第6話 スキル精神耐性の効果
「ここがダンジョンの一階層……」
俺と上原さんは、新宿西口にあるタワーダンジョンの一階層に転移した。
目の前には草原と丘が広がり、顔を上げると青い空と白い雲が広がっている。
だが、いくら探しても太陽がないので、ここが屋外でなくダンジョンの中なのだとわかる。
俺たちが立っているのは、朽ち果てた遺跡だ。
天井はなく、崩れかけた石柱が数本立っている。
石で出来た床のあちこちに、腰掛けられるほどの大きさの石が無造作に転がっていた。
(ゲームでいうと、フィールド階層ってところか?)
タワーダンジョンというから、もっとおどろおどろしい迷宮を想像していたが、これなら活動しやすそうだ。
遺跡には俺と上原さんだけで、先に転移した登録者や自衛隊の田中さんは見当たらない。
遠くの方で声が聞こえる。
「えいっ!」
「おりゃ!」
「いいですよ! がんばって!」
どうやら既に戦闘が行われているようだ。
「さあ、私たちもさっさと行きましょう。装備をつけて下さい」
上原さんが、ヘルメットを俺に差し出した。
遺跡の床に、自衛隊のヘルメットや剣道の胴、警察が使う透明な盾などが無造作に置いてあった。
「これは使って良いの?」
「冒険者ギルドが用意した装備だから大丈夫ですよ」
「いかにも間に合わせって感じの装備品だね……。これで大丈夫なの? 防御力あるの?」
「一階層はゴブリンしか出ないので大丈夫らしいですよ。後ろ縛ってもらえますか?」
「あー、はい」
上原さんは自衛隊のヘルメットをかぶり、剣道の胴を体にあてた。
俺はヒモを上原さんの背中で交差してギュッと縛った。
「う……ちょっと……キツイ……」
「あ、ごめん。ちょっと緩めるね」
上原さんが苦しそうだ。
俺はヒモを緩めた。
すると剣道の胴がずり下がってしまう。
「これ……装備するの止めます……」
「いや、大丈夫でしょ! ちょっと待ってね。まず正面をあわせて――」
俺は上原さんの正面に回って、剣道の胴を両手で持った。
胴を上に持ち上げ上原さんの体に当てると――ポヨン♪
「あっ!」
「……」
上原さんの大きな胸が邪魔になって、胴をセット出来ない!
「じゃ……じゃあ! こうして胸当ての部分を折ってしまえば――」
俺は胸に当たる部分の皮を無理矢理折り曲げて、胴だけ守る防具に変形した。
上原さんのお腹に胴をあてて、後ろからギュッとヒモでしばる。
「ほら! これならお腹をカバー出来るよ! バッチリ――」
「……」
上原さんは、顔を赤らめ無言で顔を背けている。
何ということでしょう!
胴がギュッとしたことで、上原さんの胸が激しく強調されてしまった!
「イイ! スゴイよ! ゴブリンもノックアウト間違いなし!」
「この! スケベ!」
「違う! わざとじゃない!」
「違わないだろう!」
「グーは止めて下さい! グーは!」
俺は上原さんに、しこたまグーパンでしばかれた。
わざとじゃないのに!
結局、俺は自衛隊のヘルメットをかぶり、剣道の胴をつけ、厚手のグローブに大きめのバールを握り、腰にナイフを装備した。
上原さんは、自衛隊のヘルメットと透明な盾を装備した。
ナイフやバールもまだ沢山あったが、上原さんは『武器なんて扱えない。怖い』と言って武装しなかった。
まあ、上原さんの分は、俺が戦えば良い。
二人で草原を歩き、丘を越えると、自衛隊の田中さんが五人の登録者と一緒にいた。
登録者の一人が真っ青な顔でゴブリンにナイフを突き立てていた。
「ヒッ!」
上原さんが悲鳴を上げた。
上原さんが青い顔をして話を出来そうにないので、俺が自衛隊の田中さんに声を掛けた。
「田中さん。遅れてすいません。登録者の狭間です。こちらは冒険者ギルド新人の上原さんです。一緒に戦闘の研修に参加するそうです」
「わかりました。ちょうど、今、ゴブリンから魔石を取り出すところです。よく見ておいて下さい」
「魔石を取り出す?」
何だろうなと思って、俺は見学することにした。
ナイフを持った若い男性が、ゴブリンの胸を縦に切り裂いている。
田中さんが指示を出す。
「そこでナイフを突っ込んで下さい。心臓の横に魔石があります。ナイフの先端で掘り返す要領で取り出して下さい。ああ……、ダメです。魔石を奥に押し込まないで下さい。もっと切り開いて下さい」
「うう……マジかよ……気持ち悪い……」
魔石を取り出そうとする男性は涙目だ。
ゴブリンからは、緑色の体液が流れ出し、何ともいえなない生臭い嫌な臭いが漂っている。
見学している四人の登録者も真っ青な顔で、一人の女性はしゃがみ込んで今にも吐きそうだ。
俺の隣の上原さんもは、俺の腕にしがみついて今にも倒れそうだ。
だが、俺は何ともない。
非常に冷静で心が凪いでいる。
(何でだろう?)
俺はゴブリンから魔石を取り出す作業を見ながら考えた。
(そうか! スキルだ!)
俺のスキル『精神耐性』のおかげだ。
自衛隊の田中さんは『グロ耐性』がつくと言っていた。
俺はスキルが機能していることに内心喜ぶ。
魔石を取り出す男性は、とても苦労していて涙目だ。
俺は男性がかわいそうに感じた。
「田中さん。俺がやっても良いですか? 俺、精神耐性スキルがあるんで大丈夫なんです」
「ああ! そうでしたね! じゃあ、ちょっと変わってもらって、お手本になって下さい」
「了解ッス!」
俺は若い男性からナイフを受け取った。
田中さんの指示に従って、ゴブリンの胸を大きく切り広げる。
「うわっ!」
「マジか!」
「キッツ!」
周りから色々な声が聞こえるが、俺はまったく気持ち悪く感じない。
骨があるな。内臓があるな。血管があるな。体液が緑色だな。
そんな風に思うだけで、淡々と田中さんの指示に従って作業する。
「それが心臓です。心臓の周囲に魔石があります」
「へー、これですか」
「先ほど、魔石を奥の方に押し込んじゃったですよ」
「じゃあ、この辺を切ってみましょう。あった!」
俺はナイフの先に引っ掛けるようにして魔石を取り出した。
魔石は親指の先くらいの大きさで緑色。
氷砂糖のようなゴツゴツした見た目で、石というより結晶だな。
俺は草の上で魔石を転がして、ゴブリンの体液を落とした。
魔石を拾い上げて、若い男性にナイフと魔石を渡す。
「お返ししますね」
「ど、どうも……」
若い男性は、ドン引きした目で俺を見ていた。
「いや、スキルのおかげだから! グロイことは理解しているよ!」
「そっ……そうっすよね……」
若い男性は人外を見るような目をして、俺から距離を取る。
いや、スキルの効能なんだって!
自衛隊の田中さんだけは、ニコニコしている。
「狭間さんの手際が良かったですよ! みなさん! この魔石が魔物討伐の証明になります! 魔物を倒したら必ず回収して下さい! 冒険者ギルドで買い取ってもらえますよ!」
「「「「「ええ~!」」」」」
登録者五人の顔が絶望に染まった。
だが、俺は平然としていた。
ちょっと得したなと、俺はスキルに感謝した。
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