第32話 魔法ファイヤーの検証
俺が魔法スキルを得たので、俺と上原さんは新宿西口ダンジョン一階層に入った。
周りに人のいない場所まで移動して早速魔法スキルの検証だ。
まず、上原さんが魔法の説明をしてくれた。
「初級の火属性魔法はファイヤーです。火炎放射器のように炎を放つ魔法です。みなさん、こういう具合に指先から発射していますね」
上原さんが右腕を伸ばして一般的なファイヤーの発射態勢を見せてくれた。
「この姿勢で『ファイヤー』と唱えれば魔法が発動します」
「ほう、ほう。簡単そうですね」
「ファイヤーの射程距離は約三メートル。これは知力やジョブのレベルによって長短があるそうです。的に当てることを意識すると良いそうです」
上原さんの説明は分かりやすかった。
さすがギルド職員!
俺は魔法を試してみたくなった。
「じゃあ、やってみます。まず姿勢をとって、的を絞って、呪文を唱える……」
俺は右手を正面に伸ばした。
二本指にして指先から炎を放つイメージをする。
的は正面だ。
とにかく真っ直ぐ炎を放ってみよう。
そして呪文。
「ファイヤー!」
指先から炎が出た!
確かに火炎放射器のような強烈な炎だ。
だが、射程距離は二メートル程度。
さらに、炎の方向が安定しない。
正面を狙ったのに、右、左、上、下とあさっての方向へ炎が飛んでいく。
炎が指先から吐き出され、数秒で消えた。
「炎自体は強烈ですね。ゴブリンは火だるまになるだろうし、毛皮のある魔物なら黒焦げだ」
「そうですね。けど、狭間さんのコントロールが……」
「そうなんですよね。器用さが低いから?」
「おそらくそうでしょう。射程距離も短いですよね? 多分、魔法使いとしてのレベルが低いことと、知力が低いことが原因じゃないかと思います」
「それはどうにも改善のしようがないですね」
俺は苦笑する。
まあ、予想していたことではあるけれど、ちょっと悔しい。
それでも、大事なのは俺も上原さんも、魔法がノーコンであろうことは予想していて、バッチリ対策出来ていることだ。
そう!
ドワーフのエイホックさんにもらった魔法使い用のグローブ!
「じゃあ、次はグローブに魔法を発動してみましょう」
「うす!」
俺は右手を握ったり開いたりしてみた。
ドワーフの名工エイホックさん謹製の魔法使い用グローブは、しっかりと手に馴染んでいる。
行けそうだ!
俺は自信を持って右手をスッと前に突き出した。
手のひらのミスリルを意識して、ミスリルから炎を放つイメージを持つ。
「ファイヤー!」
ゴウッと音がして、俺の右手の手のひらに炎が宿る。
生まれた炎は真っ直ぐに進み空気を焼き切る。
「おお! 狭間さん、良い感じですね!」
「そうですね。このグローブから魔法を放つと真っ直ぐ炎が出ます。ただ、射程は短いですよね?」
「一メートル二、三十センチだから、射程は短いですね。槍より近い距離ですね」
「使えないかな……?」
「いえ、いえ。接近戦で使ったら必中ですよ。間違いなく敵は火だるまですね。普段はパワー系として戦って、強い相手と出会ったら――」
「これか! ファイヤー!」
今度は左手から魔法を放ってみた。
左手でも同じように魔法を放てる。
色々と制限はあるが、ちょっと魔法使いらしくなってきたぞ!
だが、すぐに問題に気が付いた。
いや、俺の魔法は問題だらけだけど、さらなる問題だ。
俺は困惑し、上原さんを見た。
「上原さん。MPが切れたみたいです……」
「うーん、三発ですか……。普通レベル2の魔法使いなら十発は放てるんですけど……。まあ、でも」
「でも?」
「魔法が使えるだけ儲け物ですよ」
上原さんがニヤリと笑った。
ふふ。そうだな。
魔法を放つチャンスは三回だけ。
だが、三回もチャンスがあると思えば、御の字だ。
俺はガツンと両の拳を打ちつけた。
「上原さん。ありがとう! やれそうな気がするよ!」





