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駅前はダンジョン~派遣から転職したらパワー系魔法使いでした!  作者: 武蔵野純平
第三章 西新宿の首折り魔

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第42話 ビールはキンキンに冷やして飲め

 エイホックさんは、俺のお土産と聞くと照れ笑いを浮かべた。


「なんだよ! 気を使うなよ! 嬉しいじゃねえか!」


 エイホックさんは、照れ屋さんなんだな。

 エイホックさんが喜んでくれて俺も嬉しくなった。


「お土産はお酒とツマミだよ」


「おお! そいつはイイな! 早速、飲もう!」


 エイホックさんは、ホクホク顔で俺のお土産を抱えて家に入った。


 エイホックさんの作業場で、俺のお土産をご開帳である。


「これはビールだよ。ひょっとしたらこっちの世界ではエールというかもしれない」


「オマエさんの国のエールをビールと呼ぶのか。この金属はアルミだな?」


「そう。ビールはアルミ缶に入れるのが一般的で、缶ビールと呼ぶよ」


 エールは異世界マンガの定番なので試しに言ってみたがちゃんと通じた。


「俺の国では乾杯する時にビールを飲むことが多い。キンキンに冷やして飲むんだ」


「何? 常温じゃないのか?」


「冷やすよ。ガラスのコップも冷やしておいて、冷たいビールを注ぐんだ」


「へえ! そんな飲み方があるのか! じゃあ、こいつを冷やしてみるか……」


 エイホックさんが、ビールセットに向けて手をかざしウンウンうなりだした。

 何をしているのだろう?


 ただ、エイホックさんは、恐ろしく集中している。

 あまりの真剣さに俺も上原さんも声が掛けられない。


 作業場の隅を見るとモッチーが真剣な目でエイホックさんを見ていた。

 これほど真剣な目をしたモッチーは初めてだ。


 俺と上原さんは、顔を見合わせてうなずいた。

 何かが起こっている。

 とにかく静かにしていよう。


 ジッと待っていると上原さんが缶ビールを指さして、俺に小さな声で教えてくれた。


「霜が……」


「あっ!」


 俺は息を飲んだ。

 缶ビールに霜が下りている。

 ということは、エイホックさんは魔法でビールを冷却していたのか?


 いや、待て待て!

 魔法とは攻撃用のはずだ。

 異世界マンガに出てくる『コールド』みたいな生活魔法はないと思う。


 俺は上原さんにひそひそ声で確認する。


「上原さん。冷やす魔法なんてあるんですか?」


「いえ……。氷属性の攻撃魔法はありますが、物体の温度を下げる魔法は聞いたことがありません」


「じゃあ、なんで?」


「ここが異世界だからですかね……」


 上原さんも真剣な顔でエイホックさんがビールを冷やすのを見ている。


 これ、本当に魔法でやっているとしたら冷蔵庫不要じゃね?

 クール宅配便とか全部魔法? マグロ漁船とか?


 ダンジョンが出来て世界の常識が変わった。

 さらに常識が塗り替えられそうだ。


「ふう。こんなもんだろう」


 エイホックさんは、かざしていた手を下ろした。


「おめえさんたちもヤルか?」


「いや、俺たちは仕事中だから遠慮しとくよ。悪いね。付き合えなくて」


「そうかい。じゃあ、遠慮なく飲むぜ! なあ、ところでコレどうやって開けるんだ?」


 エイホックさんは、缶ビールの開け方がわからない。


「ああ、俺が開けるよ。貸して」


 俺はエイホックさんの手から缶ビールを受け取る。

 物凄い冷え冷えだ!

 どうやったんだろう?

 冷やす魔法があるのかな?


 俺は疑問を持ちながらも缶ビールを開けた。

 だって、エイホックさんが待ちきれない顔をして俺を見ているんだ。

 エイホックさんに質問したいけど、待たせちゃ悪い。


 プシュッと音がするとエイホックさんが『ほう!』と嬉しそうに声を上げた。

 やっぱりドワーフは飲んべえなんだな。


「はい。どうぞ」


「おう! ありがとよ! じゃあ、いただくぜ! ング……ング……ング……カー! 旨え! 冷やすと旨えな!」


 エイホックさんは、ご機嫌だ。


 俺の頭にコツンと石が当たった。

 モッチーだ。

 モッチーを見るとホワイトボードに書き込みがある。


『質問して! 魔力の流れが見えた!』


 え? どういうこと?

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