ものぐさ科学者、異世界にて回帰する
なんだかんだ続けます。
三咲は意識がはっきりしていくのをたしかに感じた。
(ふむ…見知らぬ天井だ。吾輩はたしかに異世界に転生したらしい)
目を開き、水晶体に光が飛び込んでくる。視界に移る見たことの無い天井。驚く程に小さい手を見て三咲は静かに安堵した。
(まさか吾輩がこのセリフを本当に感想として思うことになるとは、なんとも感慨深い、そして異世界に来ることができるとは。夢は諦めなければ叶うということだろうか)
そんなことを考えたがふと思う。
(吾輩…別に異世界に来たいと考えたことはなかったな)
感慨にふける三咲の視界にふと2人の人影が映る
「ねぇ、あなた見て?アリスちゃん目を覚ましたみたい」
「ほんとだね、まるで天使のようだよ」
(今世の吾輩の名前はアリスというらしい。この2人が吾輩の今世の両親か、2人ともなんとも見目麗しい。前の吾輩の両親は平凡な顔立ちだったからなんとも…)
そう考えていると、三咲の脳裏に前世の両親の顔が浮かんでくる。
「うぇぇぇぇん!」
前世の両親…2人の顔を思い出しただけで瞳の奥からとめどない涙が流れ込んできた
(感情の制御が効かない、前世では既に割り切っていたはずだ)
前世の記憶がある三咲は時間が経ち
「アリス!?どうした!どこか痛いのか?大丈夫か?」
「もう!あなた、落ち着いて。もう2人も育ててるのにどうしてなれないの?アリスちゃん?お腹すいた?お乳飲みましょうね〜」
「どんなに経験したって慣れないよ。たとえこの子の前に2人を育ててる経験していたとしても、この子を育てるのは当たり前に初めてなんだから。」
「それにしても落ち着いて欲しいわ。普段はあんなにもかっこいいんだから」
「頑張るよ。アリスや他の子の為にもね…」
「そうしてちょうだい。」
…………
泣き叫ぶ私を傍目になんともお熱いことを言っていたが、私にはそのことを気にするような余裕などなかった。そこでふと女神の言葉を思い出した。
(魂は肉体に引っ張られる。か…)
詰まるところ、吾輩の今世の肉体に吾輩の魂が馴染んでおらず、結果として吾輩が持つ前世の記憶を皮切りに現状肉体が垂れ流しにしている悲しみという感情と平静を保っている魂が齟齬を起こしているのだろう。
そう頭では冷静に考察していても肉体は言うことを聞かず、未だに涙を垂れ流し大声で泣き叫んでいる、心底不可思議な感覚であった。
しかしそんな意識も段々と微睡んでくる。
所謂泣き疲れるというやつだ、大きな悲しみに染まっていた肉体が強烈な睡魔に流され始めた。
(これからの事は次起きてから考えよう。)
そう決め、吾輩は、意識を手放した。
意識を手放した吾輩が見ていたのは遠き前世の記憶だった…
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「みさきー?始まっちゃうわよー」
「すぐ行く!すぐ行く!隆ちゃんもみよ!ね?」
「えー?僕別にきょうm…」
弟が言葉を言い切る前に吾輩…私は弟の腕を強くつかみ引きずりテレビの前に連れていった。
「今日もプリ〇ュア勝てるかな?いっつもみんな苦戦するからみさき心配!」
「プリ〇ュアは強いから大丈夫よ、でも心配なのもわかるわ、一緒に応援しましょ?ね?」
「うん!」
昔の私はどこにでもいるような普通の女の子だった、テレビに映るヒーロー達に憧れ、そしてそうなりたいと夢見ている普通の女の子だった。
いつからだったか、私は普通の女の子ではなくなっていた。
「物部〜、お前まだこんな幼稚なの見てるの?キモすぎ、みんなそんなのもう見てねぇよ?」
「別にいいでしょ?好きなんだから!」
「アニメ?とかよく分からないけどさ、ガキが見るようなの見て楽しめるとか本当に幼稚だよなぁ?お前」
中学生に上がった頃、もう既に多くの人々がプリ〇ュアやその他のアニメを見なくなった頃、私はクラスで人一倍浮いたキモイ存在になったのだ。
好きな事を好きといえばからかい、弄ばれる、そんな世界に嫌気が差していた。しかしそれでも私はこの世ではない世界に…その力に憧れた。
私も魔法を使いたい!色んな人を癒して、色んな人を助けるの!
そんな純粋無垢な思い出日々のいじめに耐え生きていた。
そんな私に夢を見せるのに十分な物に私は出会った。科学だ。
科学は人々の生活を潤してきた、発展し、豊かになることと科学水準が上がることはほぼ同義、それは歴史が示してきた紛れもない事実で、いつか、私も魔法を現実のものにできると考えることに十分な根拠であった。きっと昔の人も今の科学を見れば魔術や魔法、それに類するものだと間違えるだろう。
そして私は科学者になった。
科学者になった私は研究に没頭した。人々がプライベートと呼ぶであろう時間すら消費し、全ての時間を研究に注ぎ込んだ。そんな時にふと私に連絡が入る
「物部様の携帯でお間違い無いでしょうか?」
電話の向こうから声がする。聞いたこともない声だ。だが既に研究にて結果を出していた私に、知らない人から連絡が来るなどよくある事であった、そのため私はその連絡に深く考えず。いつもの私の研究についてのことだろうと踏ん切りをつけて対応した
「はい、そうです。ご要件はなんですか?瞬間移動の理論について何か質問でしょうか?それとも他の研究についてですか?」
「えっと、すみません。そういったことではなくてですね、お伝えしたいことが」
伝える?何を?知らない人間が、私に対して、質問ではなく伝える?いったい何を?
そんなふうに自問自答を繰り返した末に、電話口からの音が耳の鼓膜を強く揺らした。
「え?」
「物部様のご両親が事故にあい、現在危篤状態です。真山国立総合病院に搬送されました。おそらく今夜が峠になるかと。」
「はい…直ぐに向かいます。」
頭が真っ白になった、あれ?どうして?
そんなことを考えても無駄だとは分かっていたが、それでも問いを口に出す。たとえ多くの論文を出し、多くのことを解き明かしてきた科学者の私でも決して解くことのできない問いを口から垂れ流していた。
混乱した頭を落ち着かせた私は急ぎ足で電話にて伝えられた病院へと向かった。
「父と母は!?」
「えっと?」
「あっ.…すみません物部です、父と母がここに運び込まれたと聞いたのですが…」
「あぁ、はい。物部様ですね…」
少し濁った返事に私の胸は焦り出す。ドクンドクンと胸が強く脈うち、知るべきではないと精神がブレーキをかける。それでも…
そんな心配をよそに父と母は当たり前のように目を覚ましていた。
「お父さん!お母さん!」
「三咲か、ごめんね、心配をかけたね」
「大丈夫よ?今こうやってお話出来てるんだから。」
「よ、よかったぁぁぁぁぁ」
安堵した私はボロりボロりと擬音がつくほどの大粒の涙を瞳から流していた。
「三咲ちゃん、最近はどう?元気?」
「え?うん、元気だよ」
こんな状況だと言うのに急に近況を聞いてくる母に疑問を持ちながら、私は今できる最大限の笑顔でそう、答えた。
「そう、良かった。お父さんってばあなたが連絡を入れないからってすごく心配してたのよ?」
「いやだなぁ、言わないでくれよ母さん。でも、顔も出してくれないし、連絡もないからずっと心配していたんだよ?」
「そっがぁ…ごめんねぇ…グスッ、これからは、こまめにっ…連絡するから。」
「そうしてちょうだい、隆二にもしっかりね?」
「ゔん」
「ちゃんと生きるのよ?研究に没頭してご飯食べ忘れるとかやめてよね?」
「ゔん、わがっでるよぉ。」
嫌な予感がしていた、なぜ母はこんなことを言うのだろう、最後に言い残したことが無いようにしてるような、変な感じだ。
「ちょっとお父さん眠くなってきちゃった。先に寝てもいいかい?」
「えぇ、私も直ぐに寝るわ」
「わかった、おやすみ」
「お父さん?…おやすみなさい」
「あぁ、三咲。おやすみ」
「お父さん疲れてたみたい、長いこと運転してたしね。私もそろそろ寝るわ。隆二も来ると思うから。あとはよろしくね?」
「わかった、おやすみ、お母さん」
私の嫌な予感は的中した。
隆二が到着し、私たちはしばらく2人で話していた、退院したらどっかみんなで食事に行こうなど、これからの事を話していた。
それは、朝日が地平線より顔を出し。空がグラデーション作り、誰もが綺麗だと感想を持つであろうタイミングで、電子音が病室内に響いた…
2人は亡くなった。私の研究には治療術、所謂回復魔法があった。蘇生魔法があった。これを現実の物にできていたら?私は自分を責め立てた。
弟の隆二から告げられた言葉に、私は深く絶望し、命を断とうとした。
両親が死んだのは、私のせい、
それは、両親があの事故現場にいたのは、連絡をしない私の様子を見るためだったそうだ。研究をもっとしていればと後悔していた私を私がさらに責め立てる。するべきだったのは研究ではなく、連絡だと、連絡していれば、顔を出していれば、両親が今回の事故に巻き込まれることはなかったのだ。
それでも私は死ななかった。母の「ちゃんと生きるのよ?」という言葉が私が死ぬのを防いでいた。
そして、生きる気力の失った私は…吾輩は研究にしがみつき、依存した。
「姉さんは、結局そうなんだね…」
弟の声が聞こえる、だが、もう既に吾輩の心には届かない。
「この実験が…世界を豊かにしますように」
魔法の実現するための理論を解き明かした吾輩は、最後に突き当たった大きな問題を解決するため実験をした、それは命懸け…いや、命を捨てる実験だった。
「さぁ、私の人生のフィナーレと行こう。最後の実験だ」
その言葉が終焉の科学者と呼ばれた私の、最後に他の者に聞かれた言葉だった。
「きっと私は次も次も回帰する」
どうでしょう?主人公の過去話って話数が経ってからやる物語が多いと思うのですが。物部三咲という人物の人となりを知ってもらってその上で物語を読んで欲しいと思いここにいれました。
誤字脱字。アドバイス等あれば気軽に連絡ください。