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駅前はダンジョン~派遣から転職したらパワー系魔法使いでした!  作者: 武蔵野純平
第二章 冒険者活動にもっこりを添えて
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第17話 調査隊

 俺は上原さんに連行されて、スゴスゴとギルド長室へ向かう。

 ギルド長室に入ったが、ごく普通のオフィスだった。

 そして、ギルド長もいたって普通の人だった。


「どうも。ギルド長の藤谷です。おかけ下さい」


 ギルド長の藤谷さんの第一印象は、『穏やかそうなおじいちゃん』だ。

 六十代半ばくらいかな……。

 髪の毛はロマンスグレーで、地味な灰色のスーツに紺色のレジメンタルのネクタイ、めっちゃ地味。


 ギルド長室には打ち合わせ用のテーブルとイスがあった。

 藤谷さんは、穏やかな笑顔で俺と藤谷さんに席を勧めた。


 三人とも席につくと、ギルド長の藤谷さんが話し始めた。


「さて、昨日狭間さんが発見された村ですが、調査隊を出すことになりました。上原さんは冒険者ギルドの担当者として調査隊に参加していただきたい。狭間さんは、上原さんの護衛として同行していただきたい。いかがでしょう?」


「や――!」


 俺は『やります!』と即返事をしようとしたが、隣の席に座る上原さんが俺の太ももを強く叩いた。

 驚いて上原さんを見ると、上原さんはジッと藤谷さんを観察していた。

 冷徹、かつ、かなり厳しい視線だ。


 どうやら俺は黙っていた方が良いらしい。

 俺は前のめりになった姿勢を戻し、腕を組んで沈黙した。


 上原さんがギルド長の藤谷さんに問い詰めるような口調で質問した。


「ギルド長。お返事をする前に状況を教えていただけますか? 発見されたのは昨日ですよね? 調査隊を編制するには、あまりにも時間が短いと思うのですが?」


「……」


 ギルド長の藤谷さんは無表情だ。

 上原さんは、マシンガンが銃弾をばらまくように言葉の嵐を藤谷さんに浴びせる。


「これって省庁……国が絡む事案ですよね? 何せダンジョンの中で村が発見されたんですから。もし人が住んでいるなら国があるということで外務省。人が居住可能ということでしたら国土交通省。魔物の村なら防衛省や警察庁。省庁間の利害や縄張りが関係しますよね? 一晩で調整が出来るとは思えないのですが? ギルド長は総務省のご出身ですよね? 調査隊は総務省が主導ですか?」


 上原さんが一気に言い切ると、藤谷さんは苦笑いした。


「いや、参りました。上原さんは優秀ですね」


「ありがとうございます。それで、調査隊はどの省庁主導でしょうか?」


「上の方は今もめていますよ。何せ村の発見は世界初です。報告は首相官邸まで上がっていますが、まだ指示は出ていません」


 上原さんが眉根を寄せる。

 俺は上原さんと藤谷さんが話していることが、よくわからないが……。

 上原さんが色々考えていることはわかる。

 くちばしを入れずに静観することにした。


「では、今回の調査隊は?」


「現場判断ですね。特に自衛隊から不安の声が上がっています」


「自衛隊から……。陸自の東部方面隊さんですか?」


「ええ。それで私と東部方面隊のトップが話し合って、調査隊を出すことにしました」


「なるほど……。では、正式な調査隊を出す前の、予備調査という位置づけですか……」


「そうです。まあ、あくまで……、『現場で必要と思ったので人を送りました。結果、こうでした』という体裁ですね」


「それで、私と狭間さんですか……」


 上原さんがアゴに手をあてて、深く考え込んだ。

 俺はまったくわからなくて、『アイスクリームが食べたい』と関係ないことを考えていた。


 ギルド長の藤谷さんが俺に話しかけてきた。


「村のことは冒険者ギルドで箝口令をしいています。狭間さんも秘密にして下さってますよね?」


「もちろんです! 誰にも話していません! 俺は一人暮らしですから、話す家族もいないです。彼女もいません。友だちも疎遠なので、そもそも話す相手がいません」


「SNSは大丈夫ですか?」


「はい。SNSにも漏らしていません」


「ご協力ありがとうございます。村の件は、いずれ政府が発表するでしょう。それまで内緒にして下さい。ああ、口止め料を出しますよ。百万くらいで良いですか?」


「ふわっ!?」


 突然のビッグオファーに俺は驚く。

 藤谷さんは、淡々としている。

 俺が驚きのあまり返答出来ないでいると、上原さんが厳しい口調で交渉を始めた。


「ギルド長。狭間さんが調査隊に参加するのは、ギルドからの依頼にして下さい」


「無論です」


「報酬は百万ゴールド。そして先ほどの口止め料で百万ゴールド。合計二百万ゴールドにして下さい」


「えっ!? 上原さん!?」


 俺は報酬の多さに目をむく。


「良いでしょう。ギルドからの依頼にして、報酬は合計で二百万ゴールドですね」


「ええっ!? 良いの!?」


 藤谷さんは、あっさり了承してしまった。

 二百万なんてビッグマネーを俺は見たことがない。

 きっと今、俺の目は円マーク『¥』になっているはずだ。


 一方で上原さんは、ピリピリした空気をまとったままだ。


「私からのお願いは……、まず、装備品の支給を……。自衛隊や警察のお古じゃなくて一菱の最新型を希望します。あと、必要な物品の購入許可を下さい」


「職員の安全を考えれば当然でしょう。ギルドの経費で賄います。他は?」


「危険手当、特別手当、残業手当は出して下さい」


「ギルドの規定に基づいて出しましょう」


「生還したら昇給と管理職に昇格をお願いします」


「良いでしょう。それくらいの要求は当然です。文章は出せないですが、必ず約束は守りますよ」


「では、調査隊参加を引き受けます」


 上原さんは、色々交渉してギルド長から条件を引き出すと調査隊参加を表明した。

 ただ、上原さんの表情は厳しいままだ。


(何をそんなに?)


 俺は上原さんが何を心配しているのか分からず困惑していた。


 ギルド長の藤谷さんが、柔らかな表情で俺に聞いてきた。


「狭間さん。どうでしょう? 上原さんは調査隊に参加しますが、狭間さんも一緒に行ってもらえませんか?」


 そんなの迷うことない。

 上原さんが行くなら、俺も行く!

 俺が上原さんを守るのだ!


 俺は迷わずに答えた。


「はい! 上原さんと一緒に行きます!」


「お引き受けいただいてありがとうございます。では、上原さん、狭間さん準備を急いで下さい。出発は十時を予定しています」

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