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God Bless You !! 2nd Season  作者: 灰色狼
第三章 ドロウの王
68/136

66:備え


「無事に戻ってこれたね」


 僕はそう言って安堵の息を一つ吐く。


 予定通り日付が変わった後に雷の砦に到着した。

 僕たちが来ることはスロンドヴァニールから知らされていて、彼らは到着を待っていてくれた。

 遅い時間に申し訳ないと思う。

 予定通り雷の王に『演習』を依頼すると、彼らは快く受けてくれた。

 一つ驚いたのは彼らの玉座のある塔に、スロンドヴァニールが常に座っていたことだ。

 聞くとそこに座っているスロンドヴァニールは分身のようなもので、本人は地下で眠りについているそうだ。

 実際そこで彼と話をしたが、そこにいるのは紛れもなくスロンドヴァニールだったが、実際の彼ではないという。

 彼は幻影のようなものだと言ってはいたが、実際に触れることもできた。

 彼と話をして、少し苦情というか、お小言のようなことを言われたが、僕にとって不快なものではなかった。

 その場で教わったことは、間違いなく今後役に立つ。

 その後彼らに別れを告げて、帰還の詞(ワードオブリコール)の奇跡を使ってセーブポイントに戻ってきた。

 中庭にGさんの作った中和装置を設置させてもらったのだ。

 この奇跡を使うのは初めてだったので、戻れるか心配だったが、これは神様に失礼だったと反省している。

 コマリも同行しているので、今後はここから直接雷の砦に瞬間移動(テレポート)も可能だ。


 周囲はまだ寝静まっている時間だが、聖域の脇には2人の王妃付侍女が僕たちの帰還を待っていた。

 「帰還をお知らせしてきます」と言うので、何か問題があったのでなければ、皆が起きてからでいいよと告げる。

 僕たちは焚き火の脇に移動し、用意されていた軽食を手に取った。


「さすがに疲れたよ。本当に長い一日だったからね」


 僕がそう言うとヴェルが応える。


「アレンは朝からかなり走りましたからね。これを機に少し鍛えてみては?」


 ヴェルの言葉にコマリが笑いながら付け加える。


「でも、あんまり筋肉がつき過ぎると、アレン様のイメージが変わってしまいそうですね」


「うん、自分でもマッチョな姿は想像できないよ。そんなに筋肉はつかないんじゃないかなぁ」


「想像できないと言えばコマリ様の脅しに対する『脅し返し』はなかなか強烈でしたね」


 ヴェルがコマリに笑いながら言うと、


「脅し返すつもりなんてありませんでしたよ。あれは私の正直な気持ちですから」


 コマリも満面の笑みで答えた。

 そう言えばGさんからは何の連絡もなかったが、無事に戻ってきているのだろうか?

 そう思い侍女の一人に聞いてみると、すでに休んでいるとのことだった。

 落ち着いて食事を取ると、自然と疲れが顔をのぞかせる。


「朝までは十分に時間がある。僕たちも休ませてもらおう」


 そう言って片づけを侍女たちに頼むと、僕たちは天幕へと戻った。

 幸いにして、敵の奇襲などはなかった。

 僕は賭け一つ勝った。そんなことを思いながら瞑想に入った。




 瞑想から覚めたのは日が昇った後の時間だった。

 僕の日常からすれば、かなり遅い。

 だが人間社会からすれば、常識の範囲の時間だと思う。

 ほぼ同じタイミングでコマリとヴェルも瞑想から覚めたようだ。

 同じ天幕で寝泊まりしているGさんはまだお休み中。

 早くに休んでいるはずだから、目を覚ましてもいいだろうとは思ったが、魔法の準備に差し障るといけないので、無理に起こすことはやめた。

 僕は日光を浴びながら、朝の祈りを済ませた。


 立ち上がり振り返ると、デニスとガルスガが立って僕の祈りが終わるのを待っていた。


「順調のようだな」


 デニスが声を掛けてきたので僕は「もちろん」と答える。

 それを聞いたデニスは笑顔で続けた。


「朝食を摂りながら、進捗状況の報告と、寄せられている情報の整理をしたいんだ。付き合ってくれるか?」


「いいですね。朝の時間は当面の間、定例にしましょうか」


「そうだな、その方がいいだろう」


 そう言ってから司令部のテントにデニスが向かっていく。

 ガルスガが一礼し、僕の近くに来ていった。


「追跡中のスコーロウの動きを地図に入れてあります。

 あと、ドミンツェバェは順調にこちらに向かっている模様です。順当にいけば6日ほどで到達するでしょう。

 それともう一つ。

 アナトランダが集落を発ちました。昨夜遅くに、集落全体が、家畜などを連れてこちらに向かったそうです」


「朗報じゃないか。彼らも決心してくれたんだね」


「ですが、警戒は必要かと。クェルシャッシャにしてはいささか思い切りのよい行動にも見えます。

 裏がないとは言い切れません」


 クァルテレンダの一件をガルスガは言っているのだろう。


「その可能性は否定できませんが、僕たちが彼らを信じないことには始まりません。

 最低限の警戒はしてもらいますが、受け入れの方向で準備しましょう」


「仰せの通りに」


 そう一礼し一歩下がった。

 デニスの会話を聞いていた訳だし、その場での情報共有でもいいと思うのだが、ガルスガは聖炎(ホーリーフレイム)聖戦士(パラディン)を信用している訳ではないのかもしれない。

 人間に対する警戒感だろうか?いや、ガルスガはギヴェオン司教と短いけど言葉を交わしている。

 単にまず最初に僕に報告というスタンスを保っているだけな気がしてきた。

 多分律儀なんだろうと思う。

 ガルスガと共にその場に控えていた二人の戦士に、


「連日大変だけど、今日もお願い」


 と声をかけてから、風渡り(ウインドウォーク)の奇跡を行使し、飛び去るのを見送る。

 僕はガルスガとともに司令部へ向かった。

 途中、天幕によってからGさんが起きて魔法の準備をしているのを確認してから、コマリに司令部で朝食を取りながら会議をすることを伝えて、8人分の食事と、準備が終わり次第Gさんにも司令部に来るように伝言を頼む。


 司令部に入ると、他のメンバーはそろっていた。

 Gさんが来るのを待つ方がいいかとも思ったが、あとで個別に説明しても大丈夫だろう。


「Gさんは後できますから、始めちゃいましょう」


 僕の一言で報告が始まる。

 地図上には昨日までに報告が上がっている、各氏族の集落の位置と、追跡中のスコーロウの動きが書き込まれている。

 スコーロウの位置と移動方向は、厳密なものではないが、それでも、それらの動きは同じ場所を目指して動いているように見える。

 ヴェルの言った場所の近辺だ。

 セヴスクムカウダから移動したスコーロウは、今日にも本拠地に到達する可能性がある。

 遅くとも3日以内には到達するだろう。

 報告が上がった時、奴らは本格的に動き始める。警戒のレベルを一段上げる必要があると考えた。

 さらに先ほどのアナトランダの移動の情報を一堂に告げる。


 続いてセーブポイント周囲の整備状況に関しての現状報告が続く。

 セーブポイントから離れた位置にある結晶の回収と、ここを取り囲むようにドロウの居留地を整備してもらっている。

 現状ではここから最も遠い位置にある結晶の回収は継続中で、ドロウの居住地の第一弾の整備は終わったということだった。

 僕は結晶の回収量を確認してから、大きいものの回収を優先することと、結晶の回収の人員を減らして、現状の居住地の外側に、第2段の居住地の整備を優先させるように指示を出す。

 これはあくまで仮の居住区画……居住区画に見える区画、というのが正しい。

 周囲から侵攻を受けた場合の足止めの為、いわば防御陣地として考えているからだ。

 本格的に居住区画を整備するのは、この戦いが終わった後に行う。

 このペースなら、『蠍』がドロウの軍を編成してここに到達するまでには、十分な防御陣地が作れそうだ。


 そこにGさんが司令部にやってきた。

 特に何も言わずそのまま椅子に座ると、地図の状況を見て頷く。

 一通りの報告が終わり、現状での情報共有が終わったので、僕はこの場にいる全員にお願いをすることにした。


「今日の午後にでも、皆さん時間を空けておいてください。

 ちょっとした訓練をしたいと思います。報告受けたりとか、指示が必要だったりするとは思いますが、必ず集まってください。

 訓練途中で中座するのは構いませんから」


 皆、何をするのだろうと訝しんでいる様子だったが、内容を伝えるのはその時になってからにする。

 Gさんにお願いした物資の確保状況を確認すると、頼んであったエルフの外套(エルブンクローク)は残念ながら手に入らなかったと言われた。

 まあ、あるに越したことはなかったが、無くても大きな問題ではない。と思っていたらGさんが言葉を続けた。


「手には入れられんかったが、借りてはきた。ロアンが持っておるのは知っておるからな。

 汚れるのが嫌でしまってあった死蔵品じゃから、これは有効活用じゃろう。

 ああ、ロアンからの伝言もセットじゃった。

 『お気に入りなんだから汚すな』じゃそうだ」


 そう言って荷袋の中から鮮やかな赤に染められた外套を取り出す。


「また、派手ですね……」


 僕の率直な感想にGさんが笑いながら言った。


「これはエルフの外套じゃから、普段の見た目は問題にはならんじゃろ?」


 エルフの外套は、完全に身に付けると、着用者の姿を消すという魔法の効果を持っている。

 万能ではないが有用なアイテムだ。

 確かに消えてしまえば、どんなに派手でも関係はないが、消えていない状態では目立つと思う。

 そういう意味では多分問題なのではないだろうか。


「ありがたく使わせてもらいましょう。あとでロアンにお礼しないとですね」


 僕がそう言ったところに、コマリたちが食事を運んできた。

 何かのシロップの匂いだろうか、少し甘い匂いが立ち込める。


「お待たせしました。沢山召し上がってくださいね」


 コマリの言葉を境に朝の会議は終了し、和やかな食事の時間となった。




 午後になってから、再度集まって、訓練を行う。

 まずチームを分ける。

 僕とガルスガ、コマリとデニスとマッカラン、Gさんとソウザとバドリデラ。


「このチームで、ドロウレイスと戦うことになります。

 一対一ではこちらに分がありません。そこで、チームでドロウレイスに当たります」


「向こうが一人ひとり来るとは限らないだろ?」


 ソウザが突っ込んでくる。


「その場合はこちらも集まりますが、その場合でもこの組み合わせを基本とします。

 基本戦術は呪文使い(スペルキャスター)を中心に他の者がカウンター主体で迎撃する形になります。

 ただし、魔法や奇跡による援護はありません。

 呪文使いが各チームにいるのは、ドロウレイスの特殊能力を封じるためです」


 僕が説明すると、Gさんが付け加える。


「術者は魔力遮断の空間アンチマジックフィールドを使用するためだけにいる。

 こちらも魔法は一切使えぬし、魔法の道具や薬も効果を表さん。ドロウレイスと言えど特殊能力は使えぬ。

 その範囲なら文字通り、腕の立つドロウの戦士としてしか戦えぬから、条件的には平等と言える。であれば数的に有利な方が勝つ」


「なるほど。つまり、術者を守り切ることは絶対条件。そのうえでドロウレイスを撃退しろ、ってわけか」


 マッカランが頷きながら言った。


「そういうことです。実際に距離感を体で覚えていただく必要がありますし、当然味方との連携が重要になります。

 向こうが連携して攻撃をするようであれば、3チームが固まって、敵の攻撃の厚い所にこちらも戦力を集める形になります。

 ここは、状況に応じて臨機応変に対応するしかありませんが、皆さんなら大丈夫でしょう」


「ヴェルヴェン様がおられないようですが?」


 ガルスガが僕にそう言うので、そこも説明する。


「今日は仮想ドロウレイス役をやってもらいます。

 実際の戦闘の際には、切り札の役割を担ってもらう予定です。

 うまくいけば、という条件付きですが」


 特に質問もないようだったので、僕は訓練を始めることにした。


 直径3mと4.5m、6mの3重の円を地面に書き、6メーターの円のすぐ内側に、等間隔に矢盾を並べて設置する。


「内側の線が基本的な立ち位置だと思ってください。外側の線は目安として魔力遮断の境界線です。

 この付近まで出てしまうと、相手は特殊能力を使った状態で攻撃が可能です。ですので、真ん中の4.5mの線が事実上みなさんが動ける限界と理解してください」


 そう言ってから、僕は円の中心に立って、ガルスガを呼ぶ。


「僕たちから始めますよ。ヴェルも準備して」


 そう声をかけると先ほどの真っ赤な外套を身に付けたヴェルが現れた。


「そこに居られたのですか」


 ガルスガが驚きの声を上げる。

 視覚的に見えなくなっても、優れた戦士であれば、その存在を感じることが出来る。

 移動する音や、気配を読めるからだ。

 一方、ヴェルくらいの技量になると、それを悟られないように消すこともできる。

 ガルスガが相当な熟達者であることは僕も知っているので、彼に気がつかれなければ、ドロウレイス相手であっても期待できると思う。


 僕とガルスガは木剣を手にして構える。

 僕は借りた盾とシミターの長さに近いロングソード。ガルスガは短剣の二刀流スタイルだ。


 ヴェルと目が合い、僕が頷くとヴェルは消えた。

 あたりが静まり返る。

 ガルスガは目を閉じたようだ。

 見えない相手を見ようとせずに、音と気配に集中している。

 相手が見えないからと言って、目を閉じることなど普通はできない。

 ガルスガが素早く動き、僕の右後方に短剣を伸ばした。

 僕は全く気がつかなかったが、そこまでヴェルが接近していたのだ。

 間一髪でガルスガの短剣がヴェルの振るった短剣を弾く。


「円の中で透明化はできないから、少し卑怯じゃない?」


 僕が悔し紛れに言うと、ヴェルは矢盾の陰に素早く入ってから答えた。


「もちろん、状況は理解しています。円内に入ったら透明ではありませんよ」


 ヴェルの言葉に、僕は苦笑いする。

 僕の完全な死角から、ヴェルが高速で接近したのだ。


「このチームは2名です。他よりも不利なのでは?」


 ガルスガがヴェルの隠れている盾を見ながら、僕に話しかけた。

 僕は顔を引き締めて、答える。


「その通りです。ですが、こちらには秘密兵器がありますからね」


 ガルスガはそれに答えず、周囲の気配を探っている様だった。

 ヴェルは隠れた盾の裏にはもういない。そう考えるのが妥当だ。


 視界の端にヴェルが移動するのが見えた。

 まだ、さっきの矢盾の裏にいたのだ。

 そこからダガーが投げられる。

 僕から見て右方向に移動しながら2本目、3本目と次々と投げる。

 見えてさえいれば、僕でもなんとかなる。

 盾で弾きヴェルの動きに備えると、ガルスガがその動きを予測してさらに右に移動した瞬間に、最後に投げたダガーよりも左側から急接近してきた。 とっさにガルスガが身をひるがえすが、まさにその動きを狙っていたヴェルは、木剣でガルスガの脇を払った。

 僕を狙うと見せかけてからのフェイントによるガルスガ狙い。

 見事な動きだった。


「そこまで」


 僕はここで終了を宣言した。

 ガルスガは脇腹をさすりながら、短く「参りました」とヴェルに告げる。


「下手に先手を取ろうとしたのが敗因です。主を守ろうとするのは立派ですが、アレンをもう少し信用するべきでしたね」」


 ヴェルがそう言った。

 そうは言うけど……ガルスガの動きは、理に適っている。

 受けに回っているだけでは、勝つことはできない。ガルスガはヴェルの次の位置を予測して動いたのだ。

 それが一つ目のヴェルの思惑で、ガルスガはそれに対応して見せた。

 だが、それは同時にガルスガの心理を突いた攻撃だった。

 術者を守らねばならない、ガルスガは自分が攻撃対象であることを見抜けなかった。

 だから自らの防備が手薄になり、一本取られる形になったのだ。


「秘密兵器とやらはどうしたんですか?」


 ガルスガが悔しさを滲ませながら僕に尋ねた。


「あとで見せますよ。今の感じでしたら十分に効果的だし、次は一本取れますから」


 僕は笑ってそう答えた。


 コマリ組、Gさん組と順番に試してみるが、相手が一人ということもあり、防備は上手く機能するが、素早いヴェルの動きに攻撃の機会を見いだせないようだった。


「アレン、これはお前がさっき言ったほど簡単じゃないぞ?」


 汗を拭きながらデニスがぼやく。

 それはその通りだと思う。

 ただ確信できたこともいくつかあった。

 ヴェルの動きと戦闘能力は、少なくとも『災いの剣』を凌駕している。

 あの男が特殊能力をフル活用し、万全な状態のヴェルと戦った場合を想像すると、恐らく互角だ。

 奴の即座の短距離転移は確かに驚異的だが、ヴェルは奴よりも速度と、戦術眼に優れている。

 攻撃位置の予測やとっさの反応で致命傷は負わないだろう。一方で心理的な罠をしかけて、倒すことすら可能だと思う。

 他のドロウレイス相手でも、十分に戦えると思える。

 もう一つは、そのヴェルですら、たぶん僕とガルスガで捉えることができる。


 少しの休憩を挟んでから、ヴェルにもう一戦大丈夫かを尋ねて、了承を得た。

 僕はガルスガに耳打ちする。


「初撃で決めるからね。ガルスガは自分自身への攻撃に対応することと、ヴェルは絶対に隙ができるから、そのチャンスを逃さないで」


「しかしそれでは陛下が」


「僕は大丈夫。ネタを仕込むから、ヴェルの初撃どころか、彼女の攻撃は僕には届かないよ」


 そう言って円の中に入り、盾を構える。

 ガルスガも準備を整えた。


「アレン、剣は持たないのですか?あった方が攻撃をかわすのにも役立つと思いますが?」


「そうかもしれないけどさ、ヴェルを捕まえるには素手の方が都合がいいと思うんだ」


 ヴェルの指摘に、僕は冗談とも取れそうな言葉を返した。

 彼女はそれを挑発と受け止めたようだ。


「知りませんからね」


 そう言って笑う。その表情は獲物を狙う肉食獣のように見える。


「行きます」


 彼女はそう告げてから姿を消す。

 僕は慌てず、盾の裏に挟んでおいた一枚の鱗を右手で投げた。


 ヴェルは矢盾の外側を高速で移動しながら、こちらに対して踏み込んでくるタイミングを計っているようだった。

 何度か牽制をするようにダガーを投げてくる。

 僕はそれを盾で防ぎ、ガルスガは自分に放たれたダガーを冷静に弾き落として、ヴェルの動きを追っていた。

 来ると思っていたタイミングでダガーが放たれない。

 ヴェルは攻撃のリズムを変えた。

 そう感じて僕は小さく呟く。


「舞え」


 次の瞬間、後方からダガーが4本、ほぼ同時に放たれた。

 一本がガルスガに、3本が僕に向かって飛来する。

 盾による防御は間に合わない。

 だが、3本のダガーは僕に到達する前に、超高速で移動した銀色に輝く盾によって弾かれていた。

 ヴェルの攻撃はそれでは終わらない。

 ガルスガが自らに飛来したダガーを交わすのと同時にヴェルが僕の目の前に現れ、木剣を突き出す。

 しかし、その木剣が僕に届くことはなかった。

 ダガーを防いだその盾が、彼女の脇から激しく衝突し、弾き飛ばしたのだ。

 完全に不意を突かれたヴェルは、とっさに受け身を取り体勢を立て直そうとしたが、ガルスガがその首元に木剣を当てていた。


「今度は一本取れたようですね」


 ガルスガはそう言って剣を引くとヴェルはその場に立ち上がる。


「魔力遮断領域内で、魔法の盾はずるいでしょう?」


 ヴェルが抗議の声を上げた。僕のよく知っている負けず嫌いのお姉ちゃんの顔だった。


「これは例外ですよ。実際に魔力の遮断された空間内でも、同じように動きますから。

 気がつきませんでした?これはスロンドヴァニールから頂いた、彼の鱗です。

 昨日彼に会ったときに、使い方を教わったんですよ」


 そういうと、Gさんが頷きながら言った。


「なるほど。神格を持つ龍の鱗、さながら神の現身か。確かに魔力遮断でもその力を防げんじゃろうな」


 その場にいた全員が納得する中で、ただ一人、納得がいかない様子の者がいた。

 彼女は僕と一対一の立会いを望んだが、連敗することになった。

 ……その後のヴェルの機嫌が直るのまでの僕の努力を察してほしい。



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