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God Bless You !! 2nd Season  作者: 灰色狼
第三章 ドロウの王
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7:理性と感情の狭間で


 僕の中のわだかまりが解けて、まず、現状の確認を行う。


「司教は不在なのですね?ストームポートに行くことになるからそこで、とおっしゃっていましたが、私の所には来ておられません。

 差し支えなければ状況を教えてほしいのですが」


 僕の問いにデニスが答える。


「猊下は一度こちらに来られてから、初期の差配をなさった後にストームポートに向かわれた。そこで本国からの召還の連絡があり、急遽戻られた。

 余談だが、私が司教の代理を務めている」


 ここにいる3人の部隊長の中で、最も経歴が長いのはデニスだろうと思う。

 代理に指名されるのは適任だろう。

 3人の関係性も変わっているようには見えないし、うまくやっているんだと思う。


「そうですか。本国に戻られているのですね」


 僕が言うと、ソウザが口を開いた。


「何か緊急の場合はアレンを頼れ、というのが司教の指示だった。だから早速連絡させてもらったわけだよ」


「異教徒を頼るというのは問題じゃないんですか?」


 その異教徒の僕が突っ込んでみる。


「まあ、内部の問題なら確かにそうだが、我々が知る限り、一番あてにできるのがアレンってことだよ。

 司教猊下(ボス)友人(ダチ)だしね。細かいことは気にしなくていい」


 エウリが軽く口にした。

 いや、そんな軽いノリでいいの?秩序を重視する人たちが?

 もちろん、これは口には出さない。


「事情は分かりました。では、我々が呼ばれた理由を伺っても?」


 僕の問いに、再びデニスが答える。


「先ほど二人のドロウがいただろう?一人はヴィッシアベンカ族、もう一人はクァルテレンダ族で、ともにドュルーワルカ族の庇護を求めてきている。

 彼らが自力でやっていけるのは、我々も承知しているので、一時的ならばここでの保護も可能だ。

 だが、長期的に考えると彼らの希望通りドュルーワルカ族の庇護下にある方がいいと思う」


 僕はコマリをちらっと見る。彼女は意図を理解してくれた。


「ヴィッシアベンカ族は先ほどの戦いで敵対した部族の一つです。ガルスガ族長の名前は覚えておられると思います。

 クァルテレンダ族は密林のかなり南方に暮らす部族です。ですので私は名前くらいしか知りません」


 ああ、ラッシャキンと一騎打ちをした人か。激昂してスコーロウを切ってしまうくらいだから、蠍神からの離反は可能性として考えられる。

 だが、クァルテレンダ族は詳しくわからない。ローズが何か聞き出してくれるだろう。

 ドュルーワルカが単純に引き受けると言えばよい話でもない。色々と調整が必要だし、複雑だ。


「どれくらいの数かわかりますか?」


「ヴィッシアベンカが600人ほど、クァルテレンダが400人強と聞いている」


 最大で1000人を超える。現在の居留区の広さから収容に問題はないが、ここで結論を出せる話ではない。


「ありがとうございます。前向きに検討したいとは思いますが、ここで結論は出せません。

 かと言って、放置もできないと思いますので、彼らの状況に応じてこの近辺で仮保護をお願いする事になると思います」


 聖炎の聖戦士(パラディン)たちはうなずいた。


「で、エウリに聞いた南方の調査、というのは?」


「今の話に繋がるのだが、密林地帯の南方、さらにその先の山岳地帯で、何か異変が起こっているらしい。山岳地帯に暮らしている巨人族(ジャイアント)が、ジャングルまで活動域を広げているそうだ。そのためにクァルテレンダ族は生活圏を確保できずに、ここに来たらしい」


「山岳地帯の巨人族ですか」


「いかんせん南大陸は広くて、調査もままならん。今でこそドロウの協力で密林地帯は忘却の王(オブリビオ)の呪の影響を受けないが、その密林ですら全容を掴んではいないからな」


 エウリが僕にそう告げる。彼の意図は伝わったが僕は確認のため問い直す。


「南方の山岳地帯で何かが起こっており、密林地帯にも影響が出始めている。

 領主は当てにできず、セーブポイントの再建中で聖炎も部隊を出せない。なので、僕たちに依頼したい。という事ですね?」


「ああ。言い難い部分も含めてその通りだ。追加すれば最優先事項ではない」


 デニスがそう答えた。

 自分たちの身一つで移動できる僕たちが適任なのも事実だと思う。


「まあ、現状で考えうる最大戦力がお前たちなのは事実だからな。他には頼めんよ」


 エウリが付け加える。

 ギヴェオン司教がいない状況では、僕たちがレイアを失っているとしても、最大戦力なのだ。

 接近戦、短期決戦では目の前の3人を筆頭に複数の聖戦士(パラディン)を抱える聖炎(ホーリーフレイム)が最強だろう。

 しかし、状況が変わればそうではなくなる。彼らには決定的な弱点もあるからだ。

 コマリも今やかなりの魔法を使えるし、Gさんはかつての大魔法使いの力を取り戻しつつある。

 ローズやザックも目の前の3人とでも互角以上に戦えるだろうし、僕も多くの奇跡を使うことが許される。

 多くの状況に対応できるという意味では、僕たちのパーティはこの大陸での最大戦力であることは事実に思えた。

 いままで、そういう認識が無かったのだ。

 ハーバーマスターの言葉が再び僕に問いかける。

 力を持つということは、同時に大きな影響力を持つということだ。

 それを自覚しなければならない。望もうが望むまいが、周囲は自然とそう見る。

 それが何を意味するのか……僕は少し怖くもあった。


 大方の事情はつかめたので、話がドロウの生活についてに変わっていた。

 3人の聖戦士たちは、今後しばらくドロウと関わることが決まったようなものなので、素朴な疑問をコマリにぶつけているようだ。

 コマリの裁判がすごく昔のことのように思えるが、実際には1年くらいしか経っていない。

 その時にこの光景が誰に想像できただろう。

 僕は確信した。これまでしてきたことは間違っていない。


 そんなことを思っていたら、天幕の外から大きな声が聞こえてきた。


「緊急事態につき、失礼します。砦南方にドロウと思われる集団を確認。こちらに接近してきている模様です」


 天幕の中が一瞬にして緊張感に包まれる。


「わかった、すぐに行く」


 そう言ってデニスが席を立ち一礼してから天幕を出ていく。


「僕たちも行きましょう。申し訳ないですがローズにも来てもらってください」


 このタイミングでドロウの集団。おそらくは庇護を求める二つの部族だと思われる。

 だが、その他の可能性も否定できないし、そうであれば後手に回る訳にはいかない。

 デニスに続いて僕たちも天幕を出た。

 南ゲートに向かって走る。

 周囲では建設作業中であった一般信者たちが北側に集められていて、一部は武装の準備をしている。

 この手際と統率力は流石だと思った。

 ゲートに到着して、僕はゲート脇の物見台に上がった。

 距離にして1キロはない位置に、確かに人の集団が見える。

 エルフの視力をもってしても、この距離では詳細はわからない。

 コマリにも物見台に上がってもらい、何かわかることを教えてもらおうと思ったときに、


「アレン」


 と背後から声を掛けられた。ローズが駆け付けて勝手に物見台に上がってきたようだった。


「ローズ、あれがヴィッシアベンカとクァルテレンダなのか、確認できる?」


「部族旗は掲げていませんので、現時点ではなんとも……」


 僕は少しだけ考えた。

 そしてローズと共に物見台を降りて、デニスに確認する。


「現時点では敵に戦う意思があるのかは判断できません。

 こちらに認識されているという自覚はあるでしょうし、現時点で戦闘向きの陣形ではないので戦意はないとは思いますが、これ以上接近されるのは、状況としてマズい。

 交渉のために聖炎の全権代理を名乗る許可が欲しい。もちろん、何も決めないし、君たちに不利になるようなことはしない。お願い!」


 デニスは少し考え込む。そりゃ考えもするだろう。形だけでも全権代理を名乗る許可を出すのは、極めて重い決断だ。

 少しの間を置いてデニスが答えた。


「分かった。許可しよう。くれぐれも慎重に頼む」


「ありがとう、デニス。ローズ、一つ頼まれてほしい」


「なんでしょうか?」


「強硬偵察と使者を頼みたい。とりあえず彼らの前進を停止させて、少数の使者を派遣するように伝えてもらいたいんだ。

 ドュルーワルカ名誉族長と聖炎の全権代理を名乗ってもらって構わない」


「かしこまりました」


 ローズはそう答えコマリに話しかける。


「コマリ様、馬を一頭お貸し願えませんでしょうか」


「ローズ、ごめんなさい。今日は乗用馬を呼ぶ呪文は用意しておりません」


 その会話を聞いたソウザが、すぐに後方に叫んだ。


「馬を一頭引いてこい!急げ!」


「ご配慮感謝いたします」


 ローズがソウザに首を垂れる。


「なに、気にすんな。あんたも俺たちの戦友なんだから」


 すぐに聖炎のバーディング、馬の身に付ける鎧、を装備した軍用馬が用意された。


「くれぐれも気をつけて。透明化した……」


「心得てますよ、アレン。族長のようにはなりたくありませんからね」


 そう言ってローズは馬に飛び乗る。


「開門!」


 ソウザが声を上げ、それに従い木製のゲートが開かれる。


「はっ!」


 ローズが手綱を打ち、馬が駆けだす。

 僕はその後ろ姿を見送りながら、デニスに話しかけた。


「防衛戦になったら、その段階で負けです。ですので……」


「分かっている。非戦闘員は北門から脱出させる手はずだ。我々も魔獣の類の襲撃は想定しているが、戦争は想定していない」


 その言葉を聞いた後、ザックに話しかける。


「ザック。万一の時は、言いにくいことだけど、万一の時は時間稼ぎを頼みたい」


「私に死ねと?」


 ザックが冷静に答える。


「……その通りだ」


 僕は言葉に詰まりながら答えた。そう、その通りだ。僕はザックに犠牲になれと言っている。

 合理的な判断なのは間違いない。それはわかっている。だけど人に死ねと簡単に言えるわけがない。

 それを僕は今、口にしたんだ。


師匠(マスター)アレン。あなたは間違っています。

 私は死にません。生きるために戦うのです。今、こう答えることが出来るのはあなたのお陰です」


「ザック、ありがとう。コマリ、コマリは撤収する人たちと……」


「嫌です!」


 コマリが僕の言葉を遮った。

 そこには初めて見るコマリの怒りの表情があった。


「アレン様を残して私は撤退はしません。私にも誇りがあります。こればかりはアレン様のご命令であろうと従えません」


 強い決意の言葉。僕はその気迫に押された。


「ご命令通り、自害はしません。ですが、命ある限りあなたの側に仕えます。二度と置いて行かないでください」


 僕はその言葉に何も言い返せなかった。


「という訳で、お前がコマリ殿と一緒に撤退組をサポートしてくれ」


 脇で話を聞いていたデニスが言った。


「デニス?」


「お前たちを呼んだのは俺たちで、ここでお前らを死なせたとなったら、それこそギヴェオン猊下に合わせる顔がない。

 我々はここを守るために、いや、ここから逃げる人たちを守るために戦う。

 だが、お前はここで死んではならない。立場を考えろ。わかったな?」


 僕はすぐには答えられなかった。

 僕の立場、そんなものどうだっていい。それが僕の本音だ。

 でも、せめてコマリは生かしたい。僕が素直に撤退組に入ると言えば、それは叶う。

 だけど、そのために多くの犠牲を強いることになる。

 自分のわがままの為に、人を犠牲にして許されるはずはない。


「気持ちはわかるさ。それがどれ程辛いかもな。

 だがな、お前は生きろ。もし俺たちの死がお前の重荷になるとしても生きろ。そして生き残った者の務めを果たせ。

 俺たちだって犬死にするとは思ってないし、簡単に死ぬつもりもないさ」


 デニスは笑っていった。

 パラディンって生き物は、こういうセリフをなぜ笑って言えるのだろう。

 その姿が、レイアと重なる。


「分かりました。ご指示に従います。私とコマリで撤退組の殿(しんがり)を務めましょう」


「悪いな、損な役回りをさせて」


 デニスはそう言って僕の肩をポンと叩いた。


「なに、戦になると決まったわけじゃない。少し様子を見よう」


 そう言って再び物見台に上がる。

 北門前で撤収の準備を指示していたエウリシュアが戻ってきた。


「撤収組の準備はもう少しで終わる。こっちの状況は?」


 僕はその問いかけに応えることが出来なかった。

 近くにいたパラディンが状況をエウリに伝えている。


 今は状況を見つめるしかない。

 こんなに空気が重く感じられたのは初めてだった。


 僕は、馬が駆けた後の地平に舞う土ぼこりを、ただ見つめていた。




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