第22話 バッテン
俺は偶然ダンジョンの出口を見つけた!
俺がダンジョンの中に戻ってくると、自衛隊の皆さんが目と口を丸くして驚いていた。
俺は得意満面でダンジョンに出たり入ったりしてみせる。
「ここから出入り出来るみたいですよ。ほら!」
ダンジョンの壁には何もない。
透明な壁が存在するだけんだが、俺が出入りする場所だけ透明な壁がないのだ。
「ちょっと、失礼しますよ……」
自衛隊の隊長新田さんが、真剣な表情でダンジョンの壁に触れ、横へ移動する。
「ここは壁がある……。あっ! 本当だ! ここは壁がない! 外へ出られるのか……?」
新田さんが、ゆっくりと足を進める。
新田さんがダンジョンの外へ出て、戻ってきた。
戻ってきた新田さんは、大きな声を上げた。
「本当だ! ここに穴が空いている!」
すぐに自衛隊員さんたちが動き出し、穴の確認が行われた。
ダンジョンの穴は、透明の壁に空いた四角の穴で、縦横三メートルだった。
調査隊の雰囲気が慌ただしくなる。
新田さんの指示で自転車の自衛隊員が動き出す。
応援を呼ぶらしい。
自衛隊の隊長新田さんと冒険者ギルドの上原さんが、何やら話し込んでいる。
「リスクが――」
「しかし、ここで引き返しては――」
このダンジョンの穴から外へ出て、村まで行くかどうか相談しているようだ。
俺はちょっと離れたところに立って、周囲を警戒しつつチーズ味のエネルギーバーを口にした。
ダンジョンの中はエネルギー消費が激しいのだ。
すぐ腹が減る。
ダンジョンに穴が空いているといっても、穴の周囲はどうといって特徴のない地形だ。
地面に草が生えているだけ。
(これでは見つけられないよな……)
俺が穴を見つけたのは偶然だ。
運が良かった。
上原さんが、こちらへやって来た。
自衛隊との話し合いが終ったようだ。
「上原さん。どうなりましたか?」
「調査継続です。村を目指して移動します」
「了解! 上原さん、食べて!」
俺は上原さんにエネルギーバーを差し出した。
「ありがとうございます」
上原さんがエネルギーバーを口にする。
モグモグと動く口元がかわいい。
「何というか……、狭間さんはもってますよね」
おっ! 上原さんが褒めてくれた!
俺は上機嫌で返事をする。
「いや~、運が良かったですよ!」
「でも、ダンジョンの中は危険ですから今後は慎重に行動して下さいね? 変な場所に転移させられた可能性もあるので、油断禁物です!」
「さーせん」
上原さんがエネルギーバーをくわえたまま両手でバッテンを作った。
あまりのかわいさに、俺はノックアウトされそうだ。