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God Bless You !! 2nd Season  作者: 灰色狼
第三章 ドロウの王
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42:道


 魔法使いの死体を調べ始めるとすぐにGさんとコマリが空から降りてくる。

 僕はローズの言葉と、敵が沈黙したタイミングから、この魔法使いがあの巨人もどきを操っていたんじゃないかと疑っていた。

 死体の装備を確認すると、この男が持つにしては少し派手な腕輪を付けていることに気がつく。

 様式からして古代エルフのものだ。


 僕はその腕輪を自分の手に付けてみる。

 そして意識を集中すると……この感覚には覚えがあった。

 要塞の制御室にある椅子に座ったときの感覚と似ているのだ。

 視覚の片隅に6体の巨人もどきの状態を見ることができる。

 『動作停止』という文字が一覧に並んでおり、既に動作していないことが確認できた。


「さっきの巨人もどきが、飛空船で運んだものの正体じゃないかな。もう少し調べておけば、余計な被害を出さずに済んだかもしれない」


 僕は要塞突入時に入った格納庫の大きさを思い出していた。

 レーヴァの出撃だけならあれ程高い天井はいらなかっただろう。

 だけど、これを積んでいたのなら、あの格納庫の大きさも納得がいった。


「ほう、なかなか面白そうな玩具に見えるが、それは何じゃ?」


 Gさんが目ざとく聞いてきた。


「あの巨人もどきを操作するための制御装置じゃないかと思います」


「その……なんじゃ。ワシの給金代わりに、それをくれぬか?」


 僕の返答に、Gさんは少し言葉を濁しながら、そう言った。

 Gさんがこれに興味を持つのはある意味自然だ。ここには僕たちの知らない魔法の技術が使われている。

 一方でGさんが言葉を濁したのも理解できる。かつての大魔法が何をもたらすのかを、Gさんも目の当たりにしているし、僕がいい顔をしないと考えたのだろう。正直に言えば必要のないものだと思う。だけど、これ自体は兵器ではないし、これでコントロールする兵器も動かなくなっている。

 Gさんの気持ちもわかるし、戦争の道具にもしないだろう。そこは信頼してもいいと思った。


「そうですね。ではGさんに持っていてもらいましょう。ただし、何かわかったとして、それはGさんだけの秘密にしてくださいね?」


「おお、もちろんじゃ。ワシはケイニスと違うて、金もうけには興味はないし、野望なども持ってはおらん」


 Gさんが子供のようにはしゃぎながら、その腕輪を受け取る。

 考えてみれば、レイアからパーティを引き継いで以降、金目のものとは縁遠い状態だった。

 収入がないからといって生活できない状態にはならないけど、常識的に考えればみんなに無理をさせているともいえる。

 少しは仲間のことも考えないと。


「とりあえず、この魔導師からも、もらえるものはもらっておきましょう。死んでしまっては何の役にも立たないでしょうから」


 そう言って、その魔法使いが身に付けていた、指輪と短剣、杖を回収する。

 ローブも魔法がかかっているようであったが、べっとりと血がついているし、着ているものを脱がすのにも抵抗があったので放置していたが、それもコマリとローズが回収していた。

 彼女たちは極めて現実的だ。

 この厳しい南の大陸で生きてきたのだから当然だと思う。

 そういう意味で僕は甘いのだと改めて思い知った。


 常軌を逸した熱狂、狂乱と呼ぶべきだろうか。

 その状況が落ち着くまで、僕たちは待つことにした。

 30分ほど経った頃に、巨人たちの勝どきの声が上がった。

 僕たちの元にガルンドルンがやってくる。

 あちらこちらに小さな傷が見えるが、本人は意に介していないようだった。


「月の使徒よ、無事だったようだな。貴殿の尽力に感謝する。

 あの大型レーヴァを止めてくれなければ、被害はより深刻なものだっただろう」


「いえ。もう少し早く気がついていれば、もっと被害を減らせたでしょう。その点はむしろ申し訳なく思います」


 僕の言葉にガルンドルンはにやりと笑いながら答える。


「いつもながら謙遜が過ぎるな。ここに来たのは戦利品の分配の話をするためだ。こちらの希望を言ってもよいか?」


「そうでしたか。もちろん、遠慮なくおっしゃってください。あなた方にその権利はあると思います」


 彼もまた現実的だ。彼らもまた生きるために戦っているのだし、彼らの要求は当然だと思う。


「では、率直に。武器防具、高価な貴金属、宝石類。あとは食料の類は我々の取り分としてもらいたい」


 ほぼ全部。まあ、人数も多いし妥当か。


「ただし、上記に該当しても、魔法の物品(マジックアイテム)に関しては貴殿らの取り分としよう。人間サイズの物品は我らは使えぬから、文字通り宝の持ち腐れとなる。

 あと、今回の戦闘で確保した捕虜も、貴殿らの取り分だ。悪くない話だと思うが?」


 僕は物凄く驚いた。

 どれくらいの数があるのか分からないけど、魔法の品物の価値を考えると、破格の条件だ。

 彼らが人間と取引がないのは知っているから、使い道がないのは事実だろうけど。

 いや、僕が驚いたのはそこではない。少し間を置いてから彼に尋ねる。


「この戦闘で、捕虜がいるのですか?」


 さっきの状況を見て、生存者は期待できないと思っていた。

 それが、彼は『捕虜がいる』と言っているのだ。


「無論、抵抗する者は生きていないが、目前で武器を捨て命乞いをする者を殺すわけにもいかん。貴殿との約束があるからな。

 完全に捕虜にできたかというと、貴殿には申し訳ないが勢いというものもある。だが、降伏した大半の者は生きて捕らえてある」


 ガルンドルンの言葉に、返す言葉がなかった。

 戦場がどれほど狂気にまみれるものなのかを、僕だって知っている。

 その狂気の中で彼らは理性を保ち、僕の願いを聞いてくれたのだ。

 胸が熱くなる。

 僕は片膝を地に付け、右手を胸に当ててガルンドルンに言った。


「ガルンドルン、いや、山の民たちにお礼を申し上げます……感謝の言葉がみつかりません」


「貴殿は我々の友だ。友の望みを叶えるのは当然の事。それに、礼を言うべきは貴殿ではなく、命拾いした捕虜どもだろう。

 さあ、友よ、立たれよ」


 そう言って大きな手を差し出してくれる。

 差し出された手は余りにも大きく、その手を握り返すことはできずに、彼の人差し指を握った。




 ガルンドルンと別れて、捕虜が集められている場所に移動する。

 捕虜は思いのほか多く、レーヴァが421人、人間が124人。エルフとドワーフがそれぞれ2人。

 レーヴァ以外の人たちは皆、非戦闘員だった。

 レーヴァたちはとても協力的だったのに対し、扱いに困ったのはその他の人たちだった。


「私たちは捕虜なのだろう?人道的な扱いを求める」


 僕を前にそう言ったのはエルフの男性。話しぶりは人間に近い印象だったので、人間社会で長く暮らしている人なのだろう。

 捕虜たちは僕が責任者らしいという認識でエルフを交渉役にしたんじゃないかと思う。


「認識を改めていただく必要があります。あなた方を拘束しているのは捕虜としてではなく、犯罪者としてです」


「犯罪者だと?正当なテクニカの活動だ。それに何の権限があって拘束するのか。ドロウと結託などしている貴様らこそが、犯罪者なのではないか?」


「南大陸がウエルナート男爵家の固有の領土であることをご存じですよね?」


「もちろんだ。代理人のデューザル卿の許可を取っているはずだ」


「その許可と言うのは、ウエルナート領に武力をもって侵攻し、そこの住民を虐殺しても構わない、という内容ですか?」


「我々は住民を虐殺などしていない。巨人と衝突して武力行使に至ったようだが、あくまでも自衛のためだ」


「ではデューザル卿は、ケイニスにどのような許可を与えられたのですか?」


「……」


「なぜ答えて頂けないのですか?今更隠すことはないと思いますが?」


「……古代エルフの遺跡の調査とその回収だ。何にせよ犯罪者呼ばわりされる覚えはないし、拘束を受けるいわれもない!」


 かなり強硬で上から目線だ。

 彼は権利を主張しているに過ぎないと思っているのだろう。だけど彼の認識は間違っている。


「巨人族を虐殺したのは事実です。私も目撃していますし」


「だから何だというんだ。巨人を殺したところで罪にはならないだろ!」


「そうですね。主大陸(ヴェリタス)ではそうかもしれません。であればストームポートでもそうかもしれませんね」


「どうやら分かったみたいだな。我々は犯罪者ではない。我々は好きなように行動させてもらう」


 にやりと笑って、自分が正しいことを証明したつもりのようだ。


「では、あなたがたの仰る通り、あなた方を自由にします。お好きなようになさるといいでしょう。

 ただし、今の道理では、巨人族は私たちの法にも縛られないことになりますし、私が彼らを止めることもできない、という事をご理解くださいね」


 勝ち誇るように笑った顔が、一瞬にして青ざめ、頬を汗が流れるのが見える。

 彼らは、降伏しなかった人たちがどうなったのかを見ているはずだ。

 見ていなかったとしても、ここにいないという事実は理解できるだろう。この人たちには、この世界の現実を理解してもらわねばならない。


「ま、待て。君らには我々を保護する責務があるのではないか?」


「そんなものありませんよ。私はウエルナート家やデューザル卿の家臣という訳でも、役人という訳でもありませんからね」


 愕然とする一同。

 彼らの置かれている状況が、ようやく理解できたのではないだろうか。

 僕は続けて彼らに言った。


「おとなしく指示に従っていただけるなら身の安全を保障します。ですが、好きになさりたいのであればどうぞご自由に。さて。どうされますか?」


「あんたは天上神(セレスティアン)の聖職者だろ?それが我々を脅すというのか?!」


 後ろにいた人間の男性がそう叫んだ。


「正しくは月の神(デミムア)の使徒ですよ。もちろん天上神(セレスティアン)の一派であることは変わりありませんが。

 ですが、巨人族は主神は山の神、天上神教会の呼び名で言えば大地の神(テラ)なのですが、月の神や太陽の神(ソロス)も信仰しているのですよ。

 そういう意味においてなら、私は巨人族を護る責務があります。そう考えると、あなた方は神に仕える民を殺した犯罪者、となりますが?」


「狂ってる……」


 捕虜の中の誰かがそう言った。エルフの耳は悪口がよく聞こえるようにできているのに。

 彼の発した一言は、決して埋まらない価値観の溝を端的に表していると思った。

 これだけ正論を積み重ねているのに、現実を理解できないのであれば、救いようがない。

 僕は脅すつもりなど一切ない。本心から好きにすればいいと思っていた。


「言い忘れてました。そもそも、ここでは捕虜は存在しないんですよ。なんせ戦時条約は結ばれていませんからね。

 交渉はこれで終わりです。皆さんの決断をお伺いしたい」


 僕の言葉に一同が押し黙る。

 選択の余地はない。


「貴殿に従おう。くれぐれも人道的に扱ってもらいたい」


「ええ、皆さんが協力してくださるなら、善処します。ああ、ご存じだと思いますが、ストームポートはここからかなり北にあります。

 こっそり逃げ出すなら、そちらを目指すといいでしょう。ですが、その際は十分に気を付けてくださいね。

 周囲にはいつも腹をすかしている大きなカニがうろついていますし、その先のジャングルはドロウの領域です。

 運よく抜けられれば40日くらいでストームポートにたどり着くと思います」


 僕はそう言い残して、離れた場所で様子を見ていた仲間たちの元に戻った。





 戻るとメクトラスが合流していた。

 僕の顔を見るとローズが真っ先に口を開く。


「ストームポートやラストチャンスに住む人間(ヒューマン)は柔軟に対応して、ドロウとも早くになじんでくれました。

 ですが、彼らはそれとは違うように感じます。明らかにドロウを敵視しているように思えますが」


 ローズの意見はもっともだとおもう。

 僕が説明するよりも早く、Gさんが口を開いた。


「北の大陸の人間の意識はあんなもんじゃろう。ここが自分たちの常識では計れぬ場所であるという認識がない。

 自分たちの暮らす世界の常識がどこでも通用すると信じておる」


「それにね。北には厳密にはドロウはいないんだ。そのほとんどがエルフの取替子。彼らはエルフの社会からは追放されるし、人間の社会には馴染めない。だから悪事に手を染めてしまうケースが圧倒的に多いんだよ。ハーフエルフも似たようなケースが多いけどね。

 そんなわけで、北ではドロウは悪党、ってイメージが定着してるんだ。教会ですらそういう認識だからね」


「なんだかひどい話ですね」


 Gさんに付け加えるように僕が話すと、コマリが呟いた。


「うん、ひどい話だと思う。だけどそれを正す術がないんだよ。そういうものだと定着してしまってるからね」


「ちゃんと話せばわかってもらえる気もするのですが」


蠍神(スコルピウス)のへの信仰を捨てることが難しいのはコマリにもわかるよね?

 それと似てるんだ。ずっとそう信じてきたものを少しくらい話をしたからと言って、変えることはできないんだよ」


「そう……ですか」


「シンプルで簡単だからこそ難しい。摂理じゃな」


 Gさんが言った。

 その通りだと思う。人が自分の生き方を変えるのは、自分が決意して努力すればどうだってなるけど、社会全体に染み渡った意識を変えるのは容易じゃない。北のドロウは一つの例に過ぎない。


 今回多くのレーヴァが動員されて、戦死している。

 今更ではあるが、弔いをどうすればいいのか僕にはわからないので、ザックに聞いてみた。


「ねえ、ザック。少し聞きにくいことなんだけどさ。レーヴァは死んだ場合って葬儀なんかはするのかな?」


 ザックは少し考えてから答えてくれた。


「今回の戦いで死んだ者たちに、弔いは不要でしょう。

 彼らは望んで戦い、そして死んだのです。彼らは満足して死んだのだと思います」


「そっか……」


「自我を持つとされるレーヴァはマークシックス以降とされています。ですがマークテン以前の世代は、積極的な意思を持ちません。

 言い方はよくありませんが、本能に近いレベルで命令に従い戦います。生きる喜びとは戦功を立てることなのです。

 ですから、今回投降したレーヴァは、戦うよりも大切にしたい何かがあるという事だと思います。

 彼らは戦う以外の生き方を選べるはずです。出来ることなら彼らにチャンスを与えていただきたい」


 そう言ってザックは僕に頭を下げる。

 彼の気持ちはよくわかった。

 ザックは今、自身という個の枠の視線と、レーヴァという種族としての視点を持っているのだと思う。


「分かった。出来るだけそうしよう。だけど……」


 言いかけて言葉が途切れる。具体的に何をすればいいのだろうか?

 最初にザックと会ったとき、僕は彼の意思を言語化することを求めた。

 彼の中にある感情を言語として表現することで彼自身が感情を理解するために必要だと思ったからだ。

 だけど、それはザックがコマリを生かしたいという願いがあったからこそできたことでもある。

 ここに多くいるレーヴァ達に同じことはできない。

 それでも、彼らに人生を選択する道筋を付けたいとは思う。でも、どうしたらいいかわからない。


 僕が黙って考えている様子を見て、ザックが話を続けた。


「彼らにはまず時間が必要でしょう。私が見出したように、生きる意味を見出すためには時間が必要ですし、それぞれが何かきっかけを掴まねばならないと思います。メクトラスが強い自我を持つのは、彼が自らの好奇心に目覚めたからに他なりません。その好奇心は世界との関りの中で生まれるのではないかと思います」


 ザックの意見は正しいと思う。

 だけどそのために何が出来るのだろうか。


「ですので師匠(マスター)、一つ提案があります」


「なに?提案って?」


「レーヴァはかなりの数がいて、いわば職を失った状態です。何もしない時間が長くなればそれでいいとなってしまいかねません。

 そこで、彼らを雇用することを提案します」



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