たらない。


「せい! せい! せい!」


「ギ? ギ? ギ?」


「な、なぜだ!」


 ダメだ!

 狙ったところにバールが行かない。


 俺が困惑していると、小川の向こうから上原さんの声が!


「狭間さん! 狭間さんは、ステータスの器用がFだから、武器の扱いが超下手なはずです!」


「マジかよぉー!」


 こいつは参った!

 パワーがあっても生かせないってことか?


 俺は焦った。

 ゴブリンは俺の心を見透かしたように攻撃を仕掛けてくる。


「ギギギ!」


「うおっ! おっと!」


 俺はゴブリンの攻撃をかわした。

 ゴブリンの動きは、遅いので回避するのは問題ない。

 だが、攻撃が当たらないとなると、どうすれば勝てるのだろうか?


 迷っていると上原さんから指示が飛んできた。


「狭間さん! 組み付いて!」


「え?」


「狭間さんには、パワーしかないでしょ! 密着して倒して!」


「おっ……おう!」


 俺はバールを放り出した。


「ギ!」


 ゴブリンが石斧を振り下ろしてくる。

 俺は石斧をかわして、ゴブリンに組み付いた。

 そのまま力任せに押し倒す。


(軽い!)


 ゴブリンを抱えたはずだが、枕を抱えた程度にしか感じなかった。


(これがステータスで得た力か!)


 俺が組み敷いた下で、ゴブリンが抵抗する。


「ギギ! ギ! ギ!」


 俺はゴブリンを抑え付けようと腕に力を入れる。

 だが、俺は格闘技の経験がない。

 寝技なんてわからない。


「大人しくしろ!」


 ――ベキッ!


「あっ……!」


 俺が力任せにゴブリンを抱えこむと、ゴブリンの首の骨を折れてしまった。

 ゴブリンの顔はあさっての方向を向いている。


「……」


 俺は何ともいえない気持ちでゴブリンを見つめた。

 もっとカッコイイ戦いでゴブリンが華々しく散ったなら、俺は勝利に酔えたと思うのだが……。


(ま、まあ……、ドサクサ紛れではあるが、勝利は勝利だよな……。なんかごめんな。成仏してくれよ)


 俺はゴブリンに合掌し、来世ではせめてイケメンのゴブリンに生まれ変われるように祈った。


 さて、勝利の報告だ!

 俺は気持ちを切り替えた。

 俺は、ゴブリンの腰布をつかんで、ゴブリンを高く持ち上げた。


「上原さん! 勝ちましたよ!」


「うーん……」


「あっ!」


 プラーンと揺れるゴブリンを見て、上原さんが失神してしまった。


 俺はスキル【精神耐性】があるから何も感じないが、上原さんとしてはゴブリンの死体を見るのはショックだったのだろう。


「な……なんか、ごめん!」


 俺は上原さんに手を合わせて謝り、ゴブリンの解体を始めた。

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