第48話 246を前進せよ!
――三ヶ月後。渋谷奪還作戦。国道246号線青山から渋谷方面へ向かう途中。
「こちらオペレーター上原。新宿西口冒険者ギルド所属冒険者に連絡します。間もなく上空をF2戦闘機が通過し渋谷に爆撃を行います」
上原さんの声が無線機のヘッドセットから響いた。
なんという美声。
魂が震える。
俺は喜びに打ち震えながら、横に控えるモッチーに聞く。
「モッチーF2って?」
「航空自衛隊の戦闘機です。対地攻撃も出来るマルチロール機ですね」
「そ、そうなんだ。詳しいね」
「来ましたよ」
モッチーが上空を指さすと、轟音とともに二機の戦闘機が飛来した。
俺たちの上空をパスして、渋谷方面に飛んでいく。
飛んでいって……。
ドォオオン!
「うおおおおお!」
凄まじい爆発音。
そして周りの冒険者たちが悲鳴混じりの歓声を上げる。
「こちらオペレーター上原。新宿西口冒険者ギルド所属冒険者に連絡します。自衛隊が前進します。発砲音に注意してください」
またも上原さんの美声。
同時に戦車の発砲音。
ドン! ドン! ドン! ドン!
最前列の戦車が魔物に向けて発砲した。
巨大なジャイアントオーガが爆散する。
ここは国道246号線。
青山方面から渋谷を目指して自衛隊と共に前進している。
先ほど表参道で二手に分かれ、俺とモッチーは246を直進する本隊と進んでいる。
渋谷奪還作戦は大規模な多方面同時進行作戦だ。
自衛隊と各地域の冒険者ギルドが組んで、新宿方面から明治通りを進む部隊、代々木上原方面から山手通りを進む部隊、国道246号線を三軒茶屋方面から進む部隊、また、中目黒、恵比寿から北上する部隊もある。
ありとあらゆる通りから多数の部隊が渋谷に進行している。
246のような大通りは、戦車が横一列に並び前方の大型魔物を爆砕して進む。
そして電車や地下鉄が通ってないエリアには、上空から間断なく爆撃が行われている。
俺は半ば呆れながら、モッチーに聞く。
「モッチー、これいいの?」
「政府は法改正してましたからね」
「いいんだ!?」
「合法みたいですよ。ずっと魔物に支配されているより、更地にして良いから奪還してくれという声が多かったみたいですね」
「それで本当に更地にするんだ……」
「まあ、一応鉄道と地下鉄は避けているんで、なんとか復興するんじゃないですか?」
まあね。
時間はかかるだろうけど、日本政府の面子にかけて復興するんだろうな。
昨日テレビで総理大臣が気合いの入った演説をしてたもん。
「私たちは特別手当でウッシッシ! また焼き肉あざーす!」
モッチーが嬉しそうに笑う。
そう、特別手当も気合いが入った額が支給されている。
俺とモッチーの日当は何と二十万円!
金の面でも気合いが入ってるんだよな。
一番下のクラスの冒険者でも一日十万円もらえる。
みんな目を¥マークにして参加しているよ。
ヘッドセットから上原さんの声。
「こちらオペレーター上原。『超獣』は骨董通りから逃げてくる冒険者の援護を願います。首折り! 首切り! 出番よ!」
「「了解!」」
首折り、首切りは、俺とモッチーの二つ名だ。
俺とモッチーは、この三ヶ月の間にレベル30に達し、新宿西口ダンジョンは二十階層まで制覇した。
ゴブリン、ホブゴブリン、オーク、オークジェネラル、オーガ。
これらの魔物を俺とモッチーは、首をへし折り、首を切り飛ばしてきた。
そのファイトスタイルがあまりにもインパクトが強く、首折り、首切りとして名が売れてしまった。
そして、俺とモッチーのパーティー名は『超獣』。
モッチーがつけたパーティー名だ。
意味は知らないけど、強そうだから気に入っている。
それからモッチーの人見知り期間は終了し、今では俺と普通に会話している。
「えーと、骨董通りは?」
「その先、左です!」
俺とモッチーが駆け出す。
すると周囲の冒険者が道を空ける。
「超獣が出るぞ!」
「首折りと首切りだ!」
「道を空けろ!」
モーセよろしく、人並みがざーっと二つに分かれる。
俺とモッチーは、上原さんの指示に従って246から骨董通りを左に曲がる。
すると、五人の冒険者が必死の形相で逃げてくる。
後ろにはオークの一団が五人の冒険者を追ってきてる。
「こっちだ! 援護する!」
俺が大声で叫ぶと、五人の冒険者は『助かった!』という顔をして転げるように俺の横を通り過ぎていった。
同時に俺は低い姿勢で走り出す。
「ウインドカッター!」
後ろからモッチーの魔法詠唱と風切り音。
不可視の刃ウインドカッターが俺を追い越し、先頭のオークに着弾し両断する。
ウインドカッターは勢い余って、二列目のオークも輪切りにした。
俺はオークの集団と接敵する。
「一つ!」
手近なオークに飛びつきフライング・ネックブリーカー・ドロップで、オークの首を叩き折った。
オークは『ブヒ』と小さく鳴いて絶命した。
「二つ!」
右から来るオークの股間に手を伸ばし、オークの男根を睾丸ごと握りつぶす。
右手に何ともいやな感触が残るが、オークは目を反転させ泡を吹いて昇天した。
「三つ!」
オークが振り回した大剣をかわし、オークの脇の下から腕を差し込み裏投げで地面に叩きつける。
オークは後頭部からモロに落ち、アスファルトに血をまき散らした。
俺が三匹を瞬殺したことで、オーク集団がたじろいだ。
しかし、こいつら何匹いるんだ?
モッチーがウインドカッターで遠距離攻撃を続けているが減る気配がない。
ヘッドセットから上原さんの声。
「高木町方面から大量のオークが進行中! 首折りは下がって! 在日米軍のA10が来ます! すぐ下がって!」
「了解!」
俺は無線越しに上原さんに愛を送る。
俺がきびすを返すと入れ替わりにゴツイ飛行機が超低空飛行をしてきた。
ドロロロロ!
ゴツイ飛行機が骨董通り沿いに飛び機銃掃射していく。
頑丈なオークが紙切れのように次々に倒される。
「ふおおおお! アベンジャー! 最高!」
モッチーが大興奮だ。
「狭間さん! 六本木のアメリカ大使館を守っているA10ですよ! 援護しに来てくれた! 日米同盟バンザイ!」
モッチーの興奮は続く。
俺は何が何だかわからないが、モッチーがご機嫌なら良い。
「首折りさん! お疲れ様です! ドリンクです!」
「ありがとう」
サポート役の新人冒険者の女の子が笑顔でスポドリを渡してくれた。
一暴れして喉が渇いた。
ああ、スポドリが美味しい。
上原さんの声がヘッドセットから響く。
「こちらオペレーター上原。『超獣』、『家系ラーメンスキー』、『冷やし中華』、『紫電改』の四パーティーは骨頭通りの残敵を掃討してください」
渋谷奪還作戦は進行する。
俺たちは骨董通りにいるオークの生き残りを殲滅した。
「ところで俺のジョブは魔法使いだぞ……」





