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God Bless You !! 2nd Season  作者: 灰色狼
第三章 ドロウの王
43/136

41:羅針


 翌朝の出発は少し遅めに設定された。

 後続の丘の巨人と合流してから戦闘に臨むのが得策と考えたからだ。

 先行して万一連中が移動していた場合、貴重な戦力を生かせないまま戦いに入る可能性がある。

 なので、今日は戦闘向きの奇跡は少し控えめにして、その分を連絡に使える奇跡に入れ替えてある。


 出発前に、長らく放置してしまったGさんに連絡を取ることにして、送信(センディング)の奇跡を行使し、Gさんに話しかける。


―Gさん、こっちは順調です。そちらは変わりありませんか?―


 返答の余力を残すために短く伝える。するとすぐにGさんから連絡が返ってきた。


―そこは野外か?―


―はい―


―コマリと向き合って立て。間は3メートル以上空けて、何もない状態にせよ。渡してある『お守り』を起動せよ―


 そこで送信の奇跡が途絶える。奇妙な会話だった。

 とりあえずコマリに伝えて、指示に従うことにする。

 コマリから3メートルちょっと離れて、向かい合って立ち、間には何もないことを確認してから、コマリに叫ぶ。


「アイテムを起動させて」


 僕もその小さな羅針盤のようなものに意識を集中すると、それは起動したようだった。

 円盤の中央部の結晶から淡い光が漏れ広がり、円盤の部分に精緻に書かれた魔方陣が浮かび上がり、天に向かって光を放った。


「何が起こるんだ?」


 少し離れたところでパーシバルが言ったのが聞こえる。


「僕も知りませんよ。爆発したりはしないと思いますが」


 同様にコマリの手にしている円盤からも光が天に向けて放たれている。

 だけど、それ以上のことは何も起こっていない。

 そう思った時、コマリと僕のちょうど中間点に幾筋もの光が降り注いだ。

 そして何も起きなかった。


「うむ。実験は成功のようじゃの」


 聞き覚えのある声が上から聞こえてくる。

 10mほどの位置からゆっくりと一人の人物が下りて来た。


「ガイアさん?!何が起こったんです?」


 そこに立っていたのは、僕たちのよく知る人物。Gさんその人だった。


「まったく、出かけたきり何の連絡もよこさんとか。最近の若いもんは……」


 いや、Gさんが一番若いでしょ?

 そう突っ込むのは思いとどまって、僕はGさんに尋ねた。


「いまの、瞬間移動(テレポート)の魔法ですよね?南の大陸(サウザンランド)では、忘却の王(オブリビオ)の呪いで使えないんじゃないんですか?」


「その通りじゃ。じゃが、その呪いの謎が半分ほど解けたのじゃよ。だからこうやってわしはここにおる」


「すごいじゃないですか!何万年も続いた呪いを解明したなんて、歴史に残る偉業ですよ!」


「うむ。もっと褒めてもよいのじゃぞ?じゃが、言うた通りまだ半分じゃ。完全に無視することはできん」


 これから大仕事に向かう直前にGさんと合流できたことは、心強い。


「とにかく、今の状況を説明します」


 僕はこれまでの経緯をGさんに説明した。

 海岸線でケイニスの軍勢を発見してから、巨人族と交渉し、残存兵力の掃討を行おうとしている。

 最後にその過程で加わったメクトラスを紹介して、とりあえずの説明を終えた。


「なるほど。状況は大体わかった。それだけ動き回っていれば、連絡する暇もないのも納得せざるを得んな」


 Gさんは大きく頷き、僕と仲間たちを見る。


「アレン、スロンドヴァニール様の話が抜けてますよ」


 ローズがそのタイミングで補足してくれた。とても重要な話が抜けていたのだ。


「そう、雷の王と会見したときに、そこの地下にスロンドヴァニールが死者の王(モーテュラム)によって幽閉されていたのを解放しました」


「スロンドヴァニール……?はて、聞いたことのある名前じゃが……死者の王によって幽閉されていた?」


 Gさんが首をかしげている。どうも話が伝わっていない感じだった。

 コマリが僕の言葉を補足する。


「お師様は、おとぎ話で語られる太古の神龍の一柱、賢龍、銀のスロンドヴァニール様をご存じありませんか?」


「ああ、そのスロンドヴァニールか……なんじゃと?!聖龍スロンドヴァニールじゃと?!」


「ええ、そのスロンドヴァニールですよ」


 僕はGさんに答える。


「ただの伝説ではないかと言われておる太古の3龍がいまも実在する?にわかには信じられん」


 Gさんは少し呆然と言った。

 3龍は確かに存在し、スロンドヴァニールは古代巨人族の大魔法が放たれた際にこの世界を護るべくその力のほとんどを使い果たした。

 そしてそこを死者の王に付け込まれて、長く閉じ込められていた。

 月の神(デミムア)太陽の神(ソロス)の力添えもあって、彼を無事に救出できたことを伝える。


「そうか。忘れられた重大な歴史だな。……しかし、アレン。お前は自分がやっていることの自覚はあるのか?」


 その問いかけに、どう答えればいいのかわからない。僕にはGさんの質問の意図が見えなかった。


「自覚と言われましても、死者の王は僕とは相いれない相手ですから、そりゃ怖かったですけど見過ごすわけにもいかないでしょ?」


「仮にも神と対峙した、という意味だけではない。天上神と共に戦い、聖龍を救い出す。これは誰にでもできる話ではない。

 それができる者こそ、英雄と呼ばれるのじゃ」


「いや、英雄ってのはいくら何でも盛りすぎでしょう?僕はたまたまその場に居合わせただけだし、結果的にスロンドヴァニールを助け出しましたけど、月の神様が来てくださったときには平伏してただけですし」


「本人が望む望まぬにかかわらず、世界を動かす目になる者がおる、という事じゃ。自覚のなさはお主らしいが、自覚がなさすぎるのも問題じゃて」


「そうなんですか?」


「そうなんじゃ!それはさておき、こんなところで死者の王の名前が出てくるとはのう」


「死者の王はともかく、ケイニスを中心とする連合の方が気がかりです。テクニカ勢だけでなく、思考の13賢人会(サーティーン)も関わっているようですし、どうもデューザル卿も関りがあるようですし……」


「ほう……それは確かに奇妙な取り合わせじゃな」


 Gさんは何かを考えていたようだったが、すぐに話を続けた。


「いずれにせよ、ケイニスに継戦能力があるのであれば、削いでおかねばならんな。まずはそれから片付けるか」


 Gさんと暫く情報交換――というほどのこともない、エウリやデニスたちの様子や、ドロウの氏族の状態などを聞いているうちに後続の巨人族が合流して出発する。

 その日の夕暮れまで移動、翌日も終日移動となった。

 この間、敵らしいものとは接触していない。

 翌日はケイニスと接触になるが、このときはGさんが合流したこともあり、少し油断をしていたと思う。




 翌日朝のルーティンを済ませて出発。

 昼頃には海が見えてきた。

 巨人たちは戦闘用の陣形を組んで移動をしている。

 最前列に炎の巨人たちと、数は少ないが雲の巨人が並び、その後ろに丘の巨人が並ぶ。

 陣形と言ってもいたってシンプルだが、理にかなった隊列でもある。

 前に並ぶのは十分な装備を持った戦士たちであり、後ろに控えるのは投擲を主とした一般兵。

 巨人の投げる石は、カタパルトほどではないにせよ、投石と呼んでしまうには、あまりにも破壊力がある。

 直撃すれば、一般人なら即死は免れない。


 慎重に進軍を続けると、丘陵地帯を抜けたあたりで、敵陣地が見えてきた。

 向こうもこちらを確認しているだろう。

 巨人たちは広い陣形に変わっている。巨人族の総数は正確ではないが300という所だろう。

 数の上では多くはないが、その戦闘力は人間の数千の軍勢にも引けを取らない。

 陣地まで200mほどまで接近して一度停止する。


 巨人族と打ち合わせをした通り、僕は一人前に出て、弓の射程外の陣地まで100mを切る辺りまで前進する。

 僕の視界には入っていないが、近くにローズが護衛として控えているはずだ。


「聞け!我々は無益な戦いは望まない。武器を捨て降伏するなら、身の安全を保障する。返答は如何に!」


 海風で声が届かなかった……そんなことはない。ちゃんと聞こえているはずだ。

 だが、向こうから返答はない。

 降伏する気はないようだった。止むを得ない。

 僕は右手を挙げて前へと振り下ろす。

 巨人族が前進を開始した。


 僕は同時に敵の陣地で何かがせり上がるのを見る。

 次の瞬間、正面付近にせり上がったものから、光が放たれた。


「え?」


 その光は僕めがけて直進したが、目の前の見えない壁に遮られて四散した。

 上空で透明化しているGさんかコマリが張ってくれた力場の壁(ウオールオブフォース)が光線の攻撃を遮断したのだ。

 せりあがったなにかが、前進を始める。

 それは四角い体に左右2本ずつの手足を持っていた。身の丈は5mくらいだろうか。何と言えばいいのか分からないけど、出来損ないの巨人のように見えた。


「あれは何?」


 全部で6体の巨人もどきが前進してくる。


「アレン、何をしておる。下がらんか!」


 上空からのGさんの声で我に返り、僕は走って後退する。

 見た目よりもずっと早く移動してくる。

 巨人が走るのと変わらない速度だ。

 僕の頭越しに、巨人族からの投石攻撃が始まったが、巨人もどきには効果が無いように見えた。

 よく見ると直撃する前に何かに当たって岩がそれたり、砕けたりしている。

 見えない障壁のようなものがあるようだ。

 6体の巨人もどきが一斉に光を放つ。

 それは僕の頭上を通り過ぎて、何人かの巨人を激しく焼いた。

 威力こそ低いが要塞の放った攻撃に似ている。


 上空から緑色の光線が放たれて、僕の正面にいた巨人もどきは身体の右半分が四散した。

 Gさんが姿を現す。分解光線(ディスインテグレート)を放ったようだ。


「奴ら、力場の盾のようなものを装備しておるが、当然ながらそれを通しては攻撃できん。奴らが攻撃したタイミングで反撃すれば、確実に当たる」


 奴らの後ろから、体長4mほどのレーヴァが20体ほど続いて前進してきた。

 そんな巨大なレーヴァなんて、前はいなかった。

 何が起こっている……?

 僕は混乱し、どう手を打つべきか何も思い浮かばない。


魔法破り(ブレイクエンチャント)!」


 僕の脇でコマリが姿を現した。

 コマリの放った呪文が、巨大化したレーヴァを4体ほど普通のサイズに戻した。


「魔法で巨大化させているだけです。敵にも魔法使いがいるようです」


 コマリは(ワンド)を振って前方に火球(ファイヤーボール)を飛ばす。

 だが、その炎は見えない壁によって遮られたようだ。

 数の上では僕らの方が優勢。だけど、被害はかなり出てしまう。


「パーシバル、ザック、前に出るよ。敵の間を抜けて後ろの魔法使いを最初に叩く」


 Gさんとコマリの言葉に、少し冷静さを取り戻した僕は、少し後ろにいた二人に声をかけた。


「Gさん、コマリ、援護をお願い!」


 そう叫ぶと僕たちのいる場所に加速(アクセラレート)の呪文がかけられる。

 それを合図に僕たちは全力で走り出す。


「私に指示はないのですか?」


 すぐ背後でローズの声がした。


「君は僕の護衛役だろ?最後まで付き合ってよ」


 振り返らずそう言って前に進み続ける。

 一体の巨人もどきが僕たちの動きに気づいたようで、衝突コース(インターセプト)に進路を変えた。

 だが次の瞬間に、真上から飛来した緑の光線が直撃して半身が塵と化す。


「分解光線は終いじゃ。援護はするがあまり期待するな!」


 Gさんの声が聞こえた。

 さらに前進すると、敵陣の防護柵のすぐ向こうに、数体のレーヴァに警護されたローブの男が見えた。

 僕は速度を落として、移動しながら聖印を描いて奇跡の行使を宣言する。


業火(フレイムストライク)!」


 ローブの男を中心とした集団に、聖なる火柱が上がり、そこにいた数名を浄化の炎が焼き尽くす。

 一撃で全滅とは行かなかったが、かなりのダメージは与えているはずだ。

 ローブの男はゆっくりと後退を始める。

 周囲のレーヴァ達は僕たちの足止めを計ろうと攻撃の態勢に入る。


「ローズ!奴を!」


 これで通じるはず。僕は三日月刀を抜いてレーヴァと直接戦闘の態勢に入る。

 だが僕が切りつける前に、ザックの斧が唸りを上げるように4体のレーヴァをまとめて引き裂き、その脇にいた別のレーヴァはパーシバルの大槌の一撃で崩れ落ちた。

 残りはもう3体。

 ザックは足を止めて殴り合いの態勢を取る。

 脇でパーシバルが自分の盾を手にした槌で叩いてから、


「このへなちょこどもが!少しは気概があるならかかってきやがれ!」


 かなり安っぽい挑発に思えたが、残っていたレーヴァはパーシバルに対して吸い寄せられるように攻撃していく。

 レーヴァの手にした剣が次々とパーシバルの大盾に当たるが、びくともしない。

 脇からザックが流れるような一連の動作で3体のレーヴァを切り倒していった。


「どうやら大勢は決したようですね」


 ローズがこちらに歩いて戻りながらそう言った。


「あれ?魔法使いは?」


「逃げる気があるのかないのか、あまりにも遅かったのですぐでしたよ。何かを使うために精神を集中させていたのではないかと思います」


「その魔法使いって、どこ?」


「すぐそこですよ。暴れていた大きな機械のようなものは止まってますし、巨大化したレーヴァも片付いたようです。あとは掃討戦かと」


 僕は振り返って後方を見る。

 勢いづいた巨人族が陣地のすぐそこまで迫っていた。


「巻き添えはごめんだから、ここを離れよう。あ、魔法使い」


 そう言って魔法使いの死体を確認に行くが、すぐに巨人族が脇を走り抜けていく。

 この魔法使いの不自然な位置取りや、戦線が一気に傾いたことから、この魔法使いが何か重要な役割を担っていたのは明らかだ。

 ゆっくり調べる余裕がないので、ザックに頼んで死体を運んでもらい、陣地の外に出た。


 陣地内はもはや戦いとは呼べず、一方的な蹂躙となっていた。

 これは本来なら止めるべきだ。

 だけど、巨人族にも死傷者が出ているし、谷での一件も目撃していたので、彼らを止めることもできない。

 彼らには彼らの法があり、秩序がある。

 巨人族にとって、これは正当な復讐であり、彼らの掟による裁きなのだから。

 神がそれをお認めになる以上、僕には何もできない。

 降伏勧告はした。それに従わなかったのだから、責任は彼らにある。

 自分にそう言い聞かせるが、なんとも形容しがたい、割り切れぬ思いが胸に残った。




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