第16話 ギルド長の呼び出し
「おはようございまーす!」
俺は新宿西口冒険者ギルドに到着すると、元気よく挨拶してロビーに入った。
挨拶は大事! 初めての現場でも、とりあえず挨拶しておけば丸く収まる。
そして、受付カウンターの上原さんの席へ。
「上原さん。おはようございます! 今日もよろしくお願いします!」
「はい。狭間さん。おはようございます。よろしくおねがいします」
今日は忙しいようで、上原さんは下を向いてノートパソコンのキーボードを叩きながら、素っ気ない口調で極めて事務的に挨拶を返えした。
この可もなく不可もない、愛想のない感じがたまらない。
なぜかゾクゾクする。
「狭間さん。ギルド長からお話があるそうです」
「えっ!?」
「この仕事が終ったら一緒に行きましょう」
「面倒臭いッス!」
嫌だ。
行きたくない。
ギルド長なんて偉い人と話しなんてしたくない。
俺が断ると、上原さんが顔を上げた。
「ダメですよ? ギルド長と話をして下さい」
「いや……俺は現場! 現場! で働いてきた人間ですよ? 偉い人と話なんて無理ですよ。上原さん、よく知ってるでしょう?」
「私も一緒に行くから大丈夫ですよ」
「それでも嫌ッス! 厄介ごとになりそうで嫌ッス! お疲れ様でした!」
俺は席から立ち上がり、即座に帰宅しようとした。
すると上原さんのブリザードボイスが俺を凍り付かせた。
「これまでのセクハラの数々をご実家のお母さんに話しても良いんですよ?」
しまった!
緊急時の連絡先を母にしていた!
実家の電話番号と母の名前は冒険者ギルドに知られている!
母に『おっぱい』や『もっこり』はキツイ……。
泣かれるかもしれない……。
ギギギギギ……と俺は首を回す。
上原さんの笑顔が怖い。
「ご一緒させていただきます」
俺は全面降伏した。
でも、嫌なモノは嫌だ。
俺が口を尖らせていると、上原さんが『ガッ!』と俺の手を握った。
「そんな子供みたいにすねないで下さい!ほら! 行きますよ!」
「はーい……」
俺は上原さんに手を引っ張られて、ギルド長のところへ向かった。