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God Bless You !! 2nd Season  作者: 灰色狼
第三章 ドロウの王
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43:毒の効能


「彼らを雇用する?」


 ザックの提案は僕の予想していないものだった。


「はい。雇用です。彼らの自由意思を尊重するのが大前提ですが、希望する者は我々に雇用されて、捕虜の監視と食料の支給などを行います。

 人数が多いので十分な仕事を割り振ることはできないでしょうが、自然と彼らに考える時間を与えることができます。

 もしお許しいただけるのでしたら、私にその管理の役割をお与えください。私からも積極的に『考えること』を促すことができます」


 なるほど、理にかなっていると思う。

 ただ、色々と問題もある。


「うん、アイデアとしては面白いけど、いくつか問題があるかな。

 彼らの多くがケイニスと契約状態にあるはずだから、それを確認しないと形式上マズいよね。

 中には奴隷として参加させられている人もいるようだし、隷属の首輪を破壊するのに手間がかかる。

 また、彼らと雇用契約を結ぶとして、その資金がいる。要塞近辺で拘束しているレーヴァの正確な数はわからないけど、300やそこらはいるんじゃないかな。全員を雇うとなると、700人くらいになるかな。仮に賃金でひと月金貨15枚と考えて……金貨10500枚。ひと月だけならともかく、長くは続けられない。

 最大の問題点は、労働に対する意欲が問題になるとおもう。レーヴァは生きていくためにお金を必要としないからね」


 正直に言うと、ケイニスの契約も、奴隷状態の人も、ここは主大陸(ヴェリタス)ではないし、ストームポートでもない。強いて言うなら巨人族の領土なので、北に帰らないことを前提にすれば、雷の王がケイニスとの契約の無効を宣言し、『恩赦』を出せば済む話だ。

 隷属の首輪も、僕とGさんとコマリで手分けすれば、それほど難しいとは思わなかった。

 給料に関して言えば、多少問題があるが、当面は何とかなるだろう。

 レーヴァたちが自ら働くことを選ぶのか、という点が僕の中では一番未知数で問題に感じる部分。


 わざわざ否定的なことを言う必要はないのだが、敢えて言った。

 心情的にはザックの希望だから僕も叶えてあげたい。

 でも、子犬を拾って飼いたいという子供に、無条件で許可を与える訳にはいかない。

 それなりに覚悟や能力が、なにより責任が問われるからだ。

 ましてや犬の話ではなく、人の人生に干渉するのだから試しにやってみようでは済まされない。

 僕はザックがどれくらい先を考えているのか、どれくらい真剣に考えているのかを知りたかった。


 少し考えてからザックが話し始めた。


「契約については正直わかりません。師匠(マスター)にお力添えいただく他はありません。隷属の首輪に関しても魔法は専門外ですので同様です。

 ですが、資金に関してはレイアの遺産を使わせていただきたい。3か月程度は賄えます。

 その後の運用に関しては独立していくものも出るでしょうし、労働力を提供する役務などを一括で請け負えば、ある程度の収入を確保できると思います。 最終的には雇用という形態ではなく、コミュニティとして機能するようになれば、ドュルーワルカのような暮らしができるのではないでしょうか。

 金を使う点に関しては、メクトラスの他にも整備兵がいると思いますので彼らにも働いてもらい、日常的なメンテや改装などが可能であればそこで消費する形でスタートしたいと思います。

 生活する上で金の価値と習慣が身に付けば、彼らに別の目的が芽生える可能性もあるのではないでしょうか。

 見通しが甘いとお叱りを受けそうですが、他に方法が思いつきません」


 僕は少し驚いた。

 計画そのものは、雑で穴だらけだし、トラブルが発生した場合、特にケイニスの動きになどは考慮されていない。

 だが、ザックは少し先までは考えていたわけだし、何よりその熱意は疑いようがない。

 彼がこれほどまで喋ること自体が珍しいのだ。

 実際のところ、言い方は悪いが失敗したとして今より悪くなることもないだろうし、他に良い方法があるわけでもない。


 ザックの意見に最初に反応したのは一番意外な人物だった。


「鍛冶の技術指導くらいなら手伝ってやれるな」


 パーシバルが遠回しながら協力する意思を表明したのだ。


「ふむ。人間(ヒューマン)の真似をせんでも、と思わんでもない。レーヴァがレーヴァの未来を考えるのであれば、わしらの思いつかぬことを期待したかった。

 じゃが、現状ではそれは無理な話じゃとも思う。なんせ人間社会の中でレーヴァは生きておるのだからな。

 レーヴァとしての種族の在り様は、今後自然と形作られるのじゃろう」


 Gさんが感想を述べる。

 言葉は厳しく聞こえるが、ザックの意見を否定するものではない。どちらかと言えば前向きに感じる。


「レーヴァが運営する共同体とか、会社を作るという事ですよね?凄いことだと思います。

 私もレーヴァとして参加してみたいです」


 メクトラスも前向きだ。

 僕にも反対する理由はなかった。


「みんなも賛成のようだし、ザックにこの話を進めてもらうことにしようか。

 ケイニスとの契約や、奴隷契約に関しては、僕とGさんで何とかしよう。

 それを前提に、ザックには雇用希望者の数を確認してもらおう。少なくともここにいるレーヴァのうち半分、200名が参加するとなったら、本格的に始動させるよ?だから2、3日中に参加者を確定してほしい。メクトラスはザックを手伝って名簿を作ってもらいたい。

 やれるかい?」


「もちろんです。師匠の期待に応えるよう、全力で当たります」


 ザックの言葉は少し昂揚しているように聞こえた。

 その隣でメクトラスも静かに頷いている。

 この件に関しては、まずは二人に任せてみよう。

 二人はすぐにレーヴァたちに、個別に話を始めた。


 僕たちも、やらねばならない戦後処理を始めることにする。

 まずはガルンドルンに、要塞付近で確保されている捕虜をここに集めてもらうよう伝令を頼んだ。

 回収された宝石やアイテムを簡易鑑定して取り分を決めねばならないし、食料も巨人族に全部持っていかれると、捕虜が生きていけなくなる。

 本来存在するはずの管理資料は探しても見つからないし、捕虜に尋ねても皆さんとても非協力的で、知らぬ存ぜぬの一点張りときている。

 ここにある物資に関しての一覧を作らねばならなかった。


 二日がかりで目録作成に目処が立ち、一息つけるかなと思った矢先に、小さな問題が発生した。

 先の攻撃の後もガレオン船1隻とカラック船2隻は、沈没を免れ航行不能の状態で停泊していたが、巨人たちはその船を砂浜に引き上げたのだ。そこにかなりの量の物資と、息をひそめて隠れていた乗組員たちを発見することになる。

 幸い乗組員たちは素直に降伏してくれたのだが、捕虜が増えたこと自体が問題だった。

 さらに山岳地帯から移動してきた捕虜が加わる。

 この時点で、レーヴァ833人、人間323人、エルフ4人、ドワーフ3人。

 新しく来たレーヴァたちの意思の確認をザックとメクトラスは精力的にこなしていたが、僕個人としてはこれ以上増えて欲しくなかった。


 断言する。僕は商人には向いていない。

 さらに二日かけて、ようやく一覧が出来た頃には、気力なんて、これっぽっちも残っていなかった。


 物品の名前と数字の羅列を見続けたことも、確かに僕にとって精神的なダメージになっているが、僕の気が滅入ったのには別に理由があった。

 先日の船団襲撃の際に、エレメンタルの暴走で非戦闘員にもかなりの犠牲者が出たらしい。

 もちろん、命を賭けたいわば戦争だから、犠牲者が出るのは分かっているし、覚悟もしている。

 一歩間違えば僕を含む仲間に犠牲が出た可能性だってある。

 頭では理解している。

 でも、僕たちにいくら覚悟があるからといって、間接的だろうと人を殺してよい理由にはならない。


 作業用の天幕で、人目がないのをいいことに、だらしなく机に突っ伏していると、コマリが豆茶の香りと共にカップを片手にやってきた。


「お疲れ様です。お茶を入れてきましたので、一息入れてください」


「ありがとう」


 僕は身を起こしてカップを受け取り、そのまま口に運ぶ。

 濃いめに出されたお茶に、オーグのミルクとダスラスマ蘭のシロップが加えられた『コマリ仕様』の豆茶だった。

 普段は薄く煮出してそのまま飲むことが多いが、濃厚なミルクの香りと味が混じり合い優しい甘みが続くこの味も悪くない。

 身体に染み渡る感じがした。


 ミルクを加えることで、豆茶の角が取れてまろやかになり、適度に温度が下がっているから、ごくごくと飲める。

 カップの半分ほどを一気に飲んでから、大きくひとつ息を吐く。


「なんだか、生き返った気がするよ」


「このお茶に加えているシロップは、ダスラスマ蘭という植物の根から作ることはご存じですよね?」


 僕に笑顔でコマリが訪ねた。


「うん、最初に飲んだ時に聞いたからね」


「実は、ダスラスマ蘭の根は毒として使われるものでもあるんですよ」


「え?!これ毒なの?」


「もちろん、飲んで問題はありません。ちゃんと毒抜きをしていますから。

 ドロウは多くの植物から毒や薬を作りますが、これもその一つなんです。

 根から絞ったものは、麻痺毒の一種として狩りなどで使われます。きっと好奇心の強い誰かが舐めてみたんでしょう。

 とても甘いんだそうです。

 でもそのままでは食用に向きません。

 なので、絞った汁を火にかけてから丁寧にあく抜きをして、香りづけに樹皮を一緒に漬け込むのです。

 ひと月もすれば毒性は消えるのですよ。多少早めに調味料として使うこともあります。

 甘みもありますし、少しピリッとした刺激がありますから」


「そうなんだね。ドロウの生活の知恵か」


「ええ。毒が甘味料として役立つなんて、誰も思わなかったと思います。

 レーヴァもきっと、彼らなりの生き方を見つけて、戦う以外の生き方を見つけるのではないでしょうか。

 ザックがいい例だと思いませんか?」


「そうだね。コマリの言うとおりだ」


 全く違う使い方、生き方。

 毒がひと手間かけることで、違う用途に用いられる。

 レーヴァの今後に希望の光が差すような気がした。


「あと、これは私のわがままですが……あえて申し上げます。

 どうか、もっと今生きていることを喜んでください。

 アレン様だけでなく、私や姉様、ザックやパーシバルが無事に生きていることを喜んでいただきたいのです。

 アレン様はお優し過ぎます。

 多くの人の命が失われたことで、ご自身をお責めになるのは、間違っていると思います」


 コマリの瞳が潤んでいる。

 僕にはコマリが言いたいことがちゃんと理解できていた。

 今の言葉はコマリの我儘ではなく、僕を気遣ってくれているのだ。

 コマリは僕の様子をちゃんと見ていて、僕の気持ちに気づいていてくれる。

 僕が彼女を守るべき、なんて思っているだけで、僕はコマリに守られている。

 それを改めて感じた。


「そうだね。それはとても大切なことだ。思い出させてくれてありがとう。

 もっと何かできたんじゃないか、って考えちゃうんだ。神様でもないのにできないことを考えてしまう。

 少しスロンドヴァニールの言葉に引っ張られていたかもしれない。彼に代わって何かしなきゃって思ってたかも」


「スロンドヴァニール様もお優しい方だと思いますが、あの方は見守ることを是とされています。

 あの方も命が失われたことを悲しまれると思いますが、責任をお感じにはなられないでしょう。

 変わりゆく世界を静かに見守る。そんな方だと思います」


 コマリの言葉に頷く。

 彼女の見立ては正しい気がした。

 彼は不死の存在で神でもある。エルフの僕と同じ視点に立っているはずはないんだ。

 僕が彼の代わりを務めるなんて、僕の傲慢でしかない。

 少し心のもやが晴れて、すっきりした気分だ。


「『コマリの豆茶』は効果抜群だね。なんか元気が出て来たよ。ありがとう」


 そう言ってコマリの手を取ると、自然と視線が重なる。

 そのまま僕は立ち上がり、


「コマリ……」


「ゴホン、ゴホンゴホン」


 天幕の入り口からわざとらしい咳払いに、僕は思わずビクッとなる。

 そこにはローズが立っていた。


「ローズ、いつからそこにいたの?」


「幸い、コマリ様が天幕に来られた直後からです」


「ずっとそこで見てたわけ??」


「そう言うことになりますね。コマリ様の邪魔をしたくありませんでしたから」


 なんか急に恥ずかしくなる。

 その様子を見てローズは容赦なく言ってきた。


「別に気にすることはありませんよ。あなたが救いようのないヘタレで、メンタル激よわなのは承知してますから」


「それって、ひどい言われようじゃない?」


「いいえ?事実だと思います」


 僕は話題を変えるべく、ローズに尋ねる。


「僕の悪口を言いに来たわけではないでしょ?ご用件は?」


「そうでした。確かにあなたのメンタルの弱さを指摘するために来たのではありません」


「その話はもういいから」


「単刀直入に申し上げます。ドロウの各氏族に使者を送り、服従を求めることを提案します。

 状況を鑑みまして、今がその時ではないかと思い、具申する次第です」


 急に姿勢を正すローズ。

 僕はその言葉に驚いて硬直する。

 彼女の口にした言葉の意味が、僕には理解できなかった。




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