第27話 西新宿の首折り魔
「らららら~♪」
帰り道、俺はご機嫌で歌を歌いながら進んだ。
何が理由かわからないが、ドワーフの鍛冶師エイホックさんに俺は気に入られたようだ。
魔法使い用のグローブをもらった。
早速俺は魔法使い用のグローブをはめている。
早くゴブリンが出て来ないかな!
「狭間さん、やたらご機嫌ですね」
上原さんが苦笑いしながら話しかける。
俺は無言で拳を見せた。
俺の拳で黒く光る魔法使い用のグローブ。
うむ! 素敵だ!
「接近して殴るか、つかむかして魔法を発動させる。なかなかピーキーな装備ですよね」
「チチチ! 上原さん……使い手を選ぶというのですよ!」
「いや、まあ、良いんですけどね。私の方も収穫がありましたし、自衛隊さんの方も情報収集が進んだそうですし」
上原さんは、鍛冶師のエイホックさんと交渉して、武器や防具を供給してもらえることになった。
『その辺に転がってるもんだったら、持って行って構わんぞ』
エイホックさんは太っ腹なんだか、大雑把なんだかわからない。
上原さんが、異世界から来たと告げても『ふーん』の一言で済ませてしまった。
エイホックさんが手慰みに打った武器でも、冒険者ギルドとしては価値のある武器なのだ。
代金は別途交渉するそうだが、新たな装備品供給ルートを開拓した。
これは上原さんの評価になるだろう。
自衛隊も隊長の吉田さんがアレコレ言っていた。
『ヨッコ村はナントカ王国の辺境にある村で、健康伯の領地でウンヌン』
健康伯って何だろうね?
健康な感じの伯爵なのかな?
俺は頭の中で筋肉ムキムキで『イヤーァァァ!』と叫んでいる芸人さんをイメージしてしまった。
あんな感じの健康伯だったら話しやすそうで良いな。
まあ、とにかく自衛隊さんも無事一仕事を終えた。
あとは国レベルでどうするか考えてもらうそうだ。
「左前方ゴブリン!」
隊列の前方で自衛隊さんがゴブリンを発見した。
俺は早速新しい武器――魔法使い用のグローブを試したくなった。
「上原さん。ちょっと行ってきて良いかな?」
「良いですけど……。でも……」
「じゃあ、行ってきます! 俺がやります!」
俺はダッシュで隊列の前方に出た。
背後で上原さんが何か言っている。
「狭間さん! まだ――」
何だがわからないが、戦闘に集中しろということだな! うん!
俺はゴブリンに急接近した。
ゴブリンはダッシュで迫る俺に驚いたが、すぐに手にした棍棒を振り下ろした。
「ギ!」
「おっと!」
俺は棍棒の軌道を予想して、さっと身をひるがえす。
ゴブリンは棍棒を大きく振りかぶる。
予備動作が大きいのだ。
慣れれば避けるのは難しくない。
俺はゴブリンの側面にステップイン。
横からゴブリンに抱きつくようにして、ゴブリンの動きを止めた。
そして、新武器! 魔法使いのグローブで、がっちりゴブリンを捕まえている。
この状態で魔法を発動すれば……!
「喰らえ! スーパー・ウルトラ・アルティメット・ファイアー・バーニング・ハート!」
……。
……。
……。
あれ? 何も起きないぞ?
魔物をつかんで魔法を発動させるはずだが……。
「ギ?」
ゴブリンも何事かといぶかしむ。
あれ? 何で?
距離を取って俺を見ていた自衛隊さんたちも不思議そうな顔をしている。
俺が首をひねっていると、上原さんが叫んだ。
「狭間さーん。まだ魔法スキルがないから、魔法は発動しませんよー」
「あっ……しまった!」
やられた! そうか、武器はあってもスキルがない。魔法が発動するわけない。
俺は照れ隠しに独りごちる。
「失敗しちゃったな。まあ、ドンマイ!」
同時にゴブリンの首をひねり、ゴブリンの首をへし折った。
すると自衛隊さんがザワつきだした。
「えっ!?」
「うわっ!」
「今、首を折りましたよね……」
「リアルで初めて見た……」
「みなさん。気にしないでください。これが風間さんのスタイルなんです。器用さが低いから武器を使うより、組み付いて首を折る方が向いているんですよ」
上原さんが、フォローなのか、けなしているのかわからない言葉を発した。
なんだかなあ。
「いや、今の戦闘を見れば、少なくとも人間は上原さんにちょっかいだそうとは思わないでしょう。首は折られたくないですからね」
自衛隊の吉田さんが苦笑いしながらフォローする。
こうして俺は自衛隊さんからも力を認められ『西新宿の首折り魔』というあだ名を頂戴した。
早くレベルアップして魔法を使えるようになろう!





