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God Bless You !! 2nd Season  作者: 灰色狼
第三章 ドロウの王
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36:追撃


 光の扉を抜けるとそこは要塞後部の侵入に使ったハッチ前だった。

 僕に続いてコマリとザックが現れ、次元扉(ディメンジョンドア)は消える。

 周囲には指示した通り、ここでコントロールされているレーヴァ達が戻ってきており、整列しつつあった。

 まだ全部が集まったわけではないようだが、それでも500体程度はいるだろう。


 僕たちは谷を東側に向かって走る。

 予想では比較的近い位置で撤収の作業を進めているはずだ。

 そう思った矢先、前方から大きな物体が上空に上がるのが目に入った。


 ……間に合わなかったか。


 それは海岸線で見た飛空船だ。

 必要なものは積み終わって離陸したのだろう。


「海岸で見た船ですよね?」


 コマリの言葉に僕は答える。


「うん、空飛ぶ船だね。ここからじゃ呪文は届かないし、止める手立てがない」


師匠(マスター)アレン。彼らは要塞を入手したかったわけではないのですか?」


「詳しくはわからないけど、最初はそうだったかもしれないね。でも撤退したところ見ると彼らは欲しいものを手に入れられたんだと思う」


「欲しいもの、とは?」


「技術だよ。あの要塞に使われている失われた魔法技術。動力炉には人が残ってたから完全じゃないだろうけど、他では技術者は見なかった。たぶん先に引き上げてたんだと思う。」


 そこまで言ってから、僕はガルンドルンに連絡を入れる。


―ガルンドルン、敵に対して降伏勧告をしてほしい。君は共通語ができるから向こうも理解するはずだ―


―降伏勧告?戦士には勝利か死か、どちらかしかない。奴らもそれを…―


―僕からのお願いだ。降伏を勧告してくれ。おとなしく従ったものは危害を加えずに身柄を確保してほしい。従わないものは……君の言う通りだろう―


 僕は彼の言葉を途中で遮り、強く言った。

 中には武器を捨てる者もいるだろう。そうなら、罪の償い方は他にもあるはずだ。


―貴殿の頼みなら仕方あるまい。降伏したものは貴殿預かりとしよう。そうでないものは、山の掟に従うものとする―


―ガルンドルン、あなたに感謝する―


 僕たちはその場から要塞に向けて戻り始める。

 次に打つ手を考えないと……皆殺しなんてしたくない。だけど、彼らを帰してしまうわけにもいかない。

 どうしたらいい……どうしたら。


 そんなことを考えている間に、要塞の所まで戻ってくる。

 ちょうど南側の梯子から、ローズたちが下りて来たところだった。


「どうなりました?」


「逃げられた」


 ローズが真っ先に聞いてきたので、僕は一言で答えた。

 少しローズは驚きの表情を見せて、戸惑っているのはわかる。

 今の返答は僕らしくないという自覚はあった。

 だけど、頭の中はぐちゃぐちゃにとっちらかっている。

 そのピースを並べ替えながら、一つの形にまとめていく。

 一応の策は出来たが、これが現実的と言えるだろうか。


「コマリ、飛行(フライ)の呪文は用意してある?」


「いえ、呪文では用意しておりません。ですが巻物(スクロール)は用意してあります」


「あと、火球(ファイヤーボール)は?」


「呪文で1つ。あとは(ワンド)になります」


 それを聞いてから、僕は覚悟を決める。

 いくら考えても他に手はない。時間を無駄に消費して、成功の確率を低くするだけだ。


―ガルンドルン、そっちはどう?―


―降伏に応じない敵を追跡中だ―


―被害状況は?―


―多少は出ているが、被害のうちに入らない。問題ない―


―了解した。ガルンドルンはそのまま東に進行してほしい。海まで出ると、敵の陣地がある。それを制圧したい―


―分かった。我々は海まで進軍する―


―あと、ここにレーヴァの仲間を一人置いて行くから、後方で待機している他の巨人たちを要塞まで前進させて、彼の指示に従うように伝えて欲しい―


―分かった。伝令を出す―


―ありがとう。海で合おう―


 ガルンドルンに話を付けてから僕は仲間に話を始める。


「これから、あの船を追いかけるけど、先に作戦を説明しておくね。かなり危険だし、最終的に実行に移すかの判断はギリギリで決めるから。

 まず、メクトラスはここに残って、巨人族と協力して捕虜を管理してほしい。巨人族には僕から話を通したから」


 僕の言葉にメクトラスが頷く。


「残りのメンバーは気体化してさっきの飛行船を追い抜いて、敵の宿営地脇に降下。実体化して待機。

 コマリは飛行の魔法を使って、真上から海上に停泊してる船を攻撃してほしい。攻撃の優先順位は3隻のスラっとした船。

 船体後方のやぐらのような部分と、メインマストに火球を当てて欲しいんだ。

 当然敵からの反撃も考えられるから、弓の射程に入らないように気を付けて。絶対に無理はしないで敵が近づいてくるようなら、待機してるザックたちと合流して」


コマリが頷いた。


「ローズとザック、パーシバルは最初の位置で待機して。コマリが戻ってきたときに、敵の迎撃をお願い」


「あなたはどうするんですか?」


 ローズの問いかけに僕は一つ息を吐いてから、答える。


「僕は単身、飛空船に入り、気体化を解いてから船の動力を停止させる」


「飛空船の動力を停止させるって…それじゃ自殺行為じゃないですか?!」


「大丈夫だよ、敵の陣地付近に停泊すると思うから、そのタイミングを狙うつもりだよ。

 万一離陸されても、完全に落ちる前に羽毛の降下(フェザーフォール)を使って脱出するから」


「それにしても単身船に乗り込むなんて無謀が過ぎます!」


「姉様、大丈夫です。アレン様が大丈夫とおっしゃっているのですから」


 コマリの言葉にローズが勢いを少しそいでくれた。

 僕は話しを続けた。


「あの船が北に戻ったりしたら、ジャガーノートみたいなのが作られることになる。それって何のためだろう?

 僕にもわからないけど、一つ分かることがある。

 あんなものが作られたら、多くの人が死ぬ。それは避けたいんだ」


 先の大戦でどれだけ多くの人が死んでいっただろう。

 戦争を望む人が死ぬのは自業自得だ。

 だけど戦争で命を落とすほとんどの人は、そんなもの望んでいない。

 そんなことは繰り返させたくない。

 僕の言葉にローズは目を閉じ黙った。

 そしてすぐに僕を見据えて言った。


「作戦の一部変更を求めます。

 コマリ様の援護にパーシバルも船団上空を少し低い高度で飛んでもらい、囮になってもらいましょう。その方がコマリ様のリスクを減らせます。

 また、アレンには私が同行します。状況によるとは思いますが、援護があった方が良いでしょう」


「いや、そうかもしれないけど、パーシバルのリスクも高くなるし、ローズだって……」


「いや、その方がいいだろう。俺は頑丈なのが取柄なんだし、防御力には自信がある。盾を構えて上空を飛び回りながら、嬢ちゃんの付けた火に油瓶の一つも投げ込んでやるよ」


 ローズとパーシバルが僕を見る。

 僕はザックに向かって話しかけた。


「ザックはどう思う?」


 自分だけ出番がない状況にザックは不満を漏らすだろう、と思っていたが、


師匠(マスター)アレンがそうおっしゃるなら、私はその指示に従います」


 あっさりとそう答えた。

 可能な限りリスクは集中させて仲間の安全を、と考えてみたが、それが僕の間違いだったようだ。


「そうだね。みんながそう言ってくれるならそうしよう。その方が成功する確率は高い」


 その言葉に一同は頷く。


「少し急ごう。あの船を追い越して、先回りしないと」


 そう言ってから僕たちは再び気体化し、メクトラスをその場に残して飛行を開始した。

 ここから敵の上陸地点まで2時間はかからないはず。

 飛空船の正確な速度は知らないが、僕たちより早いという事はないだろう。

 半分程度としても、十分に先回りできるはずだ。

 最高速度で飛び続けること15分ほどで、船を目視で捉えた。

 すこし距離を取ってから追い抜いていく。

 僕は船の姿を細かく観察した。


 船体の左右に伸びたマストのような部分に炎の輪が形成されているのが見える。

 飛空船は風と火のエレメンタルの力を動力にしていると聞いていたが、その通りのようだ。

 動力となるエレメンタルを捕らえている魔晶石(コア)は船体中央部にあるだろう。

 そう思いながら船を追い越していき、海岸線へと向かった。


 丘陵地帯を抜けて海岸に達する。

 敵陣地は慌ただしく、撤収の準備が進められているようだ。

 僕たちはそこから少し離れた位置に降り立って、一度実体化する。


「撤収するのは間違いないようですね。ですが慌てている感じでもありませんでした。予定通りの行動と思われます。

 先手を打って船に攻撃を仕掛けた方がいいのでは?」


 ローズの言葉に僕は呟く。


「飛空船が一度、着陸か着水してくれることを期待したんだけど……」


 回収済みのもので、ボートで母船に運べないものはここで積むだろうと思っていたが、そんなものはないかもしれない。

 少し考えてから、決断を下す。


「最初のプラン通りに進めよう。飛空船は降りてこなくても、船団を作るために停止するんじゃないかと思う。

 もし、素通りしたら、追いかければ何とかなるし。

 先に攻撃すると警戒される。できれば不意打ちをかけたい」


 大まかな計算だけど、飛空艇がここに来るまでに1時間はあるはず。

 僕たちは作戦をより確実なものにするために、可能な限りの準備をして、その時を待った。




 岩陰に身をひそめて様子をうかがっていると、西の方角から空中を滑るように飛空船が近づいてくるのを確認した。

 船影がはっきりと確認できるころには、少し減速していることがわかる。

 どうやら一度ここで停船するようだ。


 額から汗が流れる。

 誰も、何も言わずに船の様子を伺っていた。

 ケイニスの宿営地上空にゆっくりと入って、船体はやがて停止する。

 そこからゆっくりと地面に向けて垂直に高度を落とし始めた。


 その様子を見てコマリとパーシバルが海に向かって移動を開始した。

 二人はすぐさま透明化(インヴィジビリティ)魔法薬(エリクサー)を飲んで姿を消した。


 







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