第11話 変態現る
――午後二時。
食事を終え装備を調えた俺は、ダンジョン攻略を開始した。
「えっと……スマホのアプリを起動して……ダンジョンを選んで……開始ボタンを押す!」
ダンジョンに入る時は、冒険者アプリを起動して、『ダンジョン探索を開始する』ボタンを押すのだ。
ボタンを押すと、冒険者ギルドに記録がつくので、ダンジョンに入って長時間戻って来ないと、安否確認のメールや電話が入る。
いわゆる『遭難』を防ぐシステムだ。
何気に面倒なので、スマホで『ピッ!』タッチすれば記録されるシステムを導入して欲しいが、何もないよりはマシだと考えることにする。
さて、いよいよ冒険者として本番!
ダンジョン探索だ!
それも、一人で!
普通は冒険者登録で一緒だった人同士で冒険者パーティーを組んでダンジョン攻略をするそうだが、俺のステータスが特殊すぎて誰もパーティーを組んでくれなかったのだ。
それでも俺は上機嫌だ。
なぜなら上原さんに太鼓判を押されたから!
『装備も良いし、狭間さんなら一階層は攻略出来ます! 午後は一階層攻略を目標にしましょう! がんばってください!』
どうよ!
この上原さんの愛と信頼は!
俺は高鳴る胸の鼓動を感じながらダンジョン一階層を歩き出した。
まあ、何と言っても俺と上原さんは、一緒に焼き肉を食べた中だからな。
肉汁したたるカルビを口に運ぶ上原さんは、セクシーだった。
かき上げた髪、箸を持つ細い指、小さな口にカルビが……。
おっと! ボディスーツだから『もっこり』が目立ってしまうぜ!
敵は意外なところにいるものだ。
上原さんが選んでくれた愛のこもった完璧なボディスーツだが、『もっこり』が目立つのは問題だ。
ジャケットを羽織っているが、前あわせの間から『もっこり』がこんにちはしている。
だが、まあ、ここはダンジョンの中だ。
新宿駅前で『もっこり』させていたら変態だが、ダンジョンの中なら気にしなくても大丈夫だろう。
幸い俺の周りに人はいない。
「ギ!?」
だが、ゴブリンはいた!
獲物発見!
「ギッ! ギ~……」
ゴブリンは俺を見ると嫌そうな顔をした。
ゴブリンの視線の先は、俺の『もっこり』だ。
「ゴブリン君! 君はどこを見ているのだ!」
「ギィ……」
ゴブリンはいかにもやる気なさそうな返事をした。
「君は誤解している。この熱くたぎっている魂レボリューションは、上原さんへのパッションであって、君にではない」
俺は冷静にゴブリンに状況説明をする。
戦闘前のブリーフィングは大切なのだ。
ブリーフィングであって、ブリーフではない。
念のため。
「ギ……」
ゴブリンは回れ右をして歩き出した。
俺から離れていく。
「ちょっ! ちょっと待てよ! 戦わないのかよ!」
俺はゴブリンを追いかけ、後ろからタックリして倒した。
ゴブリンがジタバタするので、俺はゴブリンに組み付き抑え付ける。
「すまんが、俺の養分になってもらう。成仏してくれよ」
「ギー!」
さて、どうやってゴブリンを倒そうかなと考えていると、すぐ近くで悲鳴が上がった。
悲鳴の方を見ると、若い女性三人組が俺の方を見ていた。
同じ登録会に参加していた人だ。
女性三人は、口元を手で押さえ、顔をゆがめている。
「キャア!」
「うわ! ゴブリン相手に!」
「もっこりしてる!」
俺は女性三人の言葉で察した。
どうも女性三人は、俺がゴブリンを相手に『もっこり』していると勘違いしているのだ!
これはいけない!
「違う! 誤解です!」
「違わないでしょう!」
「そうよ! 何よりの証拠が!」
「その! もっこり!」
俺は女性三人の誤解を解こうと弁解をするが、『もっこり』はおさまってくれない。
くっ……ステータスの『スタミナ』とか『パワー』が影響しているわけじゃないよな……。
静まれ! 俺のダイナマイトサン!
女性三人組は、俺を指さした。
「「「変態! 現る!」」」
「だから違うってば!」
ついに女性は俺を変態認定した。
いや! ちょっと! ヒドイ!
「ギー! ギー! ギー!」
俺と女性と口論していると、ゴブリンがギーギー騒ぐ。
あまりにも耳障りだ。
「ギー! ギー!」
「ええい! うるさい!」
ベキッ!
「あっ……」
ゴブリンがうるさいので黙らせようと頭をつかんだら、弾みで首の骨が折れてしまった。
女性三人組を見ると、顔に斜線入っている。
「首をへし折るとか……」
「うわぁ……引くわ……」
「残虐プレイ……」
「違います! プレイじゃありません!」
「「「変態! 現る!」」」
「ノ~~~~~~!!!!!!」
こうして俺は一部の冒険者に変態認定をされてしまった。
原因は『もっこり』だ!
きっと昼から焼き肉を食べたので、精力がつきすぎたのだ!
(焼き肉は夜にしよう!)
俺は心に誓うのであった。