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駅前はダンジョン~派遣から転職したらパワー系魔法使いでした!  作者: 武蔵野純平
第三章 西新宿の首折り魔

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第39話 新人冒険者の事情

 望月さんと組んで、非常に稼げた。

 俺は上機嫌で帰りの電車に乗る。

 新宿から郊外へ向かう電車は、夕方なので人が多い。


 今日獲得したゴブリンの魔石は六十個。

 魔石の買い取り価格は、割り増し期間なので一個一万ゴールド。

 合計六十万円を荒稼ぎした。

 さらにマナポーションが五十万円。

 総額百十万円をたたき出した。


 望月さんと二人で山分けして、一人五十五万円ずつ

 日給五十五万円……物凄い額だ。


(やはりパーティーで戦うと効率が良いのかな)


 俺は電車に揺られながら考えた。


 まず、一戦で登場するゴブリンは二匹なので、一戦で魔石二個を得られる。

 それから、二階層は魔物との遭遇が頻繁にあった。

 今日一日で三十戦したのだ。


 俺は特に疲労を感じなかったが、望月さんはしんどかったと思う。


 俺はフォローのメッセージを望月さんへ送った。


『お疲れ様です。今日は結構ハイペースで戦いましたが大丈夫でしたか?』


 望月さんからすぐに返事が来た。


『大丈夫です。金欠だったのでガッツリ稼げて嬉しかったです』


 良かった。

 望月さんは、今日の探索を前向きに捕えてくれている。


 俺は続けてメッセージを送る。

 上原さんによれば、望月さんは極度の人見知りだが接触回数を増やすと良いらしい。

 だから、メッセージもちょこちょこ送れと言っていた。


『望月さんとコンビを組めて良かったです。ゴブリン二匹でも安定して周回できます』


『前衛を狭間さんがやってくれるので、私も良かったです。魔石の回収も助かっています』


 そうだ。望月さんは、ゴブリンの解体は苦手なようで最初は『オロオロロロロロ』とか言って吐いてた。

 二回目からは、解体している俺に背を向けて周囲警戒をお願いした。


『俺の方こそ助かりました。魔石の回収はついつい忘れちゃいます』


『大丈夫です。上原さんから聞いていたので』


 上原さんから聞いていた?

 何を聞いていたのだろう?

 俺はちょっと気になった。


『上原さんは、何と言ってましたか?』


『狭間さんは三歩歩くと忘れちゃうから、絶対に魔石の回収を忘れないでくれと。お目付役だと思ってくれと』


 ええ!?

 上原さんは、そんな風に俺を評価してたの!?

 俺はショックを受けて、さらに質問を重ねる。


『他には何か言ってましたか? 俺への愛の言葉は?』


『時に激しくスケベでモッコリさせるけど実害はないと。愛の言葉はなかったですね』


 ガーン!

 望月さんから返ってきた激しい言葉に俺はさらにダメージを受ける。


 俺はてっきり『望月さんをヘルプする意味』で、上原さんは俺と望月さんを組ませたと思っていた。

 だが、望月さんの話を聞くと『激しくスケベで三歩歩くと忘れてしまう狭間にはフォロー役が必要』だから、俺と望月さんを組ませたのではないかと思われる。


 何だか、俺ってダメ人間だな。

 いや、違う。

 きっと上原さんはシャイだから、厳しい言葉は俺への愛の裏返しなのだ。

 そうだ。そうに違いない。


 俺は話題を変えた。


『二階層は空いてましたね。あまり冒険者を見かけなかった』


『一階層で辞めちゃう人が多いらしいですよ』


 一階層で辞めちゃう?

 何か気になるな。


『詳しく』


 俺は望月さんに詳しい情報を求めた。


 冒険者になり一階層で冒険を始める。

 すると、『戦闘が怖くて辞めてしまう人』、『解体などグロがダメで辞めてしまう人』が出てくるそうだ。


 もちろん冒険者ギルドのスタッフや同期の冒険者が励まし慰留する。

 それでなんとかがんばってみるが、それでもダメでフェードアウト、つまり来なくなってしまう冒険者がかなりいるそうだ。


『かくいう私もいまだに解体は苦手です。戦闘中はアドレナリンバリバリで、グロ大丈夫なんですけどね』


 俺はスキルのおかげでグロ耐性があるけど、精神系のスキルがない人にはキツイだろうな。

 俺は自分の幸運に感謝した。


『解体は任せて下さい! 俺は幸運なことに精神系のスキルを持っているので』


『ありがとうございます。それ凄いラッキーですよ。新人の中にはゲーゲー吐きながら冒険している人もいますよ』


『マジで?』


『マジです。ゴブリンと戦って吐き、解体して吐き、吐く物がなくなってもえずく。でも、お金がないから続けるみたいな』


『確かに稼げるよね』


 金がない辛さはわかる。

 俺は解体に困っている新人冒険者を見つけたら積極的に助けてあげようと強く思った。


『今は狭間さんが買い取り割り増し期間ですよね。私はもう終っちゃったので、狭間さんに便乗できてラッキーです。ごっつあんです』


『いえいえ。稼げる時にガッツリ稼ぎましょう。待てよ。二階層に人が少なかったのって、辞める人は辞めてしまい、続ける人はドンドン上の階層へ行くから?』


『そうです。割り増し期間が終れば、買い取り額はかなり下がります。だから、ドンドン上の階層へ行った方が良いそうです。レベルアップもしやすいですし』


 そういえば、今日は沢山倒したのにレベルアップしなかった。

 ゲームならとっくにレベルアップしてそうだが……。

 俺は疑問を望月さんにぶつけてみる。


『今日はレベルアップしなかった。望月さんは?』


『私もしてないです。レベル2です。ボスを倒さないとレベル3になれないみたいですよ』


『そうなんだ!』


 早めにボス戦に挑んだ方が良さそうだ。

 明日、上原さんに相談してみよう。


『それからモッチーで良いです。望月さんだと戦闘中呼ぶのに長いと思うので』


『了解。モッチーだね』


『では地元駅に着いたので焼き肉行きます!』


『お疲れ様でした。お肉楽しんで下さい』


 俺はメッセージのやり取りを終えた。

 望月さん、いやモッチーと大分距離を縮めたと思う。


 いつかモッチーと焼き肉を食べに行こう!

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