第24話 ヨッコ村のドワーフ エイホック
俺たち調査隊はダンジョンから見えていた村へ向かった。
森の中を進む。
誰かが歩いた跡、草を踏みつけた獣道のような一人通れる道があったので、一列縦隊になって進む。
時々、木の根が張っていて歩きづらい場所があったが、概ね順調だ。
森を出ると五十メートルほど先に村が見えた。
所々に切り株がある草地を歩いて村へと進む。
村まであと少しというところで、先頭が止まった。
開けた場所なので、俺と上原さんも前へ出る。
「人がいますね!」
上原さんが驚いて声を上げた。
村の入り口に建っている家の前に木製のベンチがあり、一人の男が腰掛け汗を拭っていた。
男性は小柄でヒゲもじゃだ。
俺は上原さんの驚きがわからず聞き返す。
「上原さん。村なのだから人がいるのは当たり前ッスよ?」
「そうはいっても、ここは私たちが住む日本と違う世界と思われた場所でしょう?」
「そっか! 人が住んでいるとは限らないのか! 魔物やタコ型火星人みたいなヘンテコなのが住んでいても不思議じゃないのか!」
「そうですよ。でも、あの人はちょっと小柄だけどおじいさん? かな?」
俺たちが目指していた村は、木造の家が並んでいた。
どの家にも石作りの煙突が建っている。
ガラス窓があって、ヨーロッパの観光地にありそうなちょっと昔の木造建築といった感じの家だ。
「イエーイ!」
「狭間さん? 真面目にやりましょうね?」
家つながりと村に到着した嬉しさで、俺は言葉を発したが上原さんにジロリとにらまれてしまった。
すぐに話題変更を図る。
「しかし、あのおじいさんドワーフっぽくないですか?」
「ドワーフ? 指輪の映画に出てくる?」
「そうそう! マンガやアニメにも出てくるでしょう? 見た目ドワーフっぽいなと」
「確かにドワーフみたいな見た目ですね……」
小柄でズングリムックリした体型。
ヒゲ、筋肉質な太い腕。
ドワーフ・オブ・ドワーフだ。
さて、どうするのかな? と調査隊の様子を見ていると、みんな考え込んだり相談したりしている。
「どうしますか? 何語で話しかけますか?」
「英語か?」
「ドイツ語とか、ロシア語とかの方が通じそうな顔をしてますよ」
「いや、顔は関係ないだろう!」
「でも、ボルシチを食べてそうな感じが……」
「うーむ……それもそうか……」
何を迷っているのだろう。
こちらが色々相談している間に、ドワーフっぽい人物は俺たちに気が付いて怪訝な顔をしている。
早くコミュニケーションをとった方が良いと思う。
しゃーない。
俺が行くか。
「上原さん。ちょっと俺が行ってきますよ!」
「えっ!? 狭間さん!? 待って!」
色々考えていても仕方がない。
こういう時は、まずやってみることだ。
俺はドワーフっぽい男性のそばに近寄って挨拶した。
「こんにちは!」
「おう!」
俺が手を上げて挨拶をするとドワーフっぽい男性も手を上げて挨拶を返してくれた。
「オマエさん、ヘンテコな格好しとるの……」
ドワーフっぽい男性は、俺の装備をジロジロ見ている。
俺は体にピタッとしたボディスーツ姿だ。
「これ、魔物と戦う時に防御力が高いらしいですよ」
「ほう。鎧の一種か?」
「そんなところです。触ってみますか?」
俺はドワーフっぽい男性の隣に座った。
ドワーフっぽい男性が、俺のボディスーツを触ったり、引っ張ったりする。
「不思議な布じゃな……。ツルツルしておる。それに伸びる。布? いや、革か?」
「布の一種ですよ。ああ、自己紹介が遅れました。俺は狭間駆。ハザマが名字、家名で、カケルが名前です」
「へー! オマエさん家名持ちか! 貴族か?」
「いえ、平民ですよ。俺の国では、みんな家名があるんですよ」
「ほー! 変わった国だな! ワシの名はエイホック。ドワーフだ」
やはりドワーフ!
異世界感満載でワクワクする!
俺はエイホックさんと話し続けた。
エイホックさんによると、この村はヨッコ村という人間の村だ。
エイホックさんは、この村で鍛冶師をしているそうだ。
このヨッコ村の近くで良い鉄鋼石が採れる。
それでエイホックさんは気に入って住み着いているそうだ。
いつの間にか上原さんと自衛隊さんたちが近くにいて、俺とエイホックさんの会話を聞いていた。
「あー、エイホックさん。村長さんがいたら呼んできてくれないかな? うちの隊長さんたちが話をしたいと思うんだ」
「おう! 呼んでくる! ちょっと待ってろ!」
エイホックさんは、村の奥へ向かった。
エイホックさんがいなくなると、俺は上原さんや自衛隊さんたちに取り囲まれた。
「狭間さん! どういうことですか! 何で会話が成立するんですか?」
「いや、異世界といえば、念話とか、スキルとかで会話が成立するのが定番でしょう」
「定番?」
「異世界マンガでは定番なんですよ」
「マンガの知識ですか……」
上原さんがガックリとうなだれた。
自衛隊さんたちも脱力している。
なぜだろうか?
異世界といえば、訪問した日本人と現地人で会話が通じるのがデフォだと思うが……。
「えっと……上原さん? 俺、何か不味かったですか?」
「いえ! 大丈夫です! ちょっと驚いただけです! とにかく会話が成立するとわかったので。狭間さん! お手柄です!」
「いや~! それほどでも! ムフウ!」
俺は胸を張り、ちょっとだけ鼻息を荒くした。
声が聞こえた。
視線を移すと、村の奥の方からエイホックさんが老人を連れてくるのが見えた。





