第43話 魔力の流れ
俺はモッチーがホワイトボードに書いた言葉に首を傾げる。
はて……魔力の流れ……?
考えてもわからないので、俺はエイホックさんに質問してみた。
「ねえ、エイホックさん。魔力の流れって何?」
俺が質問するとエイホックさんは缶ビールを飲むのを止めてギョロギョロと俺をにらんだ。
「見えたのか?」
「いや、俺は見えなかった。モッチーが見えたってさ」
「モッチー?」
「彼女だよ」
俺は作業場の隅に立つモッチーを指さす。
エイホックさんは、モッチーを見た。
モッチーはビクリとする。
「魔法使いのお姉ちゃんか……。モッチーよ。これが見えるか?」
エイホックさんは、先ほどと同じように缶ビールに手をかざした。
俺にはエイホックさんが単に手をかざしているようにしか見えないが、モッチーは目をカッと見開き首を激しく上下に振っている。
うなずきを通り越してヘッドバンギングだ。
「ほう! モッチーよ! なかなかやるな!」
エイホックさんは、モッチーに缶ビールを放った。
そしてエイホックさんは、新しい缶ビールを開けるとグビリと飲み始めた。
「俺らドワーフはよ。鍛冶が生業よ。だから火を使って鉄をぶっ叩く。つまり熱が大切ってわけだ」
エイホックさんが語り出した。
俺も上原さんも黙ってエイホックさんの言葉に耳を傾ける。
「でだ! 熱ってのは魔力の影響を受けるだろ? 鍛冶を続けていると、ある時突然魔力が見えるようになるんだ。魔力を込めて鉄を叩くと鉄が良質になる。そして魔力の操作が上達し、ついに――」
エイホックさんが俺の手を握った。
エイホックさんの手は熱を持っていた。
火傷するほどではないが、突然のことに俺は驚いて手を引っ込める。
「アツ!」
「熱を操作できるようになる」
エイホックさんがフッと笑った。
何だかゴツイドワーフがイケオジに見えるのは錯覚だろうか? それとも幻想だろうか?
「だからよ。魔力の流れが見えるってのは凄い才能だぜ。モッチーは、きっとスゲエ魔法使いになるぜ」
「そうなんだ!」
俺は自分が褒められたみたいに嬉しい気持ちになった。
モッチー! スゲエ!
しかし、わからないこともある。
熱が魔力の影響を受けるとか、鉄に魔力を込めるとか、どういうことなのだろう?
モッチーならわかるかなと思ってモッチーを見る。
「んふー!」
ダメだ。
缶ビールをご機嫌で飲んでる。
人見知りだけど、もらったビールは飲むのね。
上原さんが首を傾げながらエイホックさんに語る。
「エイホックさんのお話は理解するのが難しいですね……。私たちの世界は魔法が存在しなかったので、魔法や魔力について理解が不足しているのでしょう」
「ああ、そうなのか? まあ、魔法は鍛冶同様に深いからな。それこそ、あれだ。モッチーをカガクシャにして魔法の探究をさせろ」
「ふふ。面白そうですね」
「それはそうと、この木箱はなんだ?」
エイホックさんが、俺のお土産の中から木箱に興味を示した。
ついに来たか! 日本のウイスキーをドワーフに飲ませる日が!





