第44話 ドワーフ対ジャパンウイスキー
俺はちょっと気取ってみた。
木箱を捧げ持つようにして、ゆっくりと蓋を開ける。
「エイホックさん。これはウイスキーという強い酒だよ」
「おおっ! 強い酒か! 良いな!」
エイホックさんは両手で丁寧に瓶を木箱から取り出した。
「ほう……美しい琥珀色だな! こいつは旨そうだ!」
エイホックさんは、そばに置いてあった無骨な木製のカップにウイスキーを注ぐ。
トクトクトクと美味しそうな音が響き、ウイスキーの香りが広がる。
アルコールの匂いはするが全体的に柔らかな香りだ。
さすが高級品!
エイホックさんは、木のカップに入れたウイスキーを一気にあおった。
口元がほころぶ。
「旨え!」
どうやら気に入ってもらえたようだ。
エイホックさんは、クッ! クッ! クッ! と一定のペースでウイスキーを飲み続ける。
早いな!
ストレートで飲んでるのに!
俺は慌てて、オツマミを展開する。
「エイホックさん。酒のツマミも買ってきたよ。これはウイスキー用のチョコレート、甘いお菓子だね。それからスモークチーズにスモークサーモン」
「スモークチーズ? スモークサーモン?」
「チーズの燻製だよ」
「ほう! チーズを燻製にするのか! 面白いことを考えるな!」
エイホックさんは、スモークチーズをパクッと口に入れ、ウイスキーを一口。
「おう! こりゃ良いな! スモークチーズの香りとこの酒の香りが混じり合う。味も濃厚で酒に合う!」
エイホックさんは、グビグビと水のようにウイスキーを飲む。
もう、半分飲んでしまった。
味わえよ。高かったんだぞ!
「スモークサーモンも食べてみなよ」
「サーモンって魚だよな? 北の海で採れる魚じゃねえか? 大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。この村で魚は食べないの?」
「川魚は食うが、海の魚はお目にかかったことがねえ。海から遠いからな」
なるほど。
海から遠いなら魚が傷んでしまう。
警戒するのももっともだ。
「スモークサーモンは、サーモンを燻製にした保存食だから日持ちするよ」
「そうなのか? じゃあ、ありがたくいただくとするか……。おっ! これはしょっぱくて旨え!」
エイホックさんは、スモークサーモンも気に入ったらしくチョイチョイ口に入れ、グビリ、グビリとウイスキーをあおる。
しょっぱい味に飽きてくるとチョコレートを口に放り込んで、またウイスキーをグビリ。
ウイスキーもツマミも気に入ってもらえたが、あっという間に一瓶飲み干してしまった。
「ごめん、量が足りなかったね」
「いや、良いんだ! この酒は良い酒だろう? がぶがぶ飲む酒じゃねえってわかるぜ。こうチビチビと味わう酒だ。堪能させてもらったぜ!」
いや、ガブガブ飲んでたろう!?
ドワーフにとってあの勢いがチビチビなのかよ!?
ハイペースで一瓶開けた人にチビチビとか味わうとか言われても説得力皆無だ。
エイホックさんは、すっかり気分が良くなったみたいで、ニコニコ笑っている。
黙って様子を見ていた上原さんが口を開いた。
「エイホックさん。前回ご相談した装備品と金属を交換する件ですが、どうでしょう?」
「おう! もちろん大丈夫だ! 今回運んで来てもらった分で……、そうだな……」
エイホックさんは立ち上がると、作業場の一角にある扉を開けた。
扉の先は倉庫になっていて、薄暗い中で剣や槍が鈍く光っていた。
エイホックさんは、倉庫の中に入ると武器を選別し始めた。
「さて……、剣、槍、ああ防具もあった方が良いよな」
上原さんが身振り手振りで俺に指示する。
エイホックさんが選んだ武器を運び出して欲しいようだ。
俺はエイホックさんから剣や槍を受け取ると、表にあるリヤカーに運んだ。
上原さんはメモ帳に個数や特徴をメモしている。
「この剣はさっきの剣よりちょっと良いもんだ。剣自体は鉄製だが、水属性になるんだ。ここに魔石が埋め込んであるだろう? こいつは水属性の魔石でな。剣に水属性を付与してくれる」
「へー!」
エイホックさんは、珍しい剣も譲ってくれた。
誰が使うことになるんだろう?
ちょっと良い物と言っているが、日本だと相当珍しい剣だ。
いくらで売りに出されるのか、想像すると怖い。
属性剣や鉄板を貼った革鎧も運び出す。
「まあ、こんなとこでどうだ?」
「ありがとうございます! また、お取引をお願いしたいのですが?」
「おう! 良いぜ! だが、次は違うモノが良いな。なんか考えといてくれ」
「わかりました」
上原さんとエイホックさんが握手して取り引き完了。
そして次回の取り引きの約束を取り付けた。
さすが上原さん。
しごでき!
エイホックさんが俺を見る。
「なあ、兄ちゃん。旨え酒とツマミをありがとよ。なんか持ってけよ」
「えっ? いや、前回このグローブを譲ってくれたお礼だよ」
「遠慮すんな!」
エイホックさんはバンと俺の背中を叩く。
これは断るより素直におねだりした方が喜ばれそうだ。
「じゃあ、モッチーに合う装備があれば譲ってもらえないかな?」





