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God Bless You !! 2nd Season  作者: 灰色狼
第三章 ドロウの王
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35:制圧


 僕は無言の圧力を加え続ける。

 ケイニスの技術者は引きつりながら声を上げた。


「教えるから、刀を退けてくれ」


 その言葉に三日月刀をわずかに引く。

 技術者は青い顔のまま言った。


「魔畜槽は、そこの前方ハッチの向こう側と、上のフロアに4か所ある。制御室は最上層部にある。ここから前方に行くと縦のシャフトがあってそこから上へ移動できる」


 彼が魔畜槽と言ったのが蓄積用の施設だろう。彼の言葉には、恐怖と焦りが含まれていたが、嘘の匂いはしなかった。


「メクトラス、彼の話をどう思う?」


「筋は通っています。動力炉近くにあるのがメイン、上部に複数あるのは補助、大きなエネルギーを使うため…兵器用のだと思います」


 全部壊して回るには時間がかかりすぎる。発覚もするだろうし現実的ではない。


「プランを変えよう。メインの魔畜槽を破壊してから、制御室に向かい制圧する。コントロールを奪うことでこの要塞を無力化しよう」


 僕の言葉に仲間たちは頷く。


「コマリ、メクトラスと一緒に行って、分解光線(ディスインテグレート)で破壊してきてほしい。メクトラスは確実に機能停止させられる場所を指示して。ザックも護衛としてついて行って」


「分解光線だと?やめろ、貴重な技術が失われる」


 僕の言葉に技術者が再び声を上げた。


「こんなバカげた巨大兵器は、この世界には必要ありません。僕たちはこれを破壊します。あなたはここの責任者ですよね?色々と事情に詳しいようなので、もう少し教えていただけませんか?」


「私は技術責任者だ。政治に関しては何も知らん!」


 なるほど、彼は何かを知っているようだ。本当に知らなければ、わざわざ知らないとは言わない。


「わかりました」


 僕は短くそう告げ、3人をまとめて縛っていたロープを解放し、改めて彼だけを縛りなおす。


「どういうことだ?私のロープもほどけ」


「言ったでしょ?あなたには色々と教えてもらわないといけない。あなたには同行してもらいます」


「ローズ、技術者の監視を強化して。パーシバル、縛った人たちをほどいてあげて」


 僕の指示に二人が動き出す。前のハッチに行っていた3人が戻ってきた。


「アレン様、破壊してまいりました」


 コマリの言葉に、メクトラスも頷く。


「ありがとう。これから制御室に向かうけどその前に……」


 僕は縄をほどいた技術者たちに言った。


「僕たちは今からこれを破壊します。僕たちがこの部屋を出てたら30数えて、眠っている人を連れて脱出してください。

 ここは間もなく巨人族に包囲されるでしょう。その前にできるだけ早く逃げることをお勧めします」


 僕はそう言って床に散らばるロープを回収する。

 バックパックに突っ込んでから立ち上がると、ローズと目が合った。


「言いたいことはわかってるつもりだよ。綺麗ごとでしかないってのもわかってる。それでもこの場で命を奪うのは違うと思うんだ」


 彼らが脱出して生き延びる保証はない。それに彼らが騒ぐことで、僕たちの行動に支障が出るかもしれない。

 それでも、この場で無抵抗な非戦闘員を殺すことに、僕は抵抗を感じていた。


「私は何も。あなたが茨の道を選ぶと言うなら、それに付き従うまでです」


「ありがとう。さあ、先を急ごう」


 僕たちは足早に入ってきた扉から外に出た。


 通路を前方に進むと、シャフトと言っていた場所に出る。

 円筒形の空間で壁に沿って、らせん状の二つの階段が上へと続いている。

 見通しがいいので隠れながら進むのは不可能。捕虜を一人連れているから、気体化して上に一気に上がることもできない。

 仕方ないので階段を走って上がる。


 最上階付近に近づくと、一番上の部分に前と後ろの2か所に扉。前側には二人の武装レーヴァが見えた。

 僕たちはあえて速度を落とさずに上まで駆け上がる。


「一大事です。動力炉に侵入者があって戦闘状態になりました。捕虜を一名確保したので連行してきました!」


 口から出まかせ。

 だけど、一行にレーヴァが二人いる事もあって、警備のレーヴァは警戒もせずにこちらに走ってきた。

 素早くザックとローズが動き、警備のレーヴァを不意をついて地面に押さえつける。


「何を!」


 そう声を立てたがザックの斧が首元に押し付けられると静かになった。

 僕とパーシバルで手早く縛り上げる。


「出来れば殺したくないのです。協力してください」


「敗者は語る言葉を持たない。殺せ」


 それが彼らの矜持なのだろうか。その声に迷いも恐怖もない。

 ラストチャンスでの戦いの前のハーバーマスターとの会話を思い出した。


「戦争の犬、か」


 ポツリと呟き、続ける。


「君が生き延びて、この先人としての道を模索するなら、北に向かうといい。

 レイブンズやケイニスに所属しているよりも、人としての生き方を選べるはずだ」


 そう言ってから扉の前に移動する。


「扉を開けたらローズ、ザックの順で中に飛び込んで。待ち伏せはないと思うけど十分に気を付けて。武装している者は排除して構わない」


 二人は頷く。


「そのあと僕とパーシバルが続く。コマリは最後尾。メクトラスはここで彼をみてて」


 メクトラスに縛り上げた技術者のロープを渡す。


「いいね、いくよ?」


 そう言うとザックは扉を開けて同時にローズが飛び込む。

 ザックは中にそのまま走り込み、その後ろに僕が続く。


「その場を動くな!」


 僕が叫ぶと、一斉にこちらに視線が集まる。

 警備と思われるレーヴァが一人、剣を抜く仕草を見せた瞬間に、先に入ったローズが短弓で矢を放つ。

 放たれた矢は狙いを違わずレーヴァの右腕を貫いた。


 中はL字型に曲がっていて前方右奥の様子が見えない。

 僕はザックと奥を確認するために前に出ようとした瞬間、すぐ右上から何かの声が聞こえた。


「ザック!跳んで!」


 とっさにそう叫び僕は前に大きく跳んだ。

 僕のいた場所に3本の赤い光条が飛来し、2本が床を焼く。一本は僕の背中に命中した。


「くっ!」


 焼けるような痛みに思わず声が出る。

 僕が倒れたまま転がって声の方向を確認したときには、扉から入ってきたコマリが壁の上に向けて3本の赤い光条を放つのが見えた。

 その光は狙いを違えずそこに立つローブの男を貫く。

 同時に壁面の小さなくぼみを蹴りあがったローズの右手に握るロングナイフが一閃した。

 ザックはとんだ後に一回転しておきあがり、そのまま前に走る。

 僕がザックの移動した先を確認すると、二人のローブの男が、呪文の詠唱に入っていた。

 ザックは走りながら斧を投げつけ、巨大な斧が回転しながら宙を舞った。

 僕はその様子をスローモーションのように見ていた。

 一人目のローブの男は飛来した斧に二つに裂かれてその場に崩れ落ちる。

 もう一人の男は呪文の詠唱を完了した。

 その両手から青白い大きな雷が放たれる。狙いは倒れている僕だ。

 仰向けに寝転ぶ僕には回避する手立てがない。

 歯を食いしばった瞬間、目の前に何かが立ちはだかった。

 雷光はその何かによって遮られる。


「これは貸しにしておく」


 そこにはパーシバルが盾を構えて立っていた。

 壁上から飛び降りたローズがそのローブの男を切り伏せ、空間が静まり返る。


「パーシバル、大丈夫?怪我はない?」


「こっちは頑丈さが取り柄だ。けが人に心配されるほど軟じゃない」


 コマリが駆け寄ってきて、治癒の(ワンド)を使って僕の傷を治療してくれる。


「あまり無茶はなさらないでください」


 そうはいっても、不可抗力だから、と言いそうになったのを思い留めてから、


「ありがとう、コマリ」


 それだけ言った。


 武装したレーヴァに戦闘の意思はないようだ。

 部屋の中には他には誰もいないようで、この部屋の広さを考えると人員も少ないし、余りにも簡単に制圧できた気がする。


「メクトラス、ここが制御室で間違いない?」


「はい。間違いないと思います。彼に聞いてみますか?」


 そう言って縛り上げて同行刺せている技術者を見る。


「私は嘘はついていない!」


 技術者はそう答えた。

 僕は起き上がって部屋の構造を見る。

 大きな半球状の部屋で、部屋の形はC字型に近い形だった。

 中央の壁に見えた部分は、階段でその一番高い位置に壁の材質と同じような椅子があるのが見える。

 僕に最初に攻撃してきた男がいたあたりだ。

 他は何もない。

 制御室というよりは質素な謁見の間、といった風情だ。もっとも玉座の前方には扉すらないけど。


 コマリが階段を上がっていき、そこにある血に染まった椅子に躊躇せずに座った。


「コマリ?」


 僕の問いかけに頷いてから、コマリは目を瞑る。

 すると球状の壁面に光がいくつか走り、周囲の状況や、戦う巨人族の姿などの映像が宙に浮かび上がった。


「座った者の魔力で動作するようです。コマンドワードは必要ありませんが、文字が古代エルフ語のようで私には読めません」


 そう言ってからコマリが椅子から立ち上がると映像が消えて、元の静かな空間になった。


「誰かが魔力を供給しなければ、稼働しないみたいだね。コマリ、なんともない?」


「はい。大きな魔力を必要とするわけではないようです。非常に小さな魔力で起動して、コントロールできるようですね」


「僕が見てみるよ。古代エルフ語も少しはわかるし」


 そう言って僕は階段を上る。

 そこに転がるローブの男を見て、僕は自分の目を疑った。


「パーシバル!ちょっと来て!」


 僕はパーシバルを呼んで尋ねた。


「この男の着ているローブって……」


「ああ、俺も知っている。これは『至高の13賢人会(サーティーン)』のものだ。奴らも一枚噛んでいるという事か」


 ケイニスだけじゃなくて、いくつかのテクニカに至高の13賢人会?

 これら勢力が結託しているのか?

 僕は寒気を感じた。

 だが、我に返る。

 今考えるのは後回し。

 そう思い直して、目の前にある椅子に座り、目を閉じる。


 集中して魔力を送るとすぐに反応があった。

 いくつもの映像が再び壁面前に姿を現し、視界の中に色々な情報が表示されている。

 視線をわずかに動かすと、その先の情報が拡大表示された。


 古代文字から大体の意味は分かる。

 この要塞の状態を表示させてみると、

 動力停止中。外部供給停止中。魔畜槽メイン停止中。予備1番、3番、4番、停止中。2番残存65%。

 移動最大時間2時間。

 稼働砲塔、1/8。

 兵士生産設備、現在停止中稼働可能。

 稼働兵士数、1,225。

 現在攻撃命令により914体が戦闘中。


 概要が見えてきた。これが要塞というのも納得だ。

 高い攻撃能力と運搬能力だけでなく、レーヴァを製造する能力がある。

 現在投入されている戦力の何割かはここで生産したもので、その為にエネルギーを使っていたようだ。


 意識してレーヴァのコントロールに指示を出してみる。

 稼働中のレーヴァを要塞近辺に集結させて。そう思うと受諾という文字が表示され、画面に表示されていた戦闘中兵士が0に変わる。

 同時にガルンドルンから連絡がきた。


―なにかやったな?敵の半数以上が撤退を始めたぞ―


―ジャガーノートを押さえることに成功したと思いますが、まだ、断言できないので慎重に進んでください―


「アレン、状況は?」


 ローズが僕に問いかけた。


「いまガルンドルンから連絡が入った。ここから『魂無き』レーヴァはコントロールできるみたいだ。

 ケイニスのレーヴァ部隊は、先の戦闘でかなり数を減らしていたようだけど、ここからが正念場だ。

 ここを僕たちが抑えてることが敵にも知られたはずだから、多分奪還に動くはず。ここに敵が大挙してくるよ」


 そう言いながら僕は要塞の外部からの進入路になった後部ハッチを閉じる。

 左右の梯子の所にもハッチがあることを確認したが、ここから制御できるものではなさそうだ。


「要塞内に敵がどれくらいいるかわからないけど、戦力としては多くないはず。

 外のケイニスが入ってくるのを食い止められれば、何とかなると思う」


「ここは出入り口が一か所しかなく、逃げ場はありませんが、防衛にも適しています。

 構造的に多数の兵を配置できませんし、入ってきた敵を集中して叩けば、自然にバリケードになります」


―月の使徒よ、敵が全面的に敗走を始めた。我々は追撃に移る―


 ガルンドルンからの報告に、僕は違和感を感じた。

 全面敗走?撤退する?


―ガルンドルン、敵の動きがおかしい。うまく説明できないけど、追撃は慎重に!―


―我々の領土を侵した罪は償わせなければならない。あとは蹴散らすだけだ心配ない―


 僕は要塞周辺の敵兵の情報を集めようと映像を確認する。

 南壁面側にいた部隊は撤収しているし、要塞周辺に配備されていた部隊もいない。

 要塞周辺にはここからコントロールされている『魂無き』レーヴァが集まりつつあった。


「いまのところ、ここに敵が来る様子はないぞ」


 扉脇からパーシバルが言う。


 少し考え込む。

 この要塞を回収は恐らくできないとケイニスもわかっていた。

 このタイミングで撤収……ちがう、これは予定されていた撤収だったんだ。

 僕は使用可能な砲塔の情報を表示させる、使用可能なのは前方中央2番で、発射方向は正面に対して60度しか射角がない。

 この要塞の後方は、安全な場所だ。


―ガルンドルン、注意して。敵の伏兵がいる可能性がある。攻撃は空から来るかもしれない―


 敗走する部隊はこの要塞の後方、つまり彼らの上陸地点側に向かっている。

 再び要塞の操作に集中し、コントロールをロックする方法を探す。

 複数の操作盤が階層的な構造になっていて、目的の機能がなかなか見つからない。

 少し探すと、それらしい項目を見つけた。


 使用者制限という項目を発見し、そこに現在の使用者を正規の使用者と定める手順があった。

 僕はそれを実行する。

 軽い電気ショックのようなものを感じると、完了と表示された。


「コマリ、ここに座ってみて、要塞が動くか確かめてくれる?」


 僕はコマリと入れ替わり、コマリが先ほど度同様に操作を試みるが、


「全く反応しません。何かなさったのですか?」


「うん、とりあえず動かせなくした。コマリ、次元扉(ディメンジョンドア)でこの要塞の後方に直接転移できる?」


「できると思いますが、全員は無理です。私を含めて4名までしか転移できません」


「ローズ、パーシバル、メクトラス。悪いけど僕たちは先に外に出るから、捕虜を連れて追いかけてきて。要塞後方に進む。

 コマリと僕とザックは外に出て敵を追いかけるよ」


「追跡でしたら私も同行した方が良いのではないですか?」


「その通りなんだけど、連絡役が必要だ。ローズに残ってもらうしかないんだ」


「分かりました」


「コマリ、お願い」


 コマリが頷いて呪文の詠唱を始める。

 地面に輝くルーンが現れ、ゆっくりと光の扉が形作られた。


「成功しました。外に出られるはずです」


 僕はコマリに頷き、一歩、その光の扉へと踏み出した。




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