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God Bless You !! 2nd Season  作者: 灰色狼
第三章 ドロウの王
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69:救出


 燃えるように赤い空を右手に眺めながら、僕たちはセーブポイントを飛び立った。

 風渡り(ウインドウォーク)の奇跡はもう残っていない。だが、片道飛べれば十分だ。帰りは瞬間移動で戻る予定だ。

 聖炎(ホーリーフレイム)の3人の聖戦士(パラディン)たち。デニス、ソウザ、マッカラン。

 二人のドロウの族長。ラッシャキンとガルスガ。

 そして僕たち。コマリとヴェルとGさん。

 総勢9名の攻撃隊は『蠍』の本拠地に向けて飛行を続けている。

 先頭を進むのはGさん。それを皆が追いかける形で最後尾が僕だ。

 座標を理解しているのはGさんだけで、僕たちはその指示に従って飛ぶしかない。

 最後尾から途中で誰かがはぐれないように監視するのが僕の役目だ。

 Gさんと僕は心言結合(テレパシックボンド)で繋がっているので、常時会話が可能だから後続に何かあった場合に指示を出せる。


 途中で一度地上に降り、正確な座標を確認してから、再び飛行中だ。

 空を高速で移動する。確かに便利なのだが、それ相応に苦労することもある。

 単調な景色で、自分の位置を正確に把握することは難しい。陽が沈み、方向の感覚が失われると、それはより困難になる。


 陽が完全に姿を消し、西の空も濃紺に染まり始める。

 視界が急速に悪くなり、夜目が利く僕でも前を飛ぶ仲間たちが見えにくくなる。

 完全に夜の帳に包まれて、いよいよ速度を落とすべきと思ったときに、東の空からゆっくりと月が顔を出し始めた。

 それは僅かな月明かりだったが、僕の視力を維持するのには十分だった。

 だが先頭を進むGさんは人間で、僕より視力は劣る。

 もともと目標物の少ないジャングルの上空で、これだけ暗いと地形や目標物を視認できないはずだ。


――Gさん、飛行時間的にもうすぐだと思います。降下しましょう。少し手前から地上を進んだほうが安全です――


――そうじゃの。速度を落として降下する――


 Gさんの応答直後、前を飛ぶ仲間たちが一斉に速度を落とし、高度を下げ始めた。

 視界の中に、皆の姿が収まっている。

 ただ一人目視できないのがGさんだが、仲間の挙動はその先にGさんがいる事を物語っていた。


 僕たちはそのままジャングルへと降り立つ。

 Gさんが降下した後、僕はその上空を一周して周囲に問題がないかをチェックしてから、ヴェルにハンドサインを出した。


―君―

―探索―


 ヴェルが―了解―とハンドサインを返して地上に降り立ち、実体化を始める。

 周囲の捜索を行ってから、彼女は全員にハンドサインを出した。


―周囲―

―敵―

―0―


 待機していた僕たちも地上に降り立ち、実体化した。

 すぐにGさんがポケットから取り出した小さな羅針盤のような道具で、現在位置を確認する。

 それは一回り小さいが、僕たちが預かっていた『お守り』によく似ていた。

 僕の視線に気がついたGさんが説明してくれる。


「おぬしらに渡した『お守り』の試作版じゃ。機能を検証するために作った物じゃが、十分に役に立つ。

 送られてきた本拠地まで、およそ20km。少し手前過ぎたかもしれんな」


 ジャングルでの行軍速度を考えると8時間くらいはかかる。

 まだ風渡りの奇跡は有効なので、もう一度空に上がって進む方が間違いなく早い。

 考えているとヴェルが話しかけてきた。


「周囲にはスコーロウはいませんね。周囲にも痕跡は見当たらないので、警戒範囲の外側だと思います」


 その言葉を聞いて、僕は方針を決める。


「ここで少し休憩を取りましょう。

 この先はいつ休めるかわかりませんから。

 その後は、最大速度の約半分で、20分ほど風渡りで接近します。

 残り5㎞くらいの場所に降りれるのが最善じゃないかと思います。その辺りからは歩きに切り替えましょう」


 速度を落とすことで、急激な軌道変更にも対応しやすくなるのに加え、味方を見失うリスクを減らせる。

 少しでも月が昇れば味方を視認しやすくなるし、休憩の間に暗闇に目を慣らすこともできるだろう。

 各々が水分や食物を取って、休息を取る。

 ほとんど誰も喋らない。

 周りに敵はいないと確認しているとはいえ、ここはもう敵地だ。

 空気は張りつめている。


「さて、そろそろ移動を始めましょうか。ここからは先頭を僕が務めます。Gさんは最後尾をよろしく。

 進む方角だけちゃんと教えてください」


 僕は最初に体を気体化して、上空に上がる。

 月の位置と進行方向を確認してから、Gさんに―準備完了―のハンドサインを送った。

 皆が一斉に気体化して、上空に上がってくる。それを見ながら定めた方角に向かって、移動を開始した。


 僕はからくりのタイマーを確認すると、ちゃんと動いていた。

 上空に上がる前に動作させていた。

 風渡りの奇跡は装備品ごと気体に変化して操作するのは不可能だが、動いていたものはそのままちゃんと動くようだ。

 タイマーを見た時に、ふとエリーのことを思い出した。

 これを使うのは、彼女の治療をしたとき以来だった。随分昔のことのように感じられる。仕事さえ終われば、また彼女にも会えるだろう。

 僕は定めた方向に真っすぐ飛行を続けた。


 6回目のタイマー確認で、飛行時間を確認し、―降下―のハンドサインを出す。

 ゆっくりと移動速度を落とすと後続の仲間との距離が詰まり、ヴェルが僕を追い越して降下していく。

 自然と緊張感が高まる中、先ほどと同じ手順で安全を確保したうえで、全員が地上に降りた。


 周囲には敵の気配はない。

 ただ巡回した形跡はあるとヴェルが伝えてくれた。

 奴らが警戒しているのは間違いなさそうだ。

 Gさんが再度現在位置を確認して、大きく頷く。


「目的地まで3㎞。最善の位置に降りられたようじゃな」


 ヴェルを先頭に僕たちは歩き始める。

 慎重ではあるが、少し早めの進行速度を維持した。

 僕たちを待ち構えているのは織り込み済み。

 先手を取られないことだけ考えての、行軍速度だ。

 

 この辺りはセーブポイント周辺よりも、背の高い木が多く、月明かりは地上まで届きにくい。

 それでも木々の合間を抜けた白い月の光が、幾条かは射し込んでいて、エルフやドロウの視界を確保するには十分だった。

 そろそろ目的地付近のはず。

 先頭を歩くヴェルが、―警戒―のハンドサインを出した。

 続けてハンドサインを出す。


―前方―

(オブジェクト)

―見た―


 前方に何かがあると言っている。

 僕はハンドサインで返す。


―警戒―

―前進―


 ヴェルは頷いた。

 僕たちはヴェルから少し離れて彼女の後を追う。

 慎重に進む。

 再びヴェルのハンドサイン。


―味方―

―2―

―前、右、左―

―敵―

―多数―


 僕は頷いてから、Gさんと目を合わせる。

 Gさんが頷いた。


「今!」


 僕が叫ぶとGさんを中心に全員が前方へと全力で走る。

 Gさんが呪文の詠唱を始めてると同時に、コマリとGさんの周囲を3人のパラディンが囲んで盾を構え、ラッシャキンとガルスガが武器を両手に構える。

 そこにヴェルが接近したのと同時にGさんの呪文が放たれた。


魔力遮断の領域アンチマジックフィールド!」


 それに合わせるように僕も奇跡を行使する。


「神の言葉を聞け!贖罪の時と知り、神の威光にひれ伏せ!」


 聖なる言葉(ホーリーワード)が放たれると目に見えぬ白い衝撃が周囲に広がり、接近してきていた8体のスコーロウが一斉にその場に姿を現し、硬直した。

 さらに、木の上から男が一人落ちてきた。こいつはまだ動けるようだ。


「ドロウレイス!」


 僕が叫ぶと、ラッシャキンが飛び出した。

 いや、作戦では魔力遮断の領域内で戦うはずでしょ?


「ラッシャキン!」


 僕の叫びが、ジャングルにこだまする。


「この程度でドロウレイスだと?笑わせる」


 ラッシャキンの声が聞こえた時には、その男の胸元をドロウロングナイフが貫いていた。

 魔力遮断の領域を出た直後、彼は急加速し、僕にはその動きが追えなかった。

 ガルスガとパラディン達は周囲で硬直したスコーロウを片付けていく。

 ヴェルは周囲の警戒を続けていた。

 ラッシャキンはロングナイフを抜くと、崩れ落ちる男の胸元に今一度刃を突き立てる。

 ラッシャキンのロングナイフには、手のひらサイズの蠍が貫かれていた。


「これが蠍の子って奴か。言いたいことはあるだろうが、それは無しにしてくれ。最善の判断だ」


 間違いなく、こいつはドロウレイスだ。

 ラッシャキンは最短最速での攻撃に出て、一撃で仕留めて見せたのだ。

 聖なる言葉の影響でドロウレイスが普通に動けないことを見取って、特殊能力を使われる前に倒せると判断したようだ。そしてその判断は正しい。

 いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 僕はGさん達の場所まで駆け寄り、そこに倒れている二人のドロウを確認した。

 意識はない……だが呼吸はしている。彼らは生きていた。

 目立つ外傷もない。

 僕は毒の探知(ディテクトポイズン)の奇跡で、毒が使われていると判断し、二人に毒の中和ニュートラライズポイズンの奇跡を施す。

 それから(ワンド)を用いて治療を施した。


「アレン、スコーロウが来ます。急いで」


 ヴェルから警告が発せられる。

 だが、意識を失ったままの二人を放置して進むわけにはいかない。

 ガルスガが荷物の中から小瓶を取り出して、二人のドロウの口元に液体を注ぐ。


「ゴホッゴホッ」


 二人は次々に咳き込んで意識を取り戻した。

 3人のパラディンと、ラッシャキンが武器を手に前に立つ。敵が近いようだ。

 僕は二人の容態を聞き取る。

 二人とも自力で動けるし、どこにも問題のないことを確認できたので、出入り口があると思われる場所を聞き、ここから離れるように伝えた。

 彼らはその言葉に難色を示した。僕やガルスガが戦うのに、自分達だけ逃げるわけにはいかないと主張したのだ。

 気持ちはわかるが、命令だときつく言って撤退させる。

 彼らは確かに優秀だが、相手が悪い。言葉は悪いが足手まといになる。

 これは口には出さないが、最善の選択だ。


 僕とガルスガは彼らを見送り、戦闘状態になっているデニスたちと合流する。

 散発的に襲ってくることもあり、撃退は難しくない。

 その大半が先頭を進むヴェルと、ラッシャキンによって切り伏せられていく。

 指揮された動きではなさそうだ。周囲の警備がばらばらに襲ってきているだけだろう。

 組織的な防衛という感じではない。おそらくこの先で防衛線を引いて待ち構えていると考えるべきだ。

 戦いながら前進を続けると、監視の二人に教えられた付近に到達した。

 Gさんが辺りを少し見渡してから、呪文の詠唱を始める。


魔法解呪(ディスペルマジック)


 Gさんの魔法が、そこに存在した幻影の風景を消し去った。

 そこには小さな岩山と、縦横3mほどの自然洞窟にも見える『穴』が姿を現した。


「思ったより小さいな」


 ソウザが率直な感想を口にすると、デニスがそれに答えた。


「スコーロウのサイズを考えると、二人並べば壁になるな。通用口といったところか」


 他の出入り口があるのかもしれないが、ここから出兵するスコーロウを目撃している。

 主要な出入り口なのは間違いないだろう。

 中から沁み出すような悪意を感じながら、僕たちはその穴へ踏み入った。



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