表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/22

第10話 サイバーパンクな防具

 焼き肉を食べ終わり、俺の装備をそろえることになった。


 上原さんは、百貨店の中をズンズン歩いて行く。

 俺は上原さんの後をついていく。


 エレベーターで冒険者ギルドがある七階へ。

 上原さんは、七階フロアの従業員出入り口に入っていった。

 いわゆるバックヤードに入っていったのだ。


(良いのかな? 関係者以外立ち入り禁止じゃないのか?)


 上原さんは、バックヤードの通路を真っ直ぐ進み、突き当たりのドアを開いた。

 俺も上原さんの後に続く。


「いらっしゃいませ!」


 出迎えたのは、プロレスラーのような立派な体格をした迷彩服の男性だ。

 上原さんは、迷彩服の男性と名刺交換を始めた。


「初めまして。冒険者ギルドの上原です。新人です。よろしくお願いします」


「自衛隊冒険者ショップの吉田です。こちらこそよろしくお願いします!」


 迷彩服の男性は自衛隊員さんだった。


「狭間さん。ここは自衛隊が経営するショップです。一般には販売してないので、お店の場所は冒険者以外に内緒です」


「わかりました……。こんなところにお店があるとは思いませんでした!」


 俺が驚くと、自衛隊の吉田さんが太い首から野太い笑い声を出した。


「ハハハ! ビックリしますよね? まあ、中には銃刀法に触れる商品もありますから、一般の方には販売できないんですよ。それで百貨店さんの会議室をお借りして店を開いています」


「ほ~!」


 お店はちょっと広めの会議室でパツパツに商品が置かれていた。

 長机、カゴ、本棚、いたるところに商品が置いてある。


「入店管理をしているので、恐れ入りますが、冒険者ギルドの登録証を確認させて下さい。アプリでも紙でもどっちでも良いですよ」


「じゃあ、アプリを」


 俺はスマホの冒険者ギルドアプリの画面を吉田さんに見せた。

 吉田さんは、俺の冒険者登録番号と名前を用紙に記入した。


「はい。ありがとうございます。狭間さんは新人冒険者さんですね。どんな装備をご入り用でしょうか?」


「えーと……」


「あっ! 銃は許可証がないと売れませんよ!」


「えっ!? 銃を売ってるの!?」


「いえいえ。ジョークです! ワハハハ!」


 自衛隊の吉田さんは、見た目はゴツいけど明るくて良い人っぽい。


「さて、冗談はさておき! 早速、装備をそろえましょう! お手伝いしますよ! 狭間さんは剣士ですか? それとも魔法職?」


「えーと……」


 説明が難しいなと困っていると、上原さんが俺の代わりに説明をしてくれた。

 自衛隊の吉田さんは、フンフンと熱心に話を聞いている。


「なるほど。すると前衛の装備の方が良さそうですね」


「ええ。ただ、器用さが低いので剣はだめだと思います。ステータスはこれです」


「あー……。これだと剣はちょっと……。自分の足を切っちゃうかもしれないから、逆に危ないですね」


「ゴブリンと戦闘しましたが、バールが当たらないんですよ」


「打撃系の武器もダメですか! そうすると――」


 自衛隊の吉田さんと上原さんが、ドンドン打ち合わせを進めている。

 俺としては非常にありがたいが、本人がおいてきぼりになっている。

 俺は手持ち無沙汰になったので、店の中を見て回ることにした。


 長机の上に置かれたプラスチック製のカゴに、自衛隊のヘルメットがキチンとそろえて収納されている。

 手書きのポップには、『かぶって安心! 中古ヘルメット! 1000ゴールド!』と書かれている。


 隣には、警察が使う三段警棒。

 これも中古で一つ1000ゴールドだ。


 壁には剣が掛けられていた。

 日本刀も置いてある。

 日本刀の価格を見ると……なんと100万ゴールド!


(高っ!)


 細かい文字で説明が書いてある。

 この日本刀は真剣で、日本刀の職人さんが作った物。

 本来は『居合い』の有段者が買う物らしい。


(新人には手が出ないね……。それに扱い方がわからないと大怪我しそうだ)


 日本刀はカッコイイけど、予算オーバーだし、ステータスの器用さが低い俺では無理そうだ。


 多いのはナイフ。

 長いナイフもあるし、短剣のようなククリナイフもある。

 このあたりは高くても十万円代なので新人でも買えそうだ。


 それから弓矢もある。

 アーチェリーで使う物と説明が書いてある。


(そりゃ、ファンタジーアニメみたいに、ドワーフの鍛冶屋が鍛えた剣なんてないよな……)


 俺はちょっとガッカリした。

 冷静に考えてみれば、タワーが出現して一月。

 ダンジョン探索が始まって二週間くらいだろう。

 今、日本で入手できる物で戦うしかないのだろ。


「狭間さん!」


「はいはい!」


 上原さんが俺を呼ぶ。

 装備の相談が終ったらしい。


 上原さんと自衛隊の吉田さんに近づくと、吉田さんが装備について説明を始めた。


「狭間さんは接近戦が多くなりそうですから、まず、防具をしっかりそろえましょう!」


 なるほど。

 まずは防御力アップか!

 俺は吉田さんの提案が的確に思えた。


「はい。その方向でお願いします」


「狭間さんは、見た目重視ですか?」


「え?」


 意外な質問に俺は一瞬返事に戸惑う。

 だが、上原さんを見て自信を持って答えた。


「見た目重視です!」


「ブッ!」


 吉田さんが吹き出し、上原さんがイラッとした顔をした。


「違う! 違う! 女性の好みの話じゃないですよ! ワハハハ!」


「あー……」


 やってしまった!

 顔が熱い!

 俺は困って上原さんに助けを求める。


「上原さん……」


「フォローしませんよ」


「さーせん!」


 自衛隊の吉田さんは、楽しそうに笑っている。

 くっそう……。


「説明不足で申し訳ありません。冒険者の中には、アニメやゲームみたいな装備が良いという人もいるんですよ」


「革鎧とか?」


「そうです。見た目と防御力。どっちを重視しますか?」


「防御力です」


 俺は迷わず即答した。

 そりゃ革鎧とかロマンがあるけど、ダンジョンの中では命がかかる。

 ゴブリンなんて石斧で襲いかかってくるのだ。

 頭にもらったら致命傷だ。


 吉田さんは、うなずくとナイロン製のボストンバッグを取り出した。


「それなら、このボディスーツのセットがオススメですよ」


 吉田さんは、ボストンバッグを開くと中から化学繊維で出来た服を取り出した。


「これは一菱製の最新モデルです。一菱は自衛隊の戦闘機を作っているメーカーです。ダンジョン用に開発された戦闘服で、耐火、防刃、防弾性があります。膝、肘、心臓、スネ、上腕部分は特殊カーボンでカバーされています」


「へえ! ダンジョン用の装備ですか!」


「試着してみますか?」


「お願いします!」


 俺は試着室でボディスーツを身につけてみた。

 体にピタッとしたデザインだが、窮屈さはない。

 試着室から出て、歩いて屈伸してみたが、非常に動きやすい。


「今から殴りますから、こういう具合にガードしてもらえますか?」


 自衛隊の吉田さんが、突如物騒なことを言い出した。

 ダンジョン装備だから、実戦で使えるか確かめろってことか。


 俺は吉田さんに言われたとおり腕を上げてガードした。

 吉田さんは金属製の警棒を握った。


「行きますよ! それ!」


 ガツンと音がしたが、俺の右手は何ともない。

 カーボン樹脂が上腕をカバーしているので、警棒で叩かれても大丈夫なのだ。


「これならゴブリンの攻撃も防げそうですね!」


「でしょう? これジャケット、ブーツ、グローブ、キャップがワンセットになってます。全部身につけてみますか?」


「お願いします!」


 ジャケットは、ゆったりしたデザインでポケットが多くて便利そうだ。

 グローブは五本の指が独立しているタイプなので、グローブをつけたまま解体が出来そう。

 キャップは、ヘアターバンタイプのゆったりしたデザインで後頭部もカバーしてくれる。

 ブーツは足首までカバーするショートブーツ。


 全体のベースは黒で、所々にイエローが使われている。

 鏡を見て、俺は即気に入った。


「サイバーパンクっぽくて、カッコイイですね!」


「一菱のデザイナーの好みらしいよ。いいよね!」


 自衛隊の吉田さんが親指をグッと突き上げ、イイネ! をする。


「上原さん。どう?」


「似合っていて、カッコイイですよ!」


「そう? そう? ムフフフ!」


「それに防御力が高いから安心です!」


「それ大事ですよね!」


 俺は一菱のボディスーツセットが、すっかり気に入った。


「吉田さん! これにします!」


「ありがとうございます! 五十万ゴールドです!」


「ふわっ!?」


 俺は値段を聞いて驚く。

 五十万ゴールド?

 今日の稼ぎが半分吹っ飛ぶ!


「う、う、う、上原さん!?」


「何ですか?」


「高くないッスか?」


「ないッスよ。大手メーカーの一菱が、短期間で研究開発したダンジョン専用装備ですよ? むしろ安いくらいですよ」


「そうなの?」


「そうですよ!」


 そうか、安いのか。

 そう言われると、そんな気がしてきた。


「それに、狭間さんに万一のことがあったら困りますから。装備にはお金を掛けて下さい」


 上原さんの言葉が、俺の心の中でリフレインした。


『万一のことがあったら困りますから……』


『あったら困りますから……』


『困りますから……』


 俺はぐぐっと拳を握った。


「そうか! 上原さんは、俺のことを愛しているんだ!」


「ちょっ!? 待って!?」


「愛があるから、俺を心配して、この装備をすすめてくれたんだ!」


「えっ!? 狭間さん!?」


「つまり、このボディスーツは、上原さんの愛の証!」


「いや、ちょっと冷静になろうか?」


「吉田さん! これ買います!」


「聞けよ!」


 上原さんの愛を感じながらが、俺は幸せだった。

 自衛隊の吉田さんが、イイ笑顔でお会計をした。


「毎度あり!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

■クリックで応援!■

★★★小説家になろう 勝手にランキング★★★


■お知らせ■

m3xp8tkadjxaklfuf50kcny8up9_qa2_dw_jq_94mv.jpg

【蛮族転生! 負け戦から始まる異世界征服】がコミカライズされました!
マンガ一巻発売開始です!
全国の書店、Amazon、電子書籍サイトにて、ぜひお買い求め下さい!

蛮族転生! 負け戦から始まる異世界征服1(Amazon)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ