第49話 超獣と白騎士(奪還作戦二日目)
――渋谷奪還作戦二日目。国道246号線、骨董通りとの交差点。
渋谷奪還作戦は夜明けから始まり日没に終る。
夜間の進撃は、魔物から不意打ちを喰らう可能性があるからだ。
魔物は人間とは違う。
非常に夜目が利く。
よって、一日目は日没前にキリの良いところで終了となった。
俺たち冒険者は都心の一流ホテルに宿泊し、早朝に起き、日の出と同時に配置場所へ移動する。
新宿西口冒険者ギルド所属の冒険者は、昨日と同じ246担当だ。
自衛隊のトラックに分乗して、昨日の最終地点である骨董通りの交差点に到着。
国道246号線の大通りは自衛隊によってバリケードが組まれている。
有刺鉄線と鉄パイプを組み合わせた構造物だ。
車道から歩道まで魔物が侵入できないようにしてある。
どうやら夜間に魔物の襲撃があったようだ。
バリケードの向こうは、魔物の死体がうずたかく積まれている。
冒険者の中から声が上がる。
「血の臭いがスゲエな」
「自衛隊さん、ぱねえ」
こんな話が出来るのは、慣れている冒険者だ。
新人冒険者は凄惨な光景に、朝食べた物を戻している。
「おえ~」
高級ホテルの朝食なのに、もったいない。
自衛隊さんも交代のようで、持ち場を交代した隊員さんたちが引き上げて来た。
「お疲れ様です。夜はどうでしたか?」
俺は隊員さんに挨拶をして、情報を聞き出そうとした。
一人の男性隊員さんが立ち止まって話してくれた。
「ひどかった……。0時過ぎに襲撃があった。激しく銃撃してアレだよ」
隊員さんは、ウンザリした顔でバリケードの外を指した。
「相当な数ですよね」
「ああ。それで0時の後も、チョコチョコ襲撃があって気の休まるヒマがなかった」
「本当にお疲れ様でした。陣地を守っていただいてありがとうございました」
俺の言葉を聞いて隊員さんはフッと笑みをこぼした。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。じゃあ、後はよろしく」
隊員さんは、俺たちが乗ってきたトラックへ向かった。
これから寝るのだろう。
ゆっくり休んで欲しい。
拡声器から上原さんの声が響いた。
「ラジオ体操やりますよ~」
拡声器からラジオ体操の曲が軽快に響く。
俺たち冒険者は空いてるスペースでラジオ体操を始めた。
モッチーが腕を振りながらボソリとつぶやく。
「ラジオ体操やってみると良いですよね」
「そうそう。目が覚めるよね」
「体が動きやすくなります」
俺とモッチーは、真面目にラジオ体操をやった。
ウォーミングアップは、ちゃんとやる。
死にたくないからな。
ラジオ体操が終ると上原さんから連絡事項が伝えられる。
「本日は国道246号線を渋谷方面へ向けて進みます。目標は宮益坂の入り口です。自衛隊と共同作戦となりますのでよろしくお願いします。無線機は常にオンにして、ヘッドセットは必ずつけて下さい。予備のバッテリーも必ず持って下さい」
俺は無線機のスイッチをオンにして、ヘッドセットをつけた。
予備のバッテリーは、ポケットに入っている。
「今日は最初にバリケード前に転がっている魔物の死体を撤去する作業です。魔石を取り出すチーム、魔物の死体を運ぶチーム、サポートするチームに分けてあります。これから名前を読み上げます」
次々と名前が読み上げられる。
俺とモッチーは、魔石を取り出すチームになった。
俺が取り出し、モッチーが周囲警戒だ。
「なお、魔石の売り上げは参加した冒険者にも分配されます」
「「「「「おお!」」」」」
上原さんが告げた思わぬボーナスに、何人かの冒険者が喜びの声を上げる。
そして安全唱和だ。
「それでは復唱して下さい。ヘッドセット、ヨシ!」
俺たち冒険者が指さし確認しながら復唱する。
「「「「「ヘッドセット、ヨシ!」」」」」
「無線、ヨシ!」
「「「「「無線、ヨシ!」」」」」
「装備品、ヨシ!」
「「「「「装備品、ヨシ!」」」」」
「靴紐、ヨシ!」
「「「「「靴紐、ヨシ!」」」」」
「今日も元気で頑張りましょう!」
「「「「「おお!」」」」」
俺とモッチーは、魔石を取り出すチームなので、冒険者集団の前に出ようとした。
すると神宮司君が俺に声を掛けてきた。
隣にはレオ君がいる。
「狭間さん」
「神宮司君、レオ君。おはよう」
神宮司君の冒険者パーティー名は、『白騎士』だ。
白騎士と書いてホワイトナイトと読む。
なんでもパーティーメンバーに白夜を経験した帰国子女がいて、白夜と白い騎士をかけているそうだ。
なんだがスマートな感じでカッコイイ。
神宮自軍の『白騎士』も名前の売れたパーティーで、周囲からは俺とモッチーの『超獣』とライバル関係と目されている。
実際のところは、俺と神宮司君は研修同期なので仲が良い。
情報交換をよく行っている。
神宮司君たち『白騎士』は、堅実で安定した戦闘スタイル。
俺たち『超獣』は、突貫して大暴れする戦闘スタイル。
この戦闘スタイルの違いもあって、ライバルだと思われているのだろう。
俺と神宮司君が話し始めると、周囲がザワつく。
「スゲエ! 超獣と白騎士だよ!」
「ケンカが始まるのかな?」
やらないよ。
神宮司君から頼まれたのは、二チームで積極的に魔物の片付けをしようということだった。
何でも一部の冒険者パーティーが、魔物の片付け作業に不満を口にしたらしい。
自衛隊がやれば良いと言っていたそうだ。
「でも、自衛隊だって忙しいよね?」
「そりゃそうでしょう。あのバリケードを組んだり、動かしたりするのにも手間がかかるでしょうし、そもそも全国にあるダンジョンの入り口を警戒しているのは自衛隊ですから」
「どう考えても人手が足りないよね」
「その通りです」
なので、トップチームの『超獣』と『白騎士』が積極的に働けば、不満がある連中も従うだろうと神宮司君は言う。
「さすが神宮司君! 細やかな気配りだね!」
「いえいえ。それでどうですか?」
「もちろん、乗るよ! そもそも、アレを片付けなきゃ前に進めないしね!」
「まったくです。今日は宮益坂までたどり着かないと。昔ならちょっとの距離ですが、今は……」
「一メートル進むにも時間がかかってるもんね」
「はい。じゃあ、狭間さん。オーバーなくらいに張り切ってお願いします」
俺は歩き出しながら両手をグルグル回し、大きな声で周囲にハッパをかけた。
「よーし! やろうか! 魔石をドンドン取り出して、片付けちゃおうぜ!」
神宮司君が俺に続く。
「やりましょう! まずは魔石の採取! 続いて魔物の撤去! みんな行こう!」
俺と神宮司君が先頭に立つと、ワッと声が上がった。
「バリケードを開きまーす!」
自衛隊の隊員さんが大きな声で告げた。
246に設置された大きなバリケードを自衛隊の重機が引っ張る。
渋谷奪還作戦二日目が始まった。





