第26話 新たな武器
「エイホックさん。チョコレート食べる?」
「チョ? チョッコ? どういう食いもんだ?」
「甘いお菓子だよ」
俺は板チョコを手で割った。
まず、俺と上原さんでチョコレートを食べて見せた。
甘い味が口の中に広がる。
「うん! 美味しい!」
エイホックさんがチョコレートをジッと見ている。
興味を持ったのかな?
「エイホックさんもどうぞ」
俺は板チョコを手渡した。
するとエイホックさんはチョコレートを食べずに包装を観察している。
「何だこれは? 銀? いや、違うな……。柔らかい? 金属ではないのか……」
何やらブツブツ言っている。
板チョコを包んでいる銀色の包装に興味を持ったようだ。
「チョコレートの包装はアルミじゃないかな?」
「アルミ?」
エイホックさんは、俺の説明に首を傾げる。
アルミニウムが存在しないのかな?
「アルミニウムって金属だよ」
「ふーむ。知らんな。鉄鋼石から作るのか? それとも銀か?」
「えーと、アルミの原料は……、ボーキサイトだったかな?」
「ボッキサイト!? 何だそれは!?」
「ボッキじゃなくて、ボーキ! ボーキサイト!」
「ボボボ……ボッキィ? サイトー?」
どうやらボーキサイトは、この世界にはない鉱物資源のようだ。
オマケに発音がしづらいらしく、エイホックさんはとんでもない言葉を口走っている。
上原さんという女性がいるので、困ってしまう。
眉をしかめていた上原さんが俺とエイホックさんの会話に参戦した。
「チョコレートの包装は、アルミニウムを粉末にして紙に貼付けた銀紙を使います。銀ではないです。アルミニウムの色が銀に似ているので、我々は銀紙と呼んでいます」
「粉末にして貼付ける……。メッキみたいなもんか?」
「はい、そうです。チョコレートは熱に弱いのです。銀紙は温度変化からチョコレートを守り、チョコレートの風味が落ちないようにするのです」
さすが上原さんだ。
的確な説明にエイホックさんがうなる。
「ふーむ! 菓子一つにそれだけの手間を掛けるのか! これ食って良いか?」
「どうぞ」
「なるほど。こりゃ旨いな! それに独特の香りがする。濃厚だな! いや、貴重な物をありがとよ。それで、このアルミの材料……ボッキサイトは手に入らないか?」
「「ボーキサイト!」」
俺と上原さんの声が重なる。
ダメだ。この世界にない言葉はダイレクトに音が伝わるが、エイホックさんはボーキサイトと発音出来ない。
もう、ボッキサイトで良いや。
「ボーキサイトは個人で手に入れるのは難しいね。俺たちは日本という国から来たのだけど、ボーキサイトは遠い外国で採れる鉱石だよ。船で何日もかけて運んでくるんだ」
「なるほど! そりゃ貴重な鉱石なんだな。うーむ、ボッキサイトからアルミを打ってみたいと思ったんだがな。残念だ」
「悪いね。エイホックさん」
「いや、無理は言わねえよ。まだワシが知らない金属が存在するとわかっただけでも収穫だ。勉強になったぜ。ありがとよ」
エイホックさんがニカッと笑った。
おお! なんか良い雰囲気だよね!
これなら俺の武器について相談してもオッケーじゃないか?
俺はエイホックさんに相談を持ちかけた。
「ねえ、エイホックさん。俺の武器について、ちょっと相談にのってくれないかな?」
「おう! 何でも言ってみろよ」
「ステータスやジョブってわかる?」
「もちろんだ」
どうやらステータスやジョブもこの世界に存在するらしい。
ダンジョンがつないだのだから当然か。
「俺のジョブは魔法使いなんだ。けれどステータスはHP、パワー、持久力が高い」
「なるほど。ジョブは後衛だが、ステータスは前衛よりだな。なら魔法剣士を目指しちゃどうだ?」
エイホックさんが壁に掛かっているミスリルの剣を指さした。
俺は『うーん』とうなって首を振る。
「それがねえ、器用さが低いから剣を振っても当たらないんだよ」
「なるほど! そいつは難儀だな! ガハハ! なかなか珍しいケースだな!」
「そうなんだよ。それでスキルは【剛力】だから、とりあえず魔物に組み付いて首をひねって殺してるんだ。でもねえ……」
「まあ、ジョブが魔法使いなら魔法を使いてえよな?」
「そうなんだよ! まだ、魔法スキルがないけど、将来的にはレベルアップして魔法スキルをゲットして魔法でバッタバッタと魔物を倒したい!」
「おう! 良いじゃねえか! その為には、武器が必要ってことだな? だが、器用さが低いから剣はダメ、魔法使いの杖も向かない」
「そうなんだ! なんか良い武器はない?」
「あー、あったな! ちょっと待ってろ。えーと、そこらに仕舞っておいたような……」
エイホックさんは、土間の隅にある戸棚を開いて中をあさりだした。
「あった! あった! ほらよ。これを持ってきな」
エイホックさんが、俺に何かを放り投げた。
受け取ってみると、グローブだった。
ゆびぬきグローブというやつだ。
黒い革製で拳の一部と手のひらの一部に金属が貼付けてある。
「これは……?」
「そいつは魔物の革に薄くのばしたミスリルを貼付けたグローブだ。器用さが低いといっても、オメエさん、殴る、つかむは出来るだろう?」
「出来る」
「だからよ。魔物に組み付いて、そのミスリルを通じて魔法を発動させるんだ。密着して魔法を放たれた日にゃ、強い魔物もたまらねえって寸法よ!」
「おお! なるほど!」
俺はグローブを手にはめてみた。
シックリくる。
接近してつかんで魔法を放つ。
やれそうだ!
「エイホックさん! ありがとう! これならやれそうだよ!」
「早いとこレベルアップして魔法を覚えるんだな。頑張りな!」
「ああ、頑張るよ! それで……、このグローブの代金はいくら?」
薄いとはいえミスリルを使っているのだ。
高価な武器じゃなかろうか?
俺は高額請求されるかなとちょっと不安で身構えた。
「ヒマな時に作った物だ。いらねえから持ってけ」
「良いの?」
「ああ、色々教えてもらったからな。まあ、そうだな。また、来て珍しい金属の話を聞かせてくれ!」
俺はエイホックさんに感謝した。
新しい武器を手に入れ、新たな可能性に震えたのだ。





