第19話 上原さんの装備
俺たちは百貨店七階バックヤードにある自衛隊冒険者ショップに入った。
マッチョな店員吉田さんが迎えてくれた。
上原さんは、店内をキョロキョロ見回す。
「吉田さん。冒険者ギルドの上原です。色々と必要な物があるのですが、他にお客様は?」
「いえ、おりません」
「では、至急でお願いします。最新式の装備を一式。私が装備します。それから野営の道具一式。ロープ、ガムテープなど野営で使えそうな物。食料や水もお願いします。代金はギルドに請求して下さい」
上原さんが早口でまくし立てると、吉田さんがキリッとした表情に変わった。
「かしこまりました。ダンジョンの中ですよね?」
「そうです。極秘案件になりますので、内密にお願いします。十時に出発です」
「すぐ用意します!」
「狭間さんも必要な物があれば言って下さい。一緒に買ってしまいます」
「了解」
吉田さんがすぐに動き出し、店の奥から装備品の入ったバッグを持ち出した。
俺が持っているのと同じ一菱のバッグだ。
上原さんは試着室に入った。
俺は店の中を見る。
(必要な物と言われても、何が必要なのかわらかないぞ……)
上原さんの指示に、俺はちょっと困ってしまった。
ブラブラと店内を見て回っていると、食品が山積みになっているコーナーを見つけた。
携帯食料、缶詰、塩、コショウといった調味料、チョコレート類、小さな羊羹もある。
(そういえば雪山で遭難した時は、甘い物を食べると聞いたことがあるな。カロリーが高いんだよな)
俺は羊羹とチョコレートを買ってもらうことにした。
近くにあった買い物カゴに、羊羹とチョコレートを適当に放り込む。
(村に行くんだよな……。もしも、人が住んでいたら交易とか? 物々交換が出来る物があると良いよな!)
俺は以前読んだ異世界マンガの内容を思い出した。
日本の塩や砂糖を持ち込んで大儲けする話だ。
食品コーナーには、食卓塩、コーヒーに入れるスティックシュガーがあった。
食卓塩とスティックシュガーもカゴに入れる。
ついでにテーブルタイプのコショウ、インスタントコーヒー、ティーバッグもカゴに放り込む。
(あとは……あっ! 上原さんは野営と言っていたな……。ということはキャンプすることもあり得るのか?)
俺が巨木の上から村を見た感じだと、日帰り出来そうな距離だったが……。
上原さんは泊まりを想定していた。
俺は更衣室の近くによって、カーテン越しに上原さんに話しかけた。
「上原さーん!」
「何ですか?」
「泊まりになるんですか?」
「いえ、日帰りの予定です。万一を考えて野営出来るように装備をそろえています」
「なるほど! さすが上原さん!」
用意周到だ!
俺は買い物カゴにわっさわっさと食品を放り込んだ。
ダンジョンの中は腹が減る。
そして、泊まりなった場合でも大丈夫なように!
「あっ!」
俺は重要なことに気が付いた。
泊まりといえば……、大人のエチケット道具を持っていない……。
いや! どうだろう!
上原さんとの仲がそこまで進展するか?
いや! いや! いや!
あるかもしれない!
何せ泊まりなのだ!
予想外のアクシデント。
不安な上原さん。
そして、俺が優しく上原さんを守る。
星が瞬き、月が優しく微笑む。
そして、二人は……。
「ぐふふ……」
シャッ! と、音がして更衣室から上原さんが出て来た。
体にピタッとした黒のボディスーツに黒のジャケットを羽織った姿!
「おお! 上原さん! メチャカッコイイですよ! ブフォ!」
いきなり上原さんのグーパンが飛んできた!
えっ!? どうして!?
「何が『星が瞬き、月が優しく微笑む』ですか!」
「えっ!? なぜ知ってる!? 上原さんはエスパー!? はっ! まさか読心術のようなスキルを得た?」
「違いますよ! 狭間さんは全部声に出してましたよ!」
「えぇぇぇぇ!」
しまった! 心の中で考えていたことが、大きな独り言になっていたようだ!
「はっ! 待って! 上原さん! 暴力反対!」
「もっこりさせて何を言っても説得力ゼロです!」
「痛い! 痛い! グーは止めて下さい!」
「怒りの鉄拳ですよ! ちゃんと護衛して下さい!」
こうして上原さんは、一菱製の最新型ボディスーツを手に入れた。
水、食料、テントなど野営道具も準備万端!
時間は九時五十分になっていた。
集合時間まで、あと十分しかない!